243話 おもしろくない存在。※
お待たせしました。
現実は厳しいですね。いろいろと。
では、別視点。
本日もよろしくお願いいたします。
「あ〜! やっと着いたぜ〜! 腰いって〜!」
曇り空の下、所狭しと詰められた大型馬車の荷台からいくつもの人影が降りる。
そのひとり、冒険者パーティー〈熱き血潮〉のリーダー、光剣士のユースはそう言って伸びをして、バキバキと固くなった体を解きほぐした。
「もう……! やめてよ、ユース……! こんな大勢の前で、恥ずかしいったら……!」
「ハッハッハ! まあまあ、いいじゃないか。プリス。なにせこれからが本番だ。しっかり動けるようにしておくのは大事だぞ?」
「つ、ついに来たんだね……! ドルギガ山岳地帯……! これが、ドラゴンや巨大級もいるかもしれないっていう、魔境……!」
パーティーの最年少、風魔法使いマジクが緊張した面持ちで見上げるのは、人々の侵入を拒むかのような険しい山々。
そして、同じように多数の冒険者が思い思いの表情で見上げていた。これから自分たちが魔物討伐のために挑む山を。
「よっし! 完璧に体はほぐれたぜ! これで準備は万端! 見てろよ……! あんな成金野郎どもなんかに俺は負けねーからな……!」
パーティーメンバーから離れていたユースがもどってくるなりにらみつけたのは、大型馬車に詰められた自分たちとは違い、離れた場所で専用の個人馬車から降りる、見るからに上質な装備に身をつつんだ幾人もの冒険者たち。
「あれが王都における精鋭冒険者たちか……」
「はい……! 頼もしいですね……! ロトルさん……!」
「なんだか、雰囲気からしてボクたちとは違うよね……」
「あー! うるせー、うるせー!」
ロトルを除き羨望にも似たまなざしで見つめる仲間たちに、ユースはことさらに大声を張り上げた。
「はじまる前からのまれてんじゃねーよ! こいつら全員ぶっちぎって、俺たちが一番になる! そんぐらいの気合いがなくて、どーすんだよ!」
馬車と装備。それはそのまま、いまの自分たちとあの冒険者たちとの立ち位置の差。
選ばれた光である自らの力に絶対的な自信をもつユースには、それがおもしろくない。
そして――
「あっ! みんな着いたみたい! えっと、どうする……うん! とりあえず登りはじめていいんだね! わかった! ノエル! そっちも気をつけてね!」
――ユースにとって、いま最もおもしろくない存在が、その姿をあらわす。
「はじめまして。みなさま。闇の勇者ノエルにいさまのパーティー〈輝く月〉に、このたび新たに加入いたしましたネヤ・レイスともうします。クラスは【魔糸の繰り手】。どうぞお見知りおきを。本日は、よろしくお願いいたしますね」
「ロココ。【呪紋使い】。よろしく」
「【黒元の精霊魔女】ディシー・ブラックリングだよ! 今日はあたしがみんなのリーダー、う〜ん? ちょっとちがう……? あ! 引率を務めるから、よろしくね!」
居並ぶ冒険者の面々に向けて相対し、思い思いのあいさつをした少女たち。
王家から貸与された転移と通信、それから拡声の魔道具の使用。他の冒険者と一線を画すそれぞれに永続強化された装備。いまこの場で最上位の冒険者がだれか、わからないものはいなかった。
――もちろんそれは、歯噛みするユースも例外ではなく。
「わあ……! あの子たちみんな、すごい綺麗で、可愛い……!」
「あれが〈輝く月〉か……。なるほど。ただものではないな。だが、噂の闇の勇者の姿が見えないようだが?」
「へっ! 大方、王都に残って豪遊でもしてんじゃねえの? 女にばっか戦わせていいご身分だぜ! 闇の勇者のやつ……! 本当に可愛い娘ばっかりはべらせやがってよ……! どうせ光の俺より実力は下のくせによ……!」
「ちょっと……! いいかげんにしなさいよ……! こんなところで……!」
「プ、プリスのいうとおりだよ……! ユース……! それに、ほとんどただの嫉妬だし……」
「あー! さっきから、うるせー! うるせー! 」
わかっているからこそ心底おもしろくなく、こんな見当違いとわかっている悪態でも、つかずにはいられなかった。
「うる……ひ、ひぃっ!?」
突如として背中に奔った激しい悪寒。ユースは、バッとその圧力が来たほうを振り返る。
すると、ひらひらと、にっこりと笑って手を振る艶やかな長い黒髪の少女と目が合った。
ネヤ・レイス。先ほどそう自己紹介した、着物と呼ばれる一風変わった衣装を身にまとった〈輝く月〉の新メンバーの少女と。
「へへ……! よっし……! やってやるぜ……! 王国の新たな希望の光となる俺がこいつらの中で一番になって……! 闇の勇者の取り巻きなんかやってるあの娘たちの目を覚まさせてやる……!」
そうして、鼻の下を伸ばしながら、メラメラとやる気をみなぎらせるユースは、知るよしもなかった。
「えっと、ネヤちゃん……? その、ほどほどにね……?」
「あら? ディシー。別にわたしはなにも? ただ、わたしのにいさまよりも自分のほうが上だなどと不埒……んん。おもしろいことをのたまう殿方には、やはりそれなりの相手をぶつけてさしあげるべきかと」
「ネヤ。こわい……」
その思わず見惚れるほどに美しく洗練された笑顔の仮面の下に隠した、仲間が恐れをいだくほどに熱く燃え上がる、ただひとりに向けられた情念を。
とにかくここに大規模魔物討伐作戦は、はじまった。各々の決意と思惑を胸に、その先になにが待つのか、いまはまだ、だれも知ることもなく。
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さて。ということで、大規模魔物討伐作戦開始です。
次回「待機」
では、また書き上げ次第。
それでは今後ともよろしくお願いいたします。





