240話 最大で、最高の。
お待たせしました。
本日もよろしくお願いいたします。
「ふ、ふふふ……! ふふふふふ……!」
「っ!?」
僕につきつけられた切先の下。その赤い瞳の奥に激しい怒りの炎が宿り、大量の魔力がほとばしった。
思わず反射的に下がり、その場から距離をとると、僕は手放した自分の闇の聖剣を手にとる。
「この場は僕の勝ち、ですって……? なめられたものね……! いいわ……! そんなにあたしの、いっさいの手かげんなしの本気が見たいのなら、見せてあげる……!」
ふたたびフラレムの手にもどった火の聖剣が、赤く激しくまばゆい輝きを帯びる。
「ただし……! 後悔しても知らないわよ……! さあ、見なさい……! これがあたしの真の力……! 【極光――」
「ふぅ〜〜。やーめとけって、お嬢」
――突如として聞こえてきたのは、男の飄々とした声。
バッ、とフラレムと僕が同時にそこに視線を向ける。空中に、浮いていた。両足の下に炎の玉を灯したコートを着た灰色の髪の男が。口もとで美味そうに香り煙草をくゆらせながら。
いったいいつからそこにいたのか、暗殺者クラスの僕がまったく気がつかなかった。いくらフラレムとの戦いに無我夢中だったとはいえ。
「グレイル! あんた……! はぐれたと思ったら、突然あらわれて、なにをいってんのよ! なにも知らないくせに!」
「いーや、見てたぜ? フラレムのお嬢がこっちの闇の勇者サマにやられるところもバッチリな」
「なっ……!?」
男の言葉に、かぁ〜っと赤くなるフラレム。どうやらふたりは見知った仲らしい。怒りのままにまくしたてるフラレムを、炎の玉を消し、地面に降りたった男はいともたやすくなだめる。
「ふぅ〜〜。よかったじゃねえか、お嬢。【極光】、まだ制御が完全じゃないとはいえ聖剣――神聖武具の奥底に眠る真の力に開眼して、最強の勇者はこのあたしだって近ごろ自惚れまくってたお嬢でも、やりようによっちゃあたやすく殺れるって、こうして知れてよ。……もしこれが実戦だったら、さっきので本当に終わってたぜ?」
香り煙草を吸いながら、一歩ずつ近づいてくる男。
そこでフラレムは、ハッとした表情で僕を見た。ちらりとそれを横目で見てからすぐそばまでやってきたグレイルと呼ばれた男と、僕はついに正対する。
「ふぅ〜〜。とまあ、解説はこんなところでいいか? 闇の勇者、あー、えーっと、ノエル・レイス?」
「え、あ……。う、うん……」
「あ、あんた……」
いや、えーっと、そのとおりなんだけど……なんか、こう、あらためて説明されると恥ずかしいな!?
フラレムもさっきまでの怒りがすっかり抜けちゃったのか、迸る魔力も霧散して、頬を赤くしてなんともいえない表情してるし。
「ふーん……。っと、そういや自己紹介がまだだったな。俺はグレイル。まあ火の勇者であるフラレムのお嬢のお目付け役ってとこだな。でーー」
にこやかに握手を求めてきたグレイルの目つきが、その瞬間すっと細まった。
「攻性一、【灰火炸花】」
「う、うわあっ!?」
「ちょ、ちょっと!?」
つぶやきとともに男の体から落ちる火花と、次いで生じる炸裂音。僕は、剣からとっさに巡らせた闇でそれを防ぐ。
それを見て、グレイルはニッと笑顔を見せた。
「ーークラスは赤元の精霊魔士のグレイル・アッシュクロフだ。はは。悪い悪い。ま、いまのはさっきフォローしてやったぶんの貸しのかわりだとでも思ってくれや」
い、いきなりなんだよ……! このひと……! ぜんぜん本気じゃなかったみたいだけど、第一貸しって、借りもなにも……!?
「ふぅ〜〜。お前さん。どうもさっきの自分の行動の真意を俺に説明されちまったことが気に食わねえようだが、ひとつ覚えておくといいぜ? ちゃんと伝えねえとうまくいかねえどころか、こじれてとりかえしがつかなくなっちまうことが、世の中には山ほどあるってな」
そこでグレイルはフラレムに目を向ける。
「ふぅ〜〜。特にこのフラレムのお嬢なんて、たいして頭よくねえんだからよ。はっきりいってやらねえと」
「ちょっと待ちなさいよっ!? グレイルっ!」
目をつりあげて抗議の叫びをあげたフラレムは、すっかりもとの様子にもどっていた。
――僕と仲たがいをする前の、“ルノエ・スーレ”とともに遊び、笑っていたときの彼女に。
「ふぅ〜〜。お? もうなくなっちまったか。じゃあ、そろそろお暇しますかね。お嬢、帰るぞ。後続のお偉いさんがたが来るまでの、とりあえずの仮宿はおさえておいてやったからよ」
その二本の指ではさんでいた吸いがらにボッと火が灯ると、瞬く間に灰に変わる。それから、ふたたび両足の下に炎を灯すと、グレイルはその場に浮かび上がった。
「ま、心配しなくてもまたすぐに会うさ。フラレムのお嬢ともどもな」
そして、きびすを返すと、フラレムを待つことなく眼下に望む王都の街へと空中を降りていった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいったら!? あー、もう! ルノーーノエル・レイス!」
グレイルにおいていかれてあわてるフラレムが、ふたたび僕に向きなおった。それからビシィッと指をつきつける。
「今回は……ええい! 今回は、あたしの負けを認めてあげるわ! けど、今回だけよ! 次からはあんたが――いいえ! だれがどんな手段でこようが、あたしは絶対に負けないわ!」
そして、剣に炎を宿し、虚空に舞うように軌跡を描いた。
「絢爛! 流麗! 才色兼備! 真の勇者になるのは、このあたし! 火の大勇者! フラレム・バーンアウトよ! 次に会うときまで、よーくおぼえておきなさい!」
そして、きびすを返し、虚空にその身を躍らせようとするその瞬間――
「……あんたがくれた贈りもの、ちぎって悪かったわね」
――たしかにそうつぶやいてから、飛び降りた。
「フラレム……」
だれもいなくなった高台の上、その右手首につけたままの青い紐状のブレスレットに僕はひとり、目を向ける。
――これが、僕と火の勇者フラレム・バーンアウトとの最初の邂逅、その日にあったできごとのすべて。
そう。これから、数多ある勇者たちとの出逢いの中で、僕にとって最大の好敵手――そして、最高の仲間のひとりとなる、彼女との。
ブクマ、評価、いいね! などの応援いただきありがとうございます。
あたたかい感想もお待ちしています。
マンガBANGでコミカライズ連載中、webから全面加筆修正した電子ノベルが4月28日発売です。そちらもどうぞよろしくお願いします。
さて。ということで、ノエルとフラレム。ふたりの勇者、ひとまずは年長者グレイルのおかげで、なんとか修復可能な関係にもどりました。
ちなみに、正面からガチでやったらフラレムにノエルは勝てません。この段階では。
あと、72.5話を昨日アップしました。72と73の間です。まだでしたら、ぜひ。
次回「影と主従」別視点。事件の後始末回。
では、また書き上げ次第。
それでは今後ともよろしくお願いいたします。





