239話 最低で、最高の。
お待たせしました。
本日もよろしくお願いいたします。
――さて、どうするか。
いまもなお広がり、迫る炎を押しとどめつづける闇。けれど、状況はけっして好転してはいなかった。
「ふっ! ……やっぱりだめ、か」
なぜなら僕は、この闇をいっさい制御することができない。
まとまったかたちに、と意思をこめて刃を振るうもいっさい応えることなく、剣から広がる闇はただ無秩序に増殖するばかりだ。
「さすがに覚醒めたばかりで、そううまくはいかないか」
(【躍る聖火】!)
フラレムのあの域に達するには、どれほどの努力を重ねればとどくのだろう?
この闇の向こうがわにいまもたたずむ、まるで自分の手足のごとく炎をあやつる僕の目標のことを、想う。
そして、だからこそ――勝ちたいと、思う。
増えた手札は、ひとつ。この垂れ流しの、闇。それは、万にひとつ生まれた、勝機。
「勝たせてもらうよ。フラレム。……この一回だけ」
つぶやきとともに、僕は胸のリボンに手をかけた。
「ふん! ようやく少しは聖剣の力を引きだせたってわけね! けど――あたしの炎をちょっと防げたくらいで、いい気になってんじゃないわよ!」
ふたつ結びの赤い髪と、ミニスカートがひるがえる。激昂し、叫ぶフラレムが燃え盛る刃を天高く掲げた。
「その闇! まるごと全部吹きとばしてあげるわ!」
生まれるは、炎、炎、炎。フラレムの意思に呼応し、剣から生まれいずる炎をいっさい広げずに、その刀身へと集める。
まさしくそれは、赤熱する一条の――
「【聖火烈閃】!」
――灼光。
振り下ろされた熱閃。突き進むその暴威は、わだかまる闇をあっさりと貫いた。
そして、その向こうに見たのは、あったのは、
「……!?」
急速にその光と闇を失いつつある闇の聖剣と、かろうじて、そうと判別できるだけの残骸が残ったメイド服。
「ル」
見開かれた目。その震える唇が言葉を紡いだ。
――ここだ。
地を蹴る。まとっていた隠形がはがれるもかまわず全速力で前へ。
「っ、ぁっ……!?」
あらぬ方向からあらわれた僕にかろうじて気がついたフラレムが半ば無意識にその刃を振るった。
その、ぶれて定まらない刃の、手をとり、返し、そして突きつける、喉もとへ――その切先を。
「っぅっ!? ぁ、あぁ、あんたっ……!?」
息を飲み、瞳孔を見開くフラレムに、僕はにっこりと笑いかける。
「ああ、この姿を君に見せるのは、はじめてだね。では、あらためて――はじめまして。火の勇者フラレム・バーンアウト。僕は闇の勇者――そして、暗殺者ノエル・レイス。そして」
これが、君に贈る、せめてもの――二度とは通じない、そしてすべてを利用した、意地汚い、けれど。
「――ひとまずこの場は、僕の勝ちだ」
これが、いまの僕にできる全力だから――それを君にぶつけた。
最低で、最高の恩返しとして。
「あ……ん……た……………!」
――その目の奥に、塗りつぶされた怒りの炎が宿る。
そう。それが、たとえ僕と彼女のあいだに、なにをもたらすとしても――この敗北を、君に。
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マンガBANGでコミカライズ連載中です。そちらもどうぞらよろしく。(内容もちょっとちがいます)
さて。ということで、本人がいうところの最低なやりかたですが、勇者対決はノエルが制しました。暗殺者として。
悪意はいっさいなく、むしろ友情の結果です。フラレムにそれが伝わるかはわかりませんが。
次回「最大で、最高の」
では、また書き上げ次第。
それでは今後ともよろしくお願いいたします。





