237話 激突。闇の勇者 対 火の勇者。
お待たせしました。
本日もよろしくお願いいたします。
「はい。どうぞ」
「うわぁ……! すっごくきれいで、おいしそう……! ほ、本当にいいの……?」
たっぷりと入ったふわふわのクリームに色とりどりの果実が入ったクレープをその女の子に僕は手渡した。
起きる前にふりかけておいた聖水で、肌も服の汚れもすっかりと落ちている。これなら家に帰っても、この子になにかあったなんて、だれも思わないだろう。
おずおずとしながらも、好奇心と期待の隠せないきらきらとした無垢な瞳が上目づかいに僕を見上げていた。
「うん。もちろん。あんな怖いめにあっても、あきらめずに必死で助けを呼びつづけたえらい君へのごほうびだよ」
――そのおかげで、僕はまにあったんだから。
「ありがとう……! かっこいいお姉ちゃん……!」
満面の笑みでクレープをほおばりながら、もう片手で手を振る女の子に、にっこりと笑いかけてからざっ、と背を向ける。
「……ありがとう。待っててくれて」
「別に。なんてことないわ。あたしがあんたの立場でも、きっとそうしただろうし」
「フラレム……」
「……さっさといくわよ。案内しなさい。あたしとあんたの決闘の場にふさわしい舞台へ」
そして、僕たちは、それきり無言のままに歩きだした。
「へえ? 王都を一望できる高台ね? なかなかいい場所知ってるじゃない。見晴らしもいいし、それになにより――ここなら、遠慮なくあんたを全力でぶちのめせそうだわ……!」
いうがはやいか、暮れはじめた街を見下ろしていたフラレムは、くるりと振り返ると腰の刃を抜き放った。
火の聖剣――勇者のあかしたる神聖武具のその刀身は、いまのフラレムの怒りをあらわすかのような燃え盛る炎でつつまれている。
――いまさら、なにをいっても無駄か。
亜空間収納の展開。虚空から右手で僕の勇者のあかしたる闇の聖剣をとりだすと同時に、左手の指先に魔力を集中し、ぶちりとスカートを一部留めている紐をひきちぎった。
あらわになるのは、股下近くまで刻まれた深いスリット。
ざっ、と肩幅近くまで足を広げて、構えをとった。
「へえ? やる気十分じゃない。それでこそつぶしがいがあるってもんよ……!」
――僕が、このメイド服のまま、フラレムと戦うことを選んだ理由は、ふたつある。
ひとつは、いまさらここで僕が男の格好にもどったら、まずまちがいなくなおさらこじれること。……それは、避けたい。
(あんた……! なにからなにまで、あたしをだましてたのね……! 絶対にゆるさないわ……!)
想像の中のフラレムが、いま以上の形相で僕をにらみつける。僕の右手首には、かわらず巻かれた青い紐状のブレスレットがゆれていた。
そして、もうひとつ。このメイド服も、サーシィさん謹製の永続強化素材製であるということ。
暗殺者クラスとしての特性を活かした奇襲をメインとしてきたころなら、隠密性と機動性だけを考慮したいままでの格好でも問題はなかった。
けど、勇者として戦うこれからはちがう。人々を奮い立たせるために、正面からの戦闘を余儀なくされることもあるだろう。
だから、この機会にたしかめておきたい。サーシィさんのつくった永続強化素材のその性能を。
「……はじめる前に、ひとことだけ、いいかな?」
「……なによ?」
怒りと敵意に燃えるフラレムの赤い瞳をまっすぐに見つめる。
「だまして、ごめん。でも、僕はいまでも、フラレムのこと、友だちだと思ってる」
――変化は、劇的だった。わなわなと震え、そのふたつ結びの髪が天を衝いたかと思うと、右腕をふりかぶり、
「いいたいことはっ! それだけねっ!」
ごうっ、と唸りをあげて、まるで意志を持つかのようになめらかに躍る炎が僕を目がけて飛んでくる。
――ここだ。
「【隠形】……!」
衝突の寸前、気配を消し、すばやく僕はまわりこむようにしてその死角にすべりこんだ。そして勢いのまま一気に肉薄し――
「【聖闇破斬】!」
――青と黒の光を放つ刃をその側面から振り下ろす。
「……ふざけてんの?」
「ぐっ……!?」
ぞわり。その瞬間生じた強烈な衝動に従い、刃を途中で止めた無理な体勢のまま、その場を飛び退った。
ごうっ、と一瞬あとに、大量の炎が僕がいた場所を舐める。
「……もう一度聞くわ。ねえ、ふざけてんの?」
静かな怒りの形相でフラレムが、バランスをくずし、がくりとひざをつく僕を見下ろしていた。
ごうっ、と聖剣から生みだした、なめらかに躍る炎を隙なくその周囲にまとわりつかせながら。
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マンガBANGでコミカライズ連載中です。そちらもどうぞらよろしく。(内容もちょっとちがいます)
さて。ということで、両雄激突です。いまのところは、フラレム優位という感じですが、その理由とは……?
次回「お前は、僕だ」
では、また書き上げ次第。
それでは今後ともよろしくお願いいたします……!





