236話 ちぎれ、落ちる。
お待たせしました。
本日もよろしくお願いいたします。
――さて、どうするか。
腕の中の幼い少女。地べたに打ち捨てられ薄汚れたその痛々しい姿に、内からあふれでる怒りをふうー、と大きく息を吐くことで噛み殺す。
そして、すばやく目を配り、あらためて状況を確認した。
少女を抱いた僕の視界に映るのは、三人の男。いずれも素人、武装はせいぜいナイフ……正直、どうとでもなる相手だ。
けど、ここは王都の貧民窟。表層とはいえ、彼らの領域だ。
いつ応援が来るともかぎらないし、それになにより、いまもっとも優先されるのは、この娘を無事に帰すこと。
――なら、いま僕がとるべき手段は、ひとつだ。
「へ……へっへっへ! どうしたぁ! メイドのお嬢ちゃん! だまりこんじまって! 威勢よく飛びこんできたわりに、いまさら怖くなっちまったかぁ?」
「ひぁはは! 安心しなぁ! 幼女趣味のナルシシスの旦那に、お嬢ちゃんみたいな上玉はもったいねぇ! しかるべきルートで、きっちり売りさばいてやるよぉ!」
「じゅる……! でひひひひ! そ、その前にオレたちで、たっぷり楽しませてもらうけどなぁ……!」
いうが早いか、三人の中でもっとも太ったその男は、大きく息を吸いこんだ。
「おぉぉいっ! お前らぁぁぁっ! いまオレたちを手伝えばぁっ! “聖女”サマほどじゃねぇが、上玉とぉっ! 遊べぇるぜぇぇ……え?」
張りあげていた声。そして、ごそごそと周囲で動きだそうとしていた気配が途中で止まる。
男たちの視線は、一点。青と黒の光に、そそがれていた。
――亜空間収納から僕がとりだし掲げた、闇の聖剣に。
「そ、それは……!? ま、まさか……!? せ、せ……!? ゆ、ゆ……!?」
「で、どうする? 勇者を敵にまわすのかな?」
「そ、そんなわけねぇっ!? だって、ゆ、勇者は、おと、ぎゃあっ!?」
一閃。余計なひとことを口にしかけた男の手に握られたナイフの先を斬り飛ばす。
パクパクと口を開けながら、刃をなくした刃物と僕を交互に見つめる男たち。
「……で、どうする?」
「「「ひ、ひぃぃぃぃっ!?」」」
にっこり、と笑いかけてやると、泡を食ったように我先にと三人の男たちはその場を去っていった。
――ふう。とりあえずは、これでいいかな。あいつらの“声”はすでに覚えたし。
口ぶりからして、余罪のありそうなあの三人を放っておく気はなかった。この娘を送りとどけて本来の格好にもどってから、いま覚えた生体固有魔力の波長を探って、きっちり衛兵につきだして――
「【聖火の抱擁】」
「「「ぎゃああああっ!?」」」
――視界の中、その背を見送っていた僕の前で、三人の男たちの体が、燃え上がる。
「「「ああっ!? 熱ぃぃっ!? 熱いぃぃぃっ!?」」」
「ああ……。ちょっと魔力調整ミスっちゃったみたいね? まあでも、死にはしないでしょ。それだけのことはしてきてるんだろうし、きっちり反省するといいわ」
火のついた体で地面にのたうちまわる男たちに冷たく一べつをくれると、そのふたつ結びの赤い髪の少女は、抜き身の剣をだらりと下げて、一歩一歩僕に近づいてきた。
「だいたい、あんたたちが悪いのよ……! いま死ぬほど機嫌が悪いっていうのに、あたしのほうに向かってくるから……!」
その燃えあがるような真紅の瞳が、怒りと憎悪とともに僕を射抜く。
「ふ、ふふふ……! まさか、あんただったとはね……! すっかりだまされちゃったわ……! 弱いふりなんかして、ずいぶんと手のこんだこと……してくれたじゃない……!」
「フ、フラ……レム……?」
ごうっ、と手の中の刃がまとう炎がその勢いを増した。
「あたしと勝負しなさい……! 闇の勇者……! ルノエ・スーレ……!」
――その左手の指先が右手にはめた輪に添えられる。
「あたしは! 絢爛! 流麗! 才色兼備! 火の大勇者フラレム・バーンアウト! あんたのその腐った性根、あたしがたたきなおしてあげるわ!」
そして、まっすぐに刃はつきつけられた。
――引きちぎられた赤い紐のブレスレットと、ぽろぽろとこぼれる涙が落ちるとともに。
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さて。ということで、いろいろと誤解にこんがらがったまま、(メイド服のまま)、闇の勇者“ルノエ”と、火の勇者フラレム、開戦です……!
次回「激突。闇の勇者 対 火の勇者」
では、また書き上げ次第。
今後ともよろしくお願いいたします……!





