234話 青と赤の。
お待たせしました。
本日もよろしくお願いいたします。
「ふっふん! やっぱり建物の感じとかちがうと、こうやって見てまわるだけでもけっこう楽しいわね! さあ、ルノエ! まだまだいくわよ!」
ちゅー、と愛用のカップから手にもつオレンジジュースを麦ストローで吸いあげると、フラレムはふたつ結びの赤い髪をゆらして、僕の前をずんずんと進んでいく。
「ちょ……! ちょっと待ってっ……!」
慣れないメイド服のせいでちょっと足もとがおぼつかない僕は、ロングスカートをちょこんとつまみながら、必死にその背を追いかけていた。
あのケーキ屋をでてから、文字どおり僕は振りまわさ――振りまわされまくっていた。教会、冒険者ギルド、にぎわう市場に人々の憩いの噴水広場。
途中、屋台で香ばしく焼き上げられた串焼きの肉をつまみ、かと思えば、ふわふわのクリームと色とりどりの果実がたっぷりと入ったクレープをたいらげ、そしていま、搾りたてのジュースをその片手に。
いったいあれだけケーキをお腹に入れたあとのどこにそんな余裕があったのか、王都での食べ歩きをフラレムは心から満喫していた。
「おっそーい! ほら! はやく来なさい! あんたがいないと、あたしが道に迷っちゃうでしょ?」
「もう、ひとづかいが荒いなあ……!」
片手を腰にあてて、ちゅー、とジュースを吸い上げて悪態をつきながらも、僕が追いつくのを口もとに笑みを浮かべて待つフラレム。
そして、僕も。
そんな愚痴めいたことをこぼしながらも、この時間を心から満喫していた。
……たぶん、惹かれていたんだと思う。
目に映るものすべてが新鮮みたいに驚き、そのたびにくるくると表情を変え、屈託のない笑顔を見せる、この勝気で、ちょっといじわるで、裏表のない女の子に。
……だから、心からうれしかったんだ。
「はい! これ、あんたに、あげるわ!」
「え……?」
ぐるりとまわってきた王都。その最後となる地区でまばらに広げられていた露店のひとつ。
それを熱心にしゃがみこんでのぞいていたフラレムは、なにかを受けとり立ち上がると僕に片手を差しだした。
おずおずと受けとった僕の手の中にあったのは、青い紐状のブレスレット。
なぜか頬を真っ赤に染めながら、フラレムは口を開いた。
「きょ、今日は助かったわ! あ、あんたのおかげで迷わずにすんだし、そ、その……た、楽しかったし! だ、だから、その……お礼よ!」
『王都でできた、はじめての友だちへの……』
――その最後の言葉は、いまのいままで僕を振りまわしつづけてきた勝気な少女とは思えないほどに、消え入るように小さくて。
だから、僕は。
「はい。フラレム。これ」
すっ、と立ちすくむフラレムの横をすぎてしゃがみこみ、それを受けとり立ち上がると、僕は片手を差しだした。
「え……? こ、これ……!?」
広げた手のひらの上にあるのは、赤い紐状のブレスレット。
「僕からも贈らせてほしいんだ。この王都でできた、はじめての――遠い海の彼方から来てくれた友だちに」
すると、フラレムは、目を丸くして、口もとをもにょもにょと動かし、それから意を決したように――
「……ふふん! しかたないわね! もらってあげるわ! ルノエ!」
――少しだけ目の端に涙をにじませた満面の笑顔で、それを受けとってくれた。
「ふっふん! どう? 似あうかしら? ルノエ!」
「うん。とっても。フラレム」
「ふふん! ありがと! あんたもとっても似あってるわよ? ルノ――」
『い……や……。だれ……か……。たすけ……て……』
――右手におたがいの贈りものをつけて微笑みあう、その幸福な時間に……僕の耳は、その“声”を拾いあげた。
――切羽詰まったような、悲痛に暮れる、か細い“悲鳴”を。
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さて。ということで、“ルノエ”がフラレムと友だちになり……そして、謎の悲鳴です。“ルノエ”は、はたしてどうするのか……?
次回「拾いあげる」
では、また書き上げ次第。
それでは今後ともよろしくお願いいたします……!





