233話 王都案内。
お待たせしました。
本日もよろしくお願いいたします。
「美っ味ぁ〜! このイチゴショートもヨーグルトムースも最っ高ね! あんた、なかなかいい店知ってるじゃない!」
――どうして、どうして、こんなことに?
ひょいぱく、ひょいぱくとテーブルの上に所狭しと並ぶケーキに次々とフォークを突き刺しては口に運びとろんと笑みくずれる、ふたつ結びの赤い髪の少女、フラレム・バーンアウト。
“謎の美少女剣士”とうそぶきながらも火の聖剣を気にせずに使う、本当に隠す気あるの? といいたくなるほどにバレッバレの偽装をした――遠く海の彼方より来訪した火の勇者。
そんなフラレムと、なぜか僕はいまふたりっきりで同じテーブルで向かいあっていた。
(そこのあんた! 助けてあげたんだから、お礼をしなさい! そうね……王都案内でもしてもらおうかしら!)
僕をとりかこむ元貴族ナルシシス・ステーリヤの私兵たちを聖剣のひと振りで蹴散らしたフラレムが口にした、そんなひとこと。
(んー。動いて少し疲れたし、まずは甘いものが食べたいわね!)
そう望むフラレムをそれなら、としぶしぶながら案内したのが、以前妹のネヤとの “デート”で訪れた王都でも評判のケーキ屋だった。
――どうして、どうして、こんなことに?
テーブルにおかれた湯気の立つコーヒーの表面をカチャカチャとかきまわしながらも、僕のため息はとまらない。
――この出会いに運命を感じたのは、事実だ。あの炎をまとい、赤く光り輝く刃を見たときから。
でも、だからこそ、ちゃんとしたかたちで仕切り直したかったのに。
胸にきゅっと結ばれた可愛らしいリボンを見て、また「はあ……」と、ため息をつく。
こんなふりっふりのメイド服を着て、“ルノエ・スーレ”なんて偽物の自分で向き合わなきゃならないなんて……。
「あー! さっきから辛気くさいったらないわね! ほら!」
「むぐっ!?」
また、ため息をつこうと開きかけた僕の口の中に、不意になにかがおしこまれる。思わず噛みしめると濃厚な甘さが広がって、自然と口もとがほころんでしまった。
「あ、美味しい……」
「ふふん! よーやく笑ったわね! それでいいのよ!」
僕に差しだしたのと同じチョコレートブラウニーをひょいとフォークで口に放りこむと、してやったりという笑顔を浮かべてフラレムはこういいきった。
「せっかく無事だったんだから、さっきの奴らのことなんてさっさと忘れて、そうやって楽しめばいいのよ!」
それから、テーブルの上のケーキののった皿をずい、とこちらに押しだす。
「ほら! これもそれもきっと美味しいわよ! 遠慮せずにもっと食べなさい! ここはあたしのおごりなんだから!」
「え……? で、でも、助けたお礼って……?」
「ふふん! なーにいってんのよ?」
ぺろりとひと口、レアチーズをたいらげてから、フラレムがいたずらっぽくバチン、と片目をつぶる。
「最初っから、お礼は、王都案内としかいってないでしょ? このうえ、おごってもらったりなんかしたら、あたしがもらいすぎになっちゃうじゃない?」
――これが、火の勇者フラレム・バーンアウト。
その、どこまでも快活で、まっすぐで、カラッとした裏表のない笑顔を見て――いまはただ、この時間を楽しむのも悪くないな、と僕はたしかに思った。
「さ! これ食べたら、あんたにはあたしのために、まだまだがんばってもらうからね! ふふん! 覚悟しなさい! ルノエ!」
――この勝気でまっすぐな女の子に、ちょっと甘酸っぱいような気持ちで、振りまわされるのも。
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さて。ということで、ルノエ(ノエル)とフラレム、少し打ち解けました。王都案内はまだつづく。
次回「青と赤の」
そして、7日にマンガBANGで橘歩空先生によるコミカライズが開始しました。
本作を再構成した話になっています。とにかくキャラがカッコよく、可愛いので、ぜひ一度読んでいただければ。本作を読んだときの解像度も上がるかと。
では、また書き上げ次第。
それでは今後ともよろしくお願いいたします……!





