231話 どうして、こんなことに?
お待たせしました。
本日もよろしくお願いいたします。
――どうして、どうして、こんなことに?
たったいま自らを助けた、かばうように背中を見せて悠然と立つ、ふたつ結びの燃えるように赤い髪の少女を見上げたまま、きゅっとリボンを結んだ胸の中に、そう問いかける。
それは、意味のない問い。けれど、くりかえさずにはいられない。そしてまた、思い返すのだ。
僕がこんな、ふりっふりのメイド服を着てでかける羽目になった、そのてん末を。
◇◇◇◇◇◇
「ああ……! ああ……! なんと、なんとすばらしいのでしょう……!」
来たる建国祭に向けて開店準備中の〈戦乙女〉王都店内。
とろり、ととろけたような、それはそれはとろけきったような表情でサーシィさんは感嘆の声をあげた。口もとには、満面の笑み――それも、端からわずかによだれをたらすほどにしまりのない。
いつかいつかと願いつづけてきた長年の夢が叶い、まさに幸福の絶頂、恍惚の極みといった様子のサーシィさん。
――もう……! もういっそ、ひと思いに……!
一方の僕は、文字どおり死ぬほど後悔していた。
(うん。僕が着てあげる)
あのとき、僕はたしかにそういった。
(僕は、決めた。〈輝く月〉が強くなるためなら、なんだってやる、と)
あのとき、僕はたしかにそう覚悟していた――そして、思い知ったのだ。
そんな薄っぺらな覚悟、圧倒的な現実の前には、なんの役にも立たないのだと。
――なにが、なにが一番いやかって、それは……!
「わ、わ……!? ノエル……! すごいよ! すっごく可愛いよ! ね、ね! みんな!」
「あ、ああ……。顔立ちからして、似合うとは思っていたが、まさか……、これほどとは……」
「ノエル。きれい……」
「に、にいさま……? いえ、まさか……!? ほ、本当はにいさまは、ねえさまだったのですか……!?」
「そんなわけないだろっ!?」
「ふふ。冗談です。ですが、いけませんよ。にいさま? そのような淑女にあるまじきふるまいをなさっては。せっかくお師匠さまがととのえられた、いまのにいさまの美しさがだいなしになってしまいます」
――淑女でもない……!
囲む〈輝く月〉の仲間たち、くすくすといたずらっぽく楽しそうに微笑む妹ネヤにそういい返すこともできず、僕はそっとそっぽを向いた。
――あ……!?
その拍子に、備えつけられた大きな姿見に映った自分の姿が目に入る。
丁寧に櫛をとおされ、まっすぐにととのえられた黒髪と、それを彩る白のヘッドドレス。不自然でない程度に薄く施された化粧。
体型を隠すそでやスカート丈の長い黒を基調にしたメイド服には、可愛らしい白のフリルがふんだんにあしらわれていて――
バッ、と顔を赤らめ、姿見から目を背ける。
――なにが一番いやかって、それは……!
あれ? 僕って案外――
いや!? ちがう!? ぜったいに、ぜったいに、そんなこと思ってない!?
「ふう……! 堪能いたしました……! ああ、いまここにちまたに耳にした魔力撮影器があれば、このノエルさまのお姿を永久保存いたしますのに……! そうだわ……! 借金してでも、いまからでもなんとか手に入れ――」
「ぜったいやめてっ!?」
「――と、冗談はさておきまして。ノエルさま、本当にありがとうございました。わたくしの長年の夢が叶った今日、この日のことは、一生わすれません……!」
「サーシィさん……」
先ほどまでのある種狂気的ともいえる恍惚とした表情はなりをひそめ、深々と丁寧にサーシィさんが頭を下げる。
――ものすごく後悔してたけど、いろいろとお世話になってる、これからもお世話になるサーシィさんにこんなによろこんでもらえたなら、思いきって着て、よかったのかもしれないな……いや、やっぱりはずかしい……!
「よ、よろこんでもらえてよかった……! じゃ、じゃあ、そろそろ脱い」
「あとはやはり、試さなければなりませんね……。では、名残り惜しいですが、ノエルさまにはそろそろ街にでていただきましょう」
「…………はい?」
え? いまなんて? ――いま、なんていった!?
コツコツと近づいてきたサーシィさんが目の前、僕に向けて手をのばしながら、もの憂げに首を傾げる。
「ここに集ったのは仲間うちばかり。どうしても身びいきというものがあります。わたくしの夢を本当の意味で叶えるためには、やはりなにも知らない第三者に“可愛い”と、いわせなくては――さあ、できました。ではあとは、フェア? まかせましたよ」
一秒でも早く脱ぎたくて僕がゆるめた胸もとのリボンが、サーシィさんの手でふたたびきれいにととのえられた。
「う、うん……! じゃ、じゃあ、まずはとりあえずいっしょに冒険者ギルドまでいこ? ノエルく、はまずいから、え、えっと――ル、ルノエちゃん!」
呆然とする僕の手を、いままでずっと顔を赤らめてちらちらとこちらの様子をうかがっていたフェアさんが握った。
「あ、いいですね。それ。ふむ。フルネームだと、さしずめルノエ・スーレといったところでしょうか? では、がんばって。ルノエちゃん」
「ルノエちゃん! 大丈夫! すっごく可愛いから、自信もって!」
「えっと、その、なんだ……ぶ、武運? を祈る。ル、ルノエ」
「ルノエ。ルノエは、可愛い。だいじょうぶ」
「はい。とてもお美しいですよ。“ルノエねえさま”」
こうして、僕ことノエル・レイスあらため、“ルノエ・スーレ”は、口々に褒めたたえ励ましを送る仲間たちに見送られ、街へと一歩を踏みだした。
いまも顔を赤くしたフェアさんに手をつながれたまま、引っぱられるようにして。
――どうして、どうして、こんなことに?
きゅっとリボンを結んだ胸の中、いき場のない思いとともに、そう何度も何度も問いかけながら。
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さて。ということで、立派な男の娘メイドと化したノエル・レイスあらため、“ルノエ・スーレ”の回想でした。
女性陣のノリは、ほぼ文化祭。つまりノリノリです。
本当は、サーシィは化粧なしの服だけで勝負したいのですが、今回はバレ厳禁なので妥協しました。
それを達成できるさらなる逸材が、いつかあらわれるかも……?
次回「邂逅」
“ルノエ”とフラレム、予期せぬ出会いとなったふたりですが、はたして……?
では、また書き上げ次第。
それでは今後ともよろしくお願いいたします……!





