229話 やーっとついたわ! ※
お待たせしました。
キャラと展開を固めきるのに、ちょっと時間がかかりました。
※三人称別視点。少し長め。
では、本日もよろしくお願いいたします。
「あー! もう! やーっとついたわ!」
バン! と勢いよく扉を開け甲板に駆けでた少女は、すう、と胸いっぱいに新鮮な空気を吸いこむと、うんざりとした気分を隠そうともせずに思いきりそう叫んだ。
ディネライア王国王都近郊のさんさんと太陽が照りつける港町。
所狭しと並んだ船と荷運びや商いに精をだす人々。絶えまない活気にわくその地に、いま一隻の船が到着した。
華美すぎないまでも、あきらかに高貴な身分のものが乗っているとわかる――王国のものではない、異国の装飾が施されたその船から降り立ったのは、ふたり。
「まったく! なんでディネライアくんだりまで来るのに、こんなぐるぐるぐるぐる遠まわりしないといけないのよ! 【大海魔王】のやつ! 我がもの顔で海の真ん中占拠しちゃって! いまに見てなさいよ! そのうち、このあたしが焼き魚にしてあげちゃうんだから!」
燃えるような赤く長い髪をふたつ結びにして耳の上から左右にたらした、まだ幼さの残る顔だちの美しい少女。
その瞳もまた燃えるように赤い。その身の内に燃え盛る激情と決意をしめすかのように。
腰に差した長剣に、胸あてとへそだしのインナーにミニスカート。全体的に赤を基調にした軽装につつまれた剣士然としたその姿は、まだ年若いその外見に見合わないほどに堂にいっていた。
「ふ~~。いやいや、お嬢? 魚じゃねえよ? 麗しの人魚サマだぜ? 見てくれだけは最高の」
香り煙草に火をつけ、美味そうにたっぷりと一服をしてから、ようやく少女の連れの男が口を開いた。
どこか飄々とした態度を見せる、長身で灰色の髪の男。だらしなく着くずしたコートと端正な顔立ちに生やした無精ひげが男の胡散臭さを増していた。
「うっさいわね! グレイル! 気分の問題よ! ふん! まあいいわ! いまはそれより――」
灰色の髪の男に荒々しく返事をしてから、少女はキッと目を細める。
その瞳に映すのは、彼方。肉眼には遠くかすかにその遠景だけを見せる、ディネライア王国王都。
「……ふーん。さすがに建国千年を迎えるだけあって、けっこう栄えてるじゃない。やっぱりあたしの国とは建物の感じとかだいぶちがうみたいだし、美味しいものもいっぱいありそうだし、目的をはたす前にいろいろと見てまわってみるのも楽しいかも――」
――【千視】の名を冠す、かの姫までにはいたらない。しかし、そのあふれでる魔力をその目に集中した少女は、常人をはるかに超える情報をこの遠景からでも容易に入手していた。
「おい! 聞いたか! あの噂! 今度の〝紅キ月ノ夜〟の前に予定された、冒険者有志による大規模魔物討伐作戦! あの闇の勇者パーティー〈輝く月〉が参加するって!」
――少女の眉がぴくりとはねた。瞬時に意識が目から耳へと切り替わる。
「本当か! いやー、これで無事に〝夜〟を乗り越えて、今年の建国祭も盛大に行えそうだな!」
「ああ! なんせあの【死霊魔王】を倒した勇者パーティーだ! 一説には闇の勇者さまは【獣魔王】討伐にもかかわってるっていうし、ドラゴンだろうが巨人だろうが一捻りよ! どうだ? 今日は前祝いに一杯といこうじゃねえか! ガハハハ!」
「おっ! いいねえ! 我らが勇者さまに乾杯といこうか! ワハハハ!」
口々に闇の勇者を、そのパーティー〈輝く月〉を褒め称える人々。
――異国に来た少女にとっては、それがおもしろくない。そう。勇者最強を自負する少女にとっては。
ゆえに。
「いやー、たいした人気だねぇ……って、あ!? おい! お嬢!」
灰色の髪の男の静止を無視して、少女は跳び上がった。そして、空中で抜き放つ。その腰に帯びた、赤く光を放つ炎をまとう刃を。
「お、おい!? なんだ……あれ!?」
「赤い光……!? も、燃えて……!? お、女の子……!?」
十分に自らに注目が集まったところで、手近な船の舳先に降り立った少女は天高く燃え盛る刃を掲げ、朗々と声を張りあげた。
「ディネライア王国の人々! 見なさい! そして聞きなさい! 遠き異国の地ファイエーン王国より我、来たる!」
掲げた刃を振り下ろし、逆袈裟に切り上げ、薙ぎ――細い足場の上でまるで舞うように、そのしなやかな肢体とまとう炎を躍らせる。
「あたしはフラレム・バーンアウト! 闇の勇者じゃないわ! すべての魔王を討ちはたし、あんたたちに希望をもたらす真の勇者にいたるのは、このあたし! 絢爛! 流麗! 才色兼備! 火の聖剣にえらばれた最強の大勇者! このフラレム・バーンアウトよ!」
そして、舞い終えた少女は、最後に一段と声を張り上げた。
「あんたたちがおそれる〝紅キ月ノ夜〟だって、このあたしが吹き飛ばしてあげるわ! だから、安心しなさい!」
ふっ、とその刃にまとった炎がかき消える。
ポカーンと見上げる人々に、少女のその言葉をすべて理解できたものはいない。だが、その威風堂々たる姿と見事な炎の剣舞、そして輝く赤い光を放つ聖剣に気づけば快哉を叫んでいた。
「「「おおおおー! 異国の勇者さまー! 火の勇者さまー! フラレムさまー! どうかこの王国を〝夜〟からお救いくださいー!」」」
ふふん! とやりきった少女は満足げに鼻を鳴らす。
――こうして、遠く海の向こうより、新たなる勇者は来訪した。
「あーあ、こんなに目立っちゃって、よっ!」
「ひゃっ!? ちょっと、グレイル!? なにすんのよ!?」
いつのまにかうしろにいた灰色の髪の男。舳先に立つ少女の体を無造作にひょいっと片腕で抱きかかえると、同時にもう片手で美味そうに香り煙草を一服する。
「ふ~~。なんだじゃねえよ。フラレムのお嬢。後続のお偉いさんがたがつくまではお忍びなんで、勇者バレはご法度だって船の中で散々いって――あれ? いや、いってなかったっけ?」
「きき、聞いてないわよっ!? あ、あんたたち! い、いまのはぜんぶなし! いいわねっ!?」
そうして、ポカーンと人々が見上げたまま、首を傾げる男とともに脇にかかえられたまま耳まで真っ赤にした少女は去っていった――尾を引く炎のあとを空中に残しながら。
――こうして、新たなる勇者一行は来訪した。そこはかとなく、一筋縄ではいかない空気をただよわせながら。
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あたたかい感想もお待ちしています。(展開予想とかだと、うまく返信できないかもしれませんがご容赦ください)
さて。ということで、絢爛! 流麗! 才色兼備! 火の大勇者フラレム・バーンアウト本格登場でした。以前は154話にちょっとだけでています。あと、大勇者はフラレムが勝手にいっているだけで意味はありません。
お付きのグレイルは初登場。最初はクール系美少年でしたが、フラレムとの兼ね合いを考え、最終的にこうなりました。彼のクラスとかの詳細はまたいずれ。
この1話でだいたいのふたりのキャラが伝わっていたらいいなあ、と思っています。
では、また書き上げ次第。次回もたぶん別視点でお送りします。
それでは今後ともよろしくお願いいたします……!





