227話 ほかにいない。
お待たせしました。
本日もよろしくお願いいたします。
※今回の展開にあわせて、225話の内容を一部修正しました。
「なぜなら、わたくしはすでに冒険者を引退した身。そして、わたくしが王都に来た理由は、先ほどももうしあげたとおり、〈戦乙女〉二号店を開くため」
「あ……!?」
ブラッドスライン家のリビング。そのサーシィさんの言葉に、立ったままだった僕の“妹”ネヤの体がゆらいだ。
「ええ。そうです。いまネヤさまにわたくしが“無手”の技を教えていては、開催まで残り一か月をきった建国祭前に開店準備を終えることなど、とてもできません。自慢ではないですが、いまのわたくしには人手もありませんので」
「もうしわけ……ありませんでした…….! わたし、わたし……! 自分のこと、ばかりで……!」
目じりに涙をためながら、深々とネヤが頭を下げる。着物の端を指でつまんだその体は恥じいるように震えていた。
そんなネヤに向けて、サーシィさんはゆっくりと首を振る。
「いえ。わたくしこそ、せっかく頼っていただけたのにお役に立てず、もうしわけありません。ですが、ここは王都。冒険者ギルドの中には、必ずやネヤさまのお眼鏡にかなう“無手”の達人もいるはずです。微力ながら、わたくしにもぜひそのお手伝いをさせてください」
そして、「どうぞ顔をあげて」とネヤにことわってから。
「ふふ。こう見えて、わたくしひとを見る目には自信があるほうなのですよ?」
と、茶目っ気たっぷりに微笑んだ。
「サーシィさま……!」
「うんうん! 一時はどうなることかと思ったけど、よかったね! ネヤちゃん!」
「うん。ネヤ。よかった。サーシィにまかせれば、きっと大丈夫」
「ああ。これでネヤはまた一段と強くなれるだろう」
――いや、ちがう。サーシィさんしか、いない。
ディシー、ロココ、ニーベリージュ。まとまりかけた話に僕以外の〈輝く月〉の面々がそれぞれにネヤに向けて安堵と祝福の言葉を口にする。
――けれど、僕の直感は告げていた。
たしかに冒険者ギルドの中には、腕だけなら匹敵する使い手もおそらくいるだろう。けれど。
(……千眼千手)
(ふふ。冒険者時代から察しはいいほうなので)
すべてとはいわない。けれど、このわずかな空間なら、あの神のごとき“眼”にもっとも近しいものを視ることができるのは、ネヤにとって最高の師匠は――サーシィさんをおいて、ほかにいない。
――だから、僕は。
「いや、だめだ。サーシィさん。あなたにはいますぐにでもネヤに“無手”の技を教えてもらう師匠になってもらう。そして、もうひとつ。ネヤのために永続強化した冒険者衣装もつくってもらうよ」
「ノエル……にいさま……!?」
「……ふふ。これはどうしたことでしょう? らしくないほどに、ずいぶんと高圧的な物言いですね? ノエル・レイス」
口もとだけに弧をえがいた、まったく笑っていない眼鏡の奥の赤い瞳が僕を射抜く。
「ねえ、僕と取引をしない? サーシィ・サーザード」
それに対し、あえて僕は余裕たっぷりの笑みを返した。
――だから、僕は切り札を切る。〈輝く月〉のために、なんでもすると決めたのだから。
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はい。ということで、会話劇一話延長しました。そして、一触即発の最後の交渉開始です。
あとフルネーム返しがしたかったので、225話の内容を一部修正しました。基本的にだいたい名字は音の響き重視で考えています。意味を持たせたりもしますが。
余談ですが作者がいままでで一番好きな名前は、第9十刃アーロニーロ・アルルエリです。名のり含めて好き。キャラとしてはそれなりです。
次回「夢の取引」
では、また書き上げ次第。
これからもどうかよろしくお願いいたします……!





