226話 師弟。
お待たせしました。
本日もよろしくお願いいたします。
「あれ? そういえばサーシィさんって、フェアさんだけじゃなくて、フーディーさんともつきあいがあるんですか?」
「あ! それ、あたしも聞きたい!」
ひととおりフェアさんとフーディーの父娘喧嘩ともつかないやりとりが終わったところで、僕はふと疑問に思ったことを口にする。
パッ、と手をあげて追随したディシーと僕にこたえ、サーシィさんが話しだす。
ちなみに、おたがいにやりあい疲れたらしいフェアさんとフーディーは、そっくりな動きでそろって目の前のカップを口もとに運んでいた。
「そうですね……。まあ、いろいろとあるのですが、いま一番ノエルさまたちにわかりやすいのは――」
「――師匠。私」
それまでだまって直立不動で立っていた、うしろになでつけた茶色の髪から一房だけ前に垂らした長身の女性がすっ、と前にでて「ええ。そうですね」とうなずいたサーシィさんのとなりに立つ。
……って、え? 師匠?
「さっきから気になっていた方も多いと思いますので、ご紹介します。この娘はエイ。いまはフーディーの護衛をしていますが、冒険者時代のわたくしが得意とした“無手”の技を徹底的にたたきこんだ愛弟子になります」
……え? “無手”?
「……よろしく」
そのサーシィさんの紹介を受けて、つぶやきながら軽く頭を下げるエイさん。
「まあ、見てのとおり口数は少ないのですが、とってもいい娘なのですよ。前にノエルさまたちにもお話しした、わたくしの飼っている雪白蚕のミルクちゃんの世話を糸にくんずほぐれつあられもない姿でからまりながらも積極的にしてくれたり」
「!? 師しょ――」
「サーシィさま!」
と、そのとき、どこまで本当なのかわからないくらいおもしろおかしく脚色しながら、愛弟子とのとっておきの逸話を語ろうとしたサーシィさんの声がさえぎられた。
顔を真っ赤にして止めようとした愛弟子のエイさんよりもさらに先に、バッと席を立ってそのまま深々とサーシィさんに向かって頭を下げた人物。
「お願いです! どうか、わたしに“無手”の技を教えてください! 少しでもあの域に近づくために……! どうか、わたしのお師匠さまになってください……!」
――その声は、少女然として震えて必死で。その洗練された所作は、“花”として流れるように美しく。
いまの自分の精いっぱいをもって懇願しつづける僕の“妹”ネヤによって。
「なるほど。お話はわかりました。ネヤさまが昨日見たという至高の域。たしかに独学で到達するのは至難でしょう」
身ぶり手ぶりを交えながら必死にその熱意を伝えるネヤの話を聞き終えたサーシィさんはそうつぶやいた。
「なぜその方に師事しようとしないのか? とはあえて聞かないでおきましょう。まあ大方の事情は察しがつきますし」
あいかわらずの異様なまでの洞察力で見透かすように告げるサーシィさんが僕の“妹”ネヤをまっすぐに見た。
「ですが、貴女の願いに答えることはできません」
そして、あっさりとひとことで切って落とした。固く信念をその眼鏡の奥の赤い瞳にたぎらせて。
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ということで、師弟でした。生真面目なエイは、修行時代からサーシィにいいようにやられ(可愛いがられ)ています。店のフリフリの試作品をメイクばっちりで着せられたりとか。
さて、あっさりと断られてしまったネヤですが、この状況を覆すには、はたして……?
次回「ほかにいない」
では、また書き上げ次第。
これからもどうかよろしくお願いいたします。





