223話 【広域隠形・零式】。
お待たせしました。
本日もよろしくお願いいたします。
う……? ここは……ブラッドスライン家の僕の部屋……?
薄く開いた僕の目に映ったのは、よく知る場所のまだ薄暗い天井だった。
(光の聖剣に選ばれなかった私がそれでも王国の敵と戦いぬくために編みだせし、我が奥義で……!)
そうだ……! 僕は、シルヴァナの奥義に敗れて……!
「ぐ、ううぅ……!」
跳ね起きる。傷や痛みは回復薬で治っているみたいだけど、妙なだるさが体に残っていた。
けど、だめだ……! もう悠長になんてしていられない……! いますぐにするべきことがある……!
「【広域隠形・零式】……!」
起きぬけの体に鞭打って、大量の闇の魔力を部屋全体にはりめぐらせる。常日頃使っている、ただ気配を消すだけのものとは比べものにならない、超高精度、高密度の隠形。
まさにその名のとおり、一定時間ならば、この中でなにが起こってもだれも気がつかないような。
そう。だから――
「わああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」
―― ベッドの中、両手で頭をかかえながら声のかぎりに絶叫し、何度も何度も左右に転がり身もだえる。
「な、な、いったいなにを考えてたんだっ!? 僕はっ!?」
脳裏によぎるのは、声にはださなかったまでも、きっと端々から痛々しくにじみでていただろうその数々の“言動”。
(だが、“威圧”を持たない以上、ニーベリージュには劣る)
「ちがうだろっ!? なんだよ訓練相手って!? そんな一方的じゃないっ! たがいに強くなろうって誓った大切な仲間だから、ニーベは僕につきあってくれるんじゃないかっ!」
(だから、やっぱり最初に思ったとおり、僕の糧にはなりえない)
「いや、糧ってなんだよっ!? なんでそんな傲慢なのっ!? なんでぜんぶ自分のためにあるみたいに勘ちがいしちゃってるんだよっ!?」
あらんかぎりの声で、叫ぶ。じたばたと何度も何度も左右に転がった。
「そうだ……。勘ちがいだったんだ……」
ひととおりベッドの上で暴れまわった僕は、片手で顔をおさえながら少しだけ明るくなりはじめた天井を見上げていた。
(ならば、触れるがよい……! この王国のはじまりより伝わりし至宝、闇の聖剣に……! 幾星霜を経て現れし、新たなる継承者よ……!)
きっと、あの夜からだったんだと思う。聖剣の間で、王に“千年待ち望んだ闇の勇者”と呼ばれ、闇の聖剣を引きぬいたあのときから。
――僕は、自分を“特別”だと思うように、なっていったんだ。
(【破光を刻む銀時計】!)
「それにしてもシルヴァナの奥義、めちゃくちゃだったな。手段をえらばないにもほどがあるっていうか……」
脳裏をよぎるのは、いくつもの銀の光条。昨夜刻まれたそれと、もうひとつ。
(【輝く月・昇華連鎖爆撃】!)
あの日、僕たちが命がけでつないだ、なによりもまぶしい青い“月”の輝き。
「……ああ。そうか。そうだった」
ゆらりとベッドから立ち上がると、立てかけたその刃を握った。
「あのときの僕たちのほうがもっとずっとめちゃくちゃだった……!」
(征くぞ! 英霊よ! 私とともに! はああああああっ!)
(拡がり、踊れ! 穿ち、抉れ! 尽く!)
(導き束ね、ひとつと成せ! 【青幻の月】!」
文字どおりの死力をつくした戦いとともに、ふたたび胸の中に熱が、火が灯る。
手の中にあるのは、青と黒の――はじめて手にしたときから、なにひとつ変わりばえしない“光”。
「……いいさ。こんな聖剣、ただの武器だ」
僕の戦術の要であるレイス流暗殺術のさらなる向上。魔力操作の洗練。量の増加。強くなるためにできることは、いくらだってある。
そして、なによりも――
(“無手”の技は、あの域にいたれるのですね……!)
――ネヤを。〈輝く月〉そのものを強くすれば、いい。
……もう二度と迷わない。けっして見失わない。誓いとともに、虚空に刃を振るう。
「僕は、闇の勇者。レイス家現当主の最強の暗殺者。そして、〈輝く月〉のリーダー、ノエル・レイスだ! 僕が、僕たちが強くなるためなら、なんだってやってやる!」
ガチャ。
「ノエル? ノックに返事がないが、まだ寝ているのか? 体は大丈――」
――目があった。
扉を開け放ち、入ってきたばかりのニーベリージュと、ちょうどタイミングよく剣を振り終え、まるで部屋でひとり決めポーズをとっているかのような僕の。
数秒の、沈黙。
「……ふ。気がすんだら、下りてきてくれ。めずらしくも好ましい来客があってな。きっと君もおどろくだろう。では、邪魔したな」
微笑ましいものを見るかのように目を細めてから、いまだ【広域隠形】の効いた部屋をふたたび扉をしめて去っていくニーベリージュ。
……カラン。ぼすっ。
「わああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」
――そして、聖剣を手放し、叫びながら転がる僕がふたたびベッドから立ち上がるには、ゆうに十往復を要したのだった。
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ということで、ノエルくんやらかし、そしてふっきれました。だいたい、ノリノリで部屋でひとりエアギターをかき鳴らしていたところを、年上のちょいあこがれてた起こしにきた隣人の美人お姉さんに目撃されるイメージです。
次回「再会」
では、また書き上げ次第。
これからもどうかよろしくお願いいたします。





