222話 選ばれなかったものの力。
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本日もよろしくお願いいたします。
「レーヤヴィヤ姫の御技に手も足もでなかったとはいえ、まさかそれを私の実力のすべてと思ってもらっても困るからね」
カシャン。
城を囲む外壁、その裏手。
大げさに肩をすくめながら、独特の金属質な足音とともに僕たちの前を歩く。
「王国正規軍である騎士団は国防の要、いわば盾だ。もうすぐ予定されている大規模魔物討伐作戦でも、冒険者身分である君たち〈輝く月〉とちがって、おそらく出番はないだろう」
カシャ――
「つまり、こうして無理やりにでも機会を設けなければ、力をしめすことなどできないということだ」
――そして、少し開けた場所でその足音が止まり、振り返る。
白銀騎士シルヴァナ。ちょうど逆光に照らされて、その口もとがただ弧をえがいていることしか見えない、僕の決闘相手が。
「でも、だからって、飲みほした回復薬を瓶ごとぶっかけるなんて、ちょっとひどいよ! シルヴァナさん!」
「うん。おかげでノエルの一張羅がだいなし」
「この花、慎んでお返しします。わたしのノエルにいさまを貶めるようなかたから受けとるつもりなど、毛頭ありませんので」
「両姫さまがたが去られたと同時にこの行い、これが本当に騎士としての君の流儀だと? 返答次第では、私の相手もしてもらうことになるが?」
「お、おねえちゃん……!」
ひとり奥に立つシルヴァナへ向かって、少し下がって僕のうしろに立つ女性陣から、いっせいに糾弾の言葉と視線が投げかけられる。
だが、それを受けてシルヴァナは、さらにその口もとの弧を深く深くつりあげた。
「はは……! これは、とんだ悪役になってしまったものだね。でも、まずは待ってもらえるかな? 我が愛する妹分たち。その怒りと誤解に私があふれんばかりの愛を説き、色とりどりの花咲く笑顔に変える前に」
シルヴァナの手が腰の剣に添えられ、ゆっくりとその白銀の刃が引きぬかれていく。
「まずは、この決闘を終わらせようじゃないか。闇の勇者ノエル・レイス」
「……ああ、そうだね。白銀騎士シルヴァナ・ゴルディール。さっさと終わらせよう。こんなくだらない時間の無駄は」
応じて僕も、青と黒に光る闇の聖剣を引きぬいた。
「「「ノエル……?」」」
「にいさま……?」
「ふふ……! 無駄かどうかは、終わってからにしてもらおう! いくぞ! 騎士剣術、【討魔破斬】!」
「ああ、すぐにね! 【聖闇破斬】!」
こうして、たがいの魔力のぶつかりあいとともに、僕とシルヴァナの決闘は幕を開けた。
……困惑にゆれる少女たちの声を背に。
「はああああっ!」
「うおおおおっ!」
何度も何度も、激しく刃と刃を奔らせる。
……たしかに強い。その洗練された剣技。生まれもった光属性の膨大な魔力。王国騎士団副団長をこなすだけはあるだろう。だが、“威圧”を持たない以上、ニーベリージュには劣る。
だから、やっぱり最初に思ったとおり、僕の糧にはなりえない。
「ははははは……! 思ったとおり、実に、実に醜いな……! 闇の勇者……!」
「……は? いきなり、なにさ?」
何度目かの衝突の直後、二歩三歩とうしろに下がり距離をとったシルヴァナが突如声をあげて笑いだす。
「こうして本気で剣を交えれば、いやでも理解るというものだ……! 貴様がいま、どれほどおごりたかぶっているのか……! 私を、いや自分以外のすべてを見下しているのか……! その剣に選ばれた自分が、まるで世界の中心ででもあるかのように……!」
シルヴァナが抜き放っていた剣を鞘にもどした。
「その不遜なる思い上がり、いま正してくれよう……! 光の聖剣に選ばれなかった私がそれでも王国の敵と戦いぬくために編みだせし、我が奥義で……!」
亜空間収納の展開。ゆがんだ空間から、その左手がきらめくなにかをつかみとる。
「ま、まさか……!? おねえちゃん、本気で……!? だめっ! ノエルさん! 逃げ――ううん、全力で受けてぇっ!」
「さあ、その身で存分に味わえ……! これが魔王にさえとどきうる力! 副団長シルヴァナ・ゴルディールが奥義!」
「くっ……!?」
ぞわり、と強烈な悪寒がはしり、僕は手にもつ聖剣の光を最大限に吹き上げた。
悲鳴のようなステアの絶叫が響く中、シルヴァナが手にしたなにかを放り投げ、同時に駆ける。
空間がゆがみ、僕の視界がいくつもの鈍く光る銀色に染まった。
「【破光を刻む銀時計】!」
直後、たて続けに起きた轟音と衝撃があたりを支配した。
「う……!? あ……!?」
カランと手にした聖剣をとり落とし、うめきながら僕は糸の切れた人形のように力なく地面に倒れ伏す。
「六本か。万が一にも死なないように加減したとはいえ、まあよくもったと褒めておくべきか」
かすみはじめた視界の中、その姿を見上げる。ひざをついたシルヴァナの手がのばされ、ぐいっと強引に僕のあごが持ちあげられた。
「う……。く……」
「無様だな。敗者。だが、極めて不本意かつ不敬ではあるが、一度だけ告げよう」
そして、もうろうとする意識の中。目と鼻の先。まっすぐに見つめたシルヴァナのその紅をさした唇が動く。
「いいかげん、その聖剣に振りまわされてないで、一度本来の自分に立ち返ってみたらどうだ? 魔王より我が最愛の妹ステアを救いし男、ノエル・レイス」
「シ……ル……ヴァ……?」
つかんだ手を離され、今度こそ完全に意識が落ちる間際に見たその顔は真剣そのもので――わずかに涙に濡れているようにさえ見えた。
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ということで、いろいろとブレブレなノエルくん、負けました。
シルヴァナの奥義は、あるリスクを負っているため、絶大な威力があります。全容はいずれ。この断片描写でも、なんとなくわかるひとにはわかるかも。
次回「【広域隠形・零式】」
では、また書き上げ次第。
これからもどうかよろしくお願いいたします。





