220話 千眼千手。
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「ふっ……!」
陽の光に照らされながらも、けっしてそそぐことはないという“特別”な処理の施された小庭園。
鋭い呼気とともに、姉姫レーヤヴィヤがロングスカートを魔力をこめた指先で軽くなぞる。
ぱらり、とそこだけ留めていたひもがちぎれ、動きを阻害しないように股下近くまで刻まれた深いスリットとその先の艶めかしくしなやかな脚があらわになった。
その指先、そして両手には、物理的な作用すらともなった濃縮した魔力が備わっている。その隙のない立ち姿は、まちがいなく達人級。
……考えてみれば、なにも不思議なことはなかった。
僕は、レーヤヴィヤの挙動を見逃さまいと、じっと見つめつづけている“妹”へと視線を向ける。
そう。ネヤと同じだ。花護術【花摘ミ手折リ】。元レイス家の”真花”であるネヤが自らの身を守るために研鑽しつづけてきた技。
それからふたたび、しなやかな脚で立つ姉姫レーヤヴィヤへと視線をもどした。
それと同じように、ディネライア王家の姫、それも秘匿された闇属性の遠視――いや、それすらも隠し名の【千視姫】であるレーヤヴィヤは、その“無手”の技を極めてきたというだけだ。
ただ、ちがうのは――
「あ、あの……。ノ……さん……。そ、そんなに……脚ばっかり……じぃっと見られ……と……。は、恥ずか……しぃ……です……」
頬を赤らめながら、消え入るようにこぼした姉姫レーヤヴィヤのその言葉に、まわりをとりかこむ女性陣がいっせいに僕に向けて振り返った。
「「「ノエル?」」」 「ノエルさん?」 「ノエルにいさま?」 「ノ〜エ〜?」
「ご、ごめんなさいっ!」
ばっ、と精いっぱい頭を下げると、やがてみんなの視線が外れる気配がした。
――いや、あの、えっと、あ、そうそう。で、ネヤとちがうのは、その実力も能力もはるか高みにあるということだ。
正対しているわけでもない、ただ遠くでほぼ背景として見ているだけの僕のこんな小さな挙動ひとつですらも、その“眼”であますことなくとらえることができるのだから。
「レーヤヴィヤ姫。こちらも準備はできました」
右手に銀色に光る剣をさげた白銀騎士シルヴァナが両の手をそれぞれ天地にかまえるレーヤヴィヤと相対する。
「はい。シルヴァナ。いつでもどうぞ」
「では、いきます! はああああっ!」
「……千眼千手」
その複雑に七色に光る瞳をレーヤヴィヤがいままで以上にかっと見開く。
シルヴァナが駆け、裂帛の気合いとともに刃を振り下ろし――え? 外し……た?
最初は、わからなかった。
暗殺者として鍛えあげてきた僕の目をもってしてもその技をとらえられたのは、ほとんどすべての魔力を目に集中して、ようやく。
「はああああっ!」
「千眼千手。【外手・寂】」
ほんの、ほんのわずかに逸らされていた。
なでるようにやわらかに、それと感じないほどになめらかに、最小の動きで、あたかもただ――シルヴァナが攻撃を外したのだとしか思えないほどに。
「はああああああああっ!」
渾身の振り下ろしも、袈裟斬りも、横薙ぎも、突きも、乱れ打ちも。すべて、ただ通りすぎていく。
その場から一歩も動かない、あたかもそこだけ静寂の中にいるようなレーヤヴィヤの横を。
……これが、神のごとき“眼”をもったものがいたる境地。
そして、その光景を凝視する僕もまた――視られていた。
感じるのだ。落ちる汗のしずく、衣ずれ、息づかい、微細な魔力の動きにいたるまで、僕をふくむこの場の全員のすべてがあの“眼”に掌握されているのを。
それも、シルヴァナと戦いながら、その動きを完全に制しながらだ。
「はっ! はっ! はああっ!」
あまりにも見えているものが――ちがいすぎる。
「くっ……! ならば……! 騎士剣術、【討魔破斬】! はああああっ!」
シルヴァナが勝負を賭けた。いつかの夜の式典で騎士団が見せた、自らの魔力を剣にのせて放つ、それをより実戦向けに昇華した技を少し離れた場所から放ち、そして自らはその衝突点めがけて、間髪入れずに肉薄する。
これは、まるで僕が一度だけニーベリージュを正面から打ち破ったときのあの――
(【聖闇逆十字】!)
「返手・旋」
――高く高く、舞い上げられていく。
「……っ!」
衝突の直後、複雑に渦巻く魔力の嵐にきりもみにされながら、武器を手放し、声もだせずに。
この瞬間、白銀騎士シルヴァナと、同時に僕は、【千視姫】レーヤヴィヤに敗北した。
……いっさい手も足もでず、完膚なきまでに。
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ということで、シルヴァナ敗北、ついでに、なぜかノエルも勝手に同一視して精神的に敗北です。重症ですね。
ちなみにレーヤヴィヤは、歴代の【千視姫】の中でもかなり上位の強さです。妹を守りたいという想いがそうさせるのでしょうか。
次回「投げつけ、割れる」
さて、最上の無手の技のお披露目のあと、なにが起きるのでしょう。
では、また書き上げ次第。
これからもよろしくお願いいたします。





