219話 意外。
お待たせしました。15分前に完成です。
では、本日もよろしくお願いいたします。
「両姫さまがた、お初にお目にかかります。このたび、新たに〈輝く月〉に加入いたしましたネヤ・レイスともうします。リーダーである闇の勇者ノエルにいさまの”妹”です。どうぞよろしくお願いいたします」
その黒い着物の端をちょこんとつまみ、長い袖を優雅に羽のように広げながら、ネヤはうやうやしく頭を下げた。
「え、【遠視姫】姉のレーヤヴィヤです……! こちらこそ……どうぞよろしくお願いします……! ネヤさん……! あ、あの……! どうぞレーヤと呼んでもらって……! な、仲よくしてもらえると……!」
「にゅ~。妹の~【予言姫】ププルフェ~。ププルでぇ~いいよぉ~。よろしくぅ~。ネ~ヤ~」
ガタンッとあわてて椅子から立ち上がり、薄い金色でふわふわとした短い髪の、変わった意匠の眼鏡をした女性が頭を下げる。
一方で、いまやすっかり定位置となったロココのひざの上でだる~んと緩みきったまま、薄い金色でふわふわとした長い髪の少女がぴこぴこと軽く手を振った。
――何度来ても、そこは不思議な場所だった。
ディネライア王国の王城内奥深くの王族区画。陽の光に照らされながらも、けっしてそそぐことはないという“特別”な処理の施された小庭園。
その一角で開かれたいまや恒例のお茶会で行われているのが僕の“妹”ネヤと闇属性の姉妹姫の初顔合わせだ。
……あ。そういえば、前に僕が来たときに妹姫のププルフェに教えてもらったんだっけ。
(宿縁の”黒の花”も、業深き”黒の一族”も、その運命のすべては、オマエしだ――)
「こちらこそ、どうぞ仲よくしてください。レーヤ姫、ププル姫」
「は、はい……!」
「よ~ろ~し~く~」
それぞれの席に近づき、両手でしっかと握手を求めるネヤとそれに応える姉妹姫。
……初々しくたがいに微笑みあうその光景を見て、僕は守れて――予言を超えられてよかったと、あらためて実感するのだった。
そして、このお茶会の席には、僕たち〈輝く月〉以外に、当然もうふたりの姿もあった。ちょうど僕の対面の席に。
「ふふ、さすがはネヤ……! 私の可愛い妹分だね……! 見たまえ、ステア……! あの気品あふれる仕草、両姫さまがたに勝るとも劣らないと思わないか……!」
「またそんなこと……! ご、ごめんなさい……! ノエルさん……! お、おねえちゃんが勝手にいってるだけだから……!」
「大丈夫。気にしてないよ。ステア。だれかれの区別なく声をかける節操なしのいうことなんて」
「ほう……? それは、私の騎士としての在り方に異を唱えると――決闘の申しこみととらえてもいいのかな? ノエル・レイス」
「別に。ただの戯れごととしてでも、流せばいいんじゃない? ああ、もしかして図星だった?」
一触即発で視線を交わしあう僕とシルヴァナ。そのあいだで妹ステアがなんとかとりなそうとあわてふためく。
「もう! ノエルさんのいうとおりだよ! おねえちゃん! 騎士団の子たちどころか、いく先々のお店やちょっと道であいさつされただけの子まで、妹分、妹分って声をかけて! ま、まさかとは思うけど、レーヤ姫やププル姫にまで、妹分だなんていって――」
「ステア。そんなありえないことは二度というな。王家に対して不敬がすぎるぞ」
「――ご、ごめんなさい……!」
びくりと身を硬直させ、反射的に謝るステア。
へえ……?
その反応を意外に思いながら、視線を向ける。
ステアから外され姉妹姫に向けられたシルヴァナの細められた目は凪のように静かなものだった。……あらゆる感情を押し殺したかのように。
僕が意外に思ったことは、もうひとつあった。
「そこでわたしはノエルにいさまを守ろうと立ちはだかり――」
姉姫レーヤヴィヤのお手製のお菓子をつまみながら、和やかに進むお茶会。
はじめてネヤが来たこともあってか、今日の話題は先日の元レイス家による襲撃事件だった。それをお菓子をつまみながら、ロココとディシー、ニーベリージュとかわるがわるに姉妹姫に語る。
そして、いまはネヤの番だ。だが、意外なのは――
「――けれど、力およばず敗れたわたしを助けようと、ノエルにいさまがうしろから賊を刺し貫かれたのです……!」
――いっさい包み隠すことなく事実が語られていること。
(ん。最後にロココが呪紋を潜りこませて、ふたりとも魔力組成の根幹から破壊した)
(あのときは本当に怖かったよ……! 切り裂かれたロココちゃんの脚から血がすっごくいっぱいでて……!)
(どうやら奴らは私たちを痛めつけてから、攫うつもりのようでした。もしそうなっていれば、ネヤから聞いていた話と考えて、私たちに待っていたのは……女として地獄のような日々でしょう)
その戦いの苛烈さと凄惨さ。相対した敵の悪辣さ。そのおぞましい目的にいたるまで。
かわるがわるに語られるそのすべてを。魔物相手の冒険譚とはちがう、人間相手の血で血を洗う死闘を、姉妹姫は真剣に受け止めていた。
……この閉ざされた箱庭でただ守られ、籠っているだけのはずの少女たちが。
「ふぁ〜。にゅ〜……」
皿の中のお菓子もほとんど空になったころ、ロココのひざの上で妹姫ププルフェが可愛らしいあくびをこぼした。それから、小さな手でしょぼしょぼと目をこする。
「じゃあ、今日はそろそろ……あ! その前に……!」
終わりを告げかけた姉姫レーヤヴィヤがなにかに気づいたような顔をして、すっと席から立ち上がる。
「新しいお友だちのお願いに、しっかり応えてあげないと……!」
なっ……!?
そして、つぶやきながら、その変わった意匠の眼鏡を外した瞬間――吹きだす膨大な魔力が一瞬で空間を満たした。
「では、副団長シルヴァナ・ゴルディール。王家の末席として命じます。私の”無手”の相手を」
ざっ、とシルヴァナが立ち上がるとともにうやうやしく頭をたれる。
「はっ……! 心得ました……! 遠視――いえ、【千視姫】レーヤヴィヤ・ディネライア姫さま……!」
見開かれたレーヤヴィヤのその瞳は、複雑に七色に光っていた――まるで、この場のすべてを見透かすかのように。
お読みいただきありがとうございます。ブクマ、評価、いいね! などいただきました方、深く感謝申し上げます。
ということで、ニーベリージュが語った王国で最も優れた”無手”の使い手は姉姫レーヤヴィヤでした。ちなみにシルヴァナは剣士です。
お茶会を重ねて仲よくなって、そのとき欠席したノエル以外は前に一度見ています。
次回「千眼千手」
では、また書き上げ次第。
これからもどうかよろしくお願いいたします……!





