218話 苦手。
「作業」、たぶんこれで完了です。
では、本日もよろしくお願いいたします。
「待て! だまってみていれば、いったいなにを考えている!? ここは王城だぞ! ノエル! シルヴァナ!」
磨き抜かれた王城の廊下。
一触即発の空気をただよわせ、ネヤをかばう僕とシルヴァナのあいだに、ニーベリージュが割って入ってきた。
「ニーべ………!」
「ああ、ニーベリージュ。君はかわらず美しいね。いやなに、少し手合わせ願おうというだけさ。悪いが、少し下がっていてくれたまえ。可愛い妹分たちに怪我などさせたくはないからね」
そう告げる白銀の鎧に身をつつんだシルヴァナの体から、ぶわりと光の魔力が立ち上る。
「だから、私は妹分になったつもりなど! 騎士としての貴女は尊敬しているが――ええい! いいから、私の話を聞け!」
いらだつニーベリージュがネヤをかばう僕の、さらにその前に守るように立ちはだかる。
「シルヴァナ! 逆の立場で考えてみろ! もし、貴女の最愛の妹ステアの手の甲にこのノエルが口づけしたとしたら、貴女はそれを許せるのか!?」
その言葉に、見つめるシルヴァナの細く整った眉がピクン、とはねた。
「え、え……!? わ、私の手の甲にノエルさんが、く、口づけを……!?」
「わ、わ……!? それって……!?」
「んゅ?」
なぜかそのたとえ話に、遠巻きにしていた女性陣が頬を赤らめ、異様な盛り上がりを見せていた。ロココはよくわからないのか、きょとんと首を傾げていたが。
「……なるほど。たしかにこれは、私の配慮不足を認めざるをえないようだ」
「わ、わかってくれたか……! シルヴァナ……!」
安堵の息をつくニーベリージュ。ふっ、とシルヴァナの体から立ち昇っていた膨大な光の魔力が雲散霧消する。と、同時に密かに用意していた臨戦態勢を僕は解いた。
「――だが、これくらいは許されるだろう?」
その直後、すっ、とシルヴァナが左腕を真横に振った。亜空間収納の展開。空間がゆがみ、その左手がなにかをつかみとる。
そして、僕をかわし、ネヤの前でひざまずくと、うやうやしく差しだした。
「え、あ……!?」
「先ほどの無礼、ここに詫びさせていただきたい。そして、どうぞお近づきのしるしに。貴女の美しい黒の髪と装いに映えるこの白の花を。たとえ貴女が認めてくれなくとも、私は妹分のように貴女を思い、守ることをここに誓おう」
その手の中にあるのは、大輪の白の花束。
「どうか、貴女の口から名前を教えてほしい」
まっすぐに見つめ上げる翡翠色の瞳と、揺れる黒曜石の瞳が交錯する。
「わ、わたしはネヤ……! ネヤ・レイスです……! お、贈りものをありがとうございます……! シルヴァナさま……! どうぞよろしくお願いいたします……!」
やがて、ぽうっと熱っぽく頬を赤くするネヤがそう口にして、白の花束に手をのばす。
「ネヤ、とてもいい名前だね……! こちらこそ、どうぞよろしく……!」
「は、はい……!」
ネヤが差しだしたその小さな手をたっぷり数十秒ほど両手でつつみこんでから、シルヴァナはその手を離した。
「さて。では、茶会の会場に案内しよう。私の可愛い妹分たちをこれ以上待たせるのはよくないからね」
そういって立ち上がると、颯爽と身をひるがえし、背中を向けて歩きだす。
これが、僕たちの友だち星弓士ステアの姉にして、王国騎士団副団長、白銀騎士シルヴァナ・ゴルディール。
――いま僕がもっとも苦手とする相手だ。
ブクマ、評価、いいね! などの応援いただきありがとうございます。
ということで、ひとまず激突はなしでした。
ちなみに、シルヴァナの貴公子ムーブへの女性陣の反応ですが。
ロココ、よくわかってない。純粋に懐いている。
ディシー、ちょっと変わったことするなあ。友だち。
ネヤ、境遇的にほぼ姫育ちなので、一番ドキドキ。
ステア、いっても治らない。ほぼあきらめ。
となっています。あと、シルヴァナの亜空間収納には、常に各種色とりどりの花束が用意されています。毎日買い替えるマメさ。
次回「意外」
久しぶりの姉妹姫の登場です。そして、ニーベリージュの語るこの王国で最も優れた“無手”の使い手とは……?
それではまた、書き上げ次第。
今後ともよろしくお願いいたします。





