212話 10歩。※
お待たせしました。
どうしても優先しなければならない“作業“があり、ようやくひとまず終わりました。
別視点。それでは、本日もよろしくお願いいたします。
「さて」
陽の光がさしこむブラッドスライン家の中庭。
「ネヤ……!」
「ネヤ」
「ネヤちゃん……!」
ノエルにいさまとロココ、そしてディシーが見守る中、わたしが〈輝く月〉に入るためのニーベリージュとの決闘が幕を開けようとしていました。
わたしは「君はここに立て」といわれた場所でただじっとはやる気持ちと呼吸を整え、待っていました。
「……9、10。よし、ここだな」
なにかをぶつぶつとつぶやきながら背を向けて歩いていたニーベリージュがついにわたしに向けて振り返ります。
……いよいよ、はじまるのです。わたしの運命を、未来を決める決闘が。
ニーベリージュがその紫と赤の色ちがいの瞳でまっすぐにわたしを見すえ、口を開きました。
「ネヤ・レイス。公正を期して、最初にこの決闘のルールを説明しよう。……10歩だ」
……なにが10歩だというのでしょう? 困惑するわたしに、手にした槍斧をつきつけながら、ニーベリージュがさらにつづけます。
そして、その言葉は、わたしに全身の血が逆流するかというほどの怒りを覚えさせました。
「これは、私の槍斧が一足で君にとどく間合いまでの距離。歩いて10歩」
……歩く?
「君が私に攻撃するたびに、私は一歩だけ前にでる」
……ちょっと、ちょっと待ってください。まさか。
ニーベリージュがその艶やかな赤い唇で美しく弧をえがきました。
「もうわかっただろう? ネヤ・レイス。どんな手を使ってもかまわない。私の槍斧がとどくまで、その10歩のあいだに私を止められれば、君の勝ちだ」
……曇りのない、とても、とても美しい笑顔でした。とても、とても真剣なまなざしでした。わたしは、悟らざるをえませんでした。ニーベリージュは、本心からそう提案し、口にしていると。
だからこそ――許せません。
「さあ。では、はじめ――」
貴女が……! 花の苦悩を知り、心を交わしたはずの貴女が……! わたしの覚悟を――そんなにもたやすく、踏みにじるというのですかっ……!
魔力の糸。レイス家最高の魔力を持つ“真花“たるわたしの魔力を編みこみ、物理的作用を持った見えない糸と化し、指先から放ちます。
「――ようか」
「やあああああっ!」
――両手を交差させ、左右、同時に。激昂とともに。
この強靭な魔力の糸はひとたび絡みつけば、ノエルにいさまとて、無傷では逃れられません……!
ニーベリージュ……! 貴女がわたしの覚悟と誇りを踏みにじるというのならば、わたしは、容赦しない……!
手に持つ槍斧をかまえようともせずに無防備に立つニーベリージュの手足に、わたしが放った魔力の糸が絡みつきます。
いまです……! 【花摘ミ手折――
「英霊よ。私とともに」
「――え?」
一瞬、でした。ニーベリージュの全身を青い炎がつつみこんだ瞬間、絡みついていた魔力の糸は、ことごとく燃やしつくされてしまいました。
ガシャ。
呆然とするわたしの耳に、独特の金属質な足音が響きます。
「これで残り9歩だな? ネヤ・レイス」
まったく感情の動かない瞳で悠然とわたしを見つめながら、ニーベリージュはそう宣告しました。
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ということで、変則的な決闘開始です。さて、青い炎に対してネヤの打つ手は……?
次回「力の差」 引き続き別視点。
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。





