210話 黒の終焉。※
お待たせしました。三人称別視点。第3部1章最終話。少し長め。
本日もよろしくお願いいたします。
「くそ、くそ……! あれから何日も経つっていうのに、まだ体中が痛い……!」
「うう……! ボクたちをこんな目に……! あの【花】ども、許さないぞ……! 次は絶対に、絶対にめちゃくちゃにしてやる……!」
「もー、落ちつきなよー? ジェミもジェニもー。あせらなくても【花】は逃げないんだからさー? それより、まずは【家】の立て直しが先でしょー? 【右刀】のバーリオどころか、【左刀】のスライまでいなくなっちゃって、先代当主さまが臥せられてるいま、ボクたちが事実上のトップなんだからさー?」
「「ああ……! わかってるよ……! ジェリ……!」」
ぎり、と軋む音が聞こえるほどに、鏡写しのように同じ顔のふたりの少年が強く奥歯を噛みしめる。
一見すると女の子と見まちがいかねないその美貌。違いといえば、ほんの一部だけ緑が混じったその黒髪を前で左右逆側にそれぞれ垂らしていることだけ。
そして、そんなふたりをあきれ顔で見つめるもうひとりの少年もまた、同じ顔だった。
緑の混じった黒髪を真ん中で分けた少年、ジェリ。
そう。あの【輝く月】との戦いの際も、いっさい参加せずに隠れて静観し、そして敗れたふたりを回収した張本人。すべては、この三つ子の兄弟が生き残るための戦略。まさしく、いじましいまでの【生】への執着だった。
だが、それも――
「ボクたちが回復して、組織を再編し次第、もう一度王国にいくよ……!」
「ああ。そのためには、逆らう奴の粛正だって辞さない……!」
「そうだねー。今度は、【家】の全戦力をもって、なんとしてでも【真花】を――え……?」
「「「な、なんだよ……!? これぇぇっっ!?」」」
「あ? あー、やっと最後の生き残りが帰ってきやがったか! 遅っせーんだよ! 待ちくたびれたぜ!」
――圧倒的な理不尽の前には、なんの意味もなさない。
三つ子の兄弟ジェミとジェニとジェリが帰郷とともに目にしたもの。それは、おびただしい量の、血と肉片だった。
激しい戦闘があったことをしめすような、見るかげもなく荒れはてた屋敷。部位すらはっきりしないほどにあちこちに散乱するそれは、まるで食い散らかされたあとのようで。
そして、ゆっくりと。くずれた屋敷の奥から、その元凶が姿を現した。
その銀色の体毛に覆われた右手で瓶に入った黒い液体をなみなみとあおり、左手に持った、枯れ木のようにやせ細った腕を食いちぎりながら、朗々と光る赤い眼の人狼が。
「ま、魔物……!? い、いや、それより……!? そ、その腕、まさか……!? せ、先代当主さまの……!?」
「あ? あー、このジジイかぁ? ふうん。先代当主サマ、ねぇ? たしかにほかの人間どもよりは、マシに戦えるほうだったなぁ……! まあ、この次期魔王にもっとも近い男、鮮血の人狼ハルヴさまの敵じゃねえけどよぉ!」
ガパァ、と大口を開くとともに、そのハルヴと名乗った人狼が残りの腕を飲みくだす。
その光景を前に、三人の少年はただただ息を飲むしかなかった。
ひと目で理解してしまったから。自分たちと、この軽装に身をつつんだ赤黒い毛並みを持つ人狼との、圧倒的な、絶望的なまでの力の差を。
「あー、にしてもこの【原液】とかいうのクッソまじいな! こうしてツマミが大量になきゃ、飲めたもんじゃねえ! ったく、あの女……! いくらオレ向きの【能力】を手に入れるためだからってよぉ……! けっ! まあいい、とっとと済ますか……!」
まったくわけもわからないままに、ただただうろたえるしかない少年たち。そんな三人の前で、人狼はごそりと懐からなにかをとりだした。
「オイ! てめーら人間どもに、あの女から伝言だとよ! さあ! しっかりとその目にやきつけやがれ!」
それは赤い【珠】。手の中で一息に握りつぶすと、赤い霧となって広がり、やがてひとつのかたちを成した。
「ヒャハハハ! てめえらを永い間、影からもてあそびつづけた、いわば真のご主人サマをよぉ!」
――ふわふわとした白い髪、真紅のドレスを見にまとい、金色の瞳を輝かせる、幼く愛らしい少女の幻像を。
『うふふ。まずは、長旅ごくろうさま。そう、本当にたいへんだったのではないかしら? 魔力組成を乱されきったそのボロボロの体をひきずって、この【家】までたどりつくのは。うふふふ……!』
くすくすと、心底愉しそうに、愛らしく朗らかに少女は笑う。
――感じとれるわけでは、ない。いま直接相対する鮮血の人狼ハルヴとは違い、その力の差も。存在の異質さも。
『うふふ。それにしても、とてもとてもおもしろかったわ……! ええっと、もう何百年前になるかしら? かつてわたしに敗れ、その倫理、尊厳、道徳、存在意義にいたるまで……! すべてゆがませてあげた黒の一族の、その行く末……!』
――だが、これだけは、この幻像越しでも、はっきりと感じとれた。
その実験動物でも見るような、細められた目。その心の底から愉しむような、紅潮した表情。そのつり上がった口もとから紡がれる言葉という名の、純然たる悪意。
『そうそう。よろこびなさい? 粗悪な混ぜ物にすぎないとはいえ、ハルヴに与えたそれとは違い、あなたたちのおかげで希釈した【因子】の実験もできたことだし、ご褒美をあげる』
――その、ゆがみにゆがまされた血脈の、魂の奥底で本能が、叫ぶ。
悪意のかたまり。この醜悪にして邪悪な存在こそが、一族が本来戦うべき、永き時間をかけ鍛え上げてきた力を振るうべき、相手なのだと。
『そう…… ! いままで築いてきたその歴史と研鑽、血肉の一片にいたるまで……! すべてあまさず、わたしの次なる実験【創魔争喰祭】のために役立ててあげる……!』
――だからこそ、三人は同時に刃をとった。
「ヒャハハハ! つーわけだからよぉ! お前らもおとなしくオレのツマミになれや……!」
「ふざけるな……! ふざけるなぁっ!」
「ゆるさない……! 絶対にゆるさないぞ……!」
「ボクたちを……! 一族をもてあそんだ罪を……! 思い知らせてやる……!」
「「「【三幻隠形】!」」」
――かつて感じたことがないほどの、ふつふつと沸き立ち、煮えたぎるような怒りとともに。
だが、それも――
「ヒャハハハハハハ! なるほどなぁ……! こいつぁ、たしかにオレ向きだ……!」
――圧倒的な理不尽の前には、なんの意味もなさない。
振り乱された髪の少年の、その鋭い爪に背後から刺し貫かれた胸から、ポタポタと赤い血と涙が滴り落ちる。
「ジェ……」
すでに同様に背後から貫かれ絶命した、ふたりの少年たちの躯の上に。
それを最期の言葉として、その少年もまた絶命する。それは、永くその血脈をつないできた黒の一族の事実上の終焉を意味していた。
――その名を継いだ、ただふたりの【兄妹】を例外として。
いまはまだだれひとり知ることも、気づくこともなく、その純粋なる【悪意】の種は、深く沈められた【闇】の中、静かにその発芽の時を待つ。
そして、またひとつ。
廃都の路地裏。
血の臭いのこびりついた、昏い渦の底のような目をした男が薄汚れた壁際に足を投げだして座るその前。
あきらかにその場に場違いな愛らしく洗練された見目の少女がその真紅のドレスのすそをつまみ、慇懃にうやうやしく、頭を下げる。
……その口もとに、心底愉しそうな笑みをはりつかせて。
「なんだ、お前は……?」
「うふふ。はじめまして。元光の勇者ブレン。突然だけど、【魔王】に興味はないかしら?」
――その種は、静かに発芽の時を待つ。さらなる【悪意】を貪欲に、執拗に、その身の内へと孕みながら。
ということで、来たるべきその日。例の実験に向けて、裏で例のあの娘がいろいろと暗躍中です。(第2部最終話参考)というか、見えないところで常に悪いことをしています。
これにて第3部1章完。
ちなみに、第183話「凄惨」でふたりがかりで広域隠形を張っていたのは、スライは参加せず、ジェニとジェリです。ジェミ含め、全員あっさり死んじゃいましたが。
そして、みなさまのおかげでここまでたどりつけました。大感謝です……!
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