207話 守れたもの。
本日もよろしくお願いいたします。
「にいさま……! にいさま、ごめんなさい……! わたし……! わたしの、せいで……! にいさまに……! にいさまが……!」
「ネヤ」
「あ……」
まるで幼いころのように泣きじゃくる【妹】の頭の上にそっと左手をおく。
いつかもこんなことがあったな、と思いだしながら、やさしくなぜた。
「帰ろう。みんなのところへ。本当に無事で、よかった」
「にい……さま……! はい……! はい……! ネヤは……ネヤは……大丈夫です……! にいさまの……おかげ……にいさま……にいさまぁ……!」
ネヤが泣き止むまで、僕はじっとその頭と背中をなでつづけていた。
それから、亜空間収納の腕輪に【荷物】を回収すると、腕にネヤを抱え屋敷への道をひた走った。
「ノエル! ネヤちゃん! よかったぁ……! 無事だったんだね……!」
「はい、ディシー……! にいさまの……おかげで……!」
「おかえり。ノエル、ネヤ」
「はい……! ただいま、ロココ……!」
「遅かったな。ノエル、ネヤ。さあ、外はもう暗い。中に入ろう。話はそれからだ。……なんにせよ、ふたりとも無事に帰ってこれて、よかった」
「はい……! ニーベ……! ありがとう……ございます……!」
すっかりと夜も更けたニーベリージュの屋敷の前で、みんなは僕たちを待っていてくれた。ディシーとロココが両どなりからネヤに抱きつき、そんな三人をニーベリージュはさらに上からやさしく包みこむ。
――その光景を見て、僕は守れたものの大きさを実感するのだった。
その後、みんなで同じテーブルを囲みながら、元【レイス家】に襲撃を受けたそれぞれの戦いのてん末を話す。
ニーベリージュは大きな怪我もなく勝利し、倒した元【右刀】の暗殺者バーリオは、騎士団に引き渡されたらしい。強力な青の霊火に灼かれた結果、もはやうわごとを漏らすだけの廃人同然になったそうだから、まず脱走の心配もないだろう。
ロココとディシーからは、一時ロココが大きな怪我を負ったと聞いて肝を冷やしたが、呪紋の力で回復したと知ってホッとした。まあロココがいうには【再構築した】ということらしいけど、違いはよくわからない。
けど、気になるのは――
「でも、おっかしいよね~? あのふたり、ぜ~ったい動けるはずなかったのに~」
「うん。ディシー。ロココもそう思う」
テーブルをはさんでふたりが左右に首を傾げあう。
――ロココとディシーの手によって完全に倒されて意識不明だったはずの少年暗殺者ジェミとジェニのふたりがいつのまにかいなくなっていたこと。
それも、ニーベリージュがバーリオを騎士団に引き渡していて、ロココとディシーの視線が外れていたごくわずかのあいだに。
たしかにロココの新技、魔力組成の根幹を乱すなんてことをされたら、少なくとも数日は寝こみかねない。ましてや、そんなすぐに動くことはできないだろう。
いや、待てよ……? ふたり……? たしか、ジェミとジェニって――
「それで、ノエル? 君とネヤのほうはどうだったのだ? たしかあのバーリオという男は、【左刀】のスライとかいう男が向かったといっていたが。【蛇】のようにしつこいとかいう」
――そのニーベリージュの問いに、僕の思考が一瞬止まる。
「あ、あの……! ニーベ、にいさまは……!」
「ああ。たしかに来て、戦ったよ。でも、大丈夫。スライは」
そこで一度息を止めてから、吐きだした。
「僕が殺したから」
――それは、けっして揺らぎようのない純然たる事実。
ブクマ、評価、いいね! などの応援いただきありがとうございます。
次回「その死もすべて。」
では、また明日よろしくお願いいたします。





