206話 なにを犠牲にしても。
本日もよろしくお願いいたします。
――その瞬間、僕の体は、よどみなく動いた。
ネヤが、僕の【妹】が、【蛇】のような異形の形相と化したスライと相対している。
足をがくがくと震えさせ目に涙をためながら、それでも決意を秘めた顔で、必死に。
『モうおイたの時間は終ワりや……!』
「いやです……! もうわたしは逃げません……! わたしとにいさまの未来をこれ以上、邪魔しないで……!」
『ガっ……!? アッああアああァぁっ!?』
その【真花】としての膨大な魔力を用いて、迫るスライの四肢を文字どおり次々と手折っていく。
【隠形】を用いての奇襲ならば別として、【レイス家】最高の魔力を持つ【真花】であるネヤに正面からでは、スライが敵うはずもなかった。
けれど。
『アあああがアぁぁぁァァッっ……!』
「な、なぜ……? なぜなのです……!? なぜ倒れないのですかっ!?」
その尋常ならざる狂気は、手折られるたびに、おさまるどころかいっそう膨れ上がっていくように見えた。
徐々にスライがネヤに迫っていく。粉々に折られた四肢を真っ黒な魔力で固めてまでも進む、止まらない狂気のかたまりが。
……左腕。右足。
魔力を集中させて、損傷した部位を固める。
いつかは、来る気がしていた。僕がどんなに望まなくとも、戦いに身をおく以上は。いつかは、この時が。
そして、その時には迷わないと決めていた。
だって、僕には絶対に守りたいものがあるのだから。……たとえなにを犠牲にしても。
「いやぁぁっ! 来ないでぇぇぇっ!」
……違うよ。ネヤ。君にいつかそのときがくるとしても、それは、いまじゃない。
――その瞬間、僕の体は、よどみなく動いた。
『ア……!? あァ……あ……!?』
【隠形】で一気に接近し、狙いどおり、寸分たがわずその左胸を背後から刺し貫く。
『ガっ……!? はッ……!?』
後ろでに振り向き、ごぽ、と血の泡を吹くスライと目があった。その血色を失いつつある肌の色は、いままさに命が失われていくかのようで。
反射的に引き抜くと、べっとりと塗れた赤い血が青と黒の刃から滴り落ちた。
見下ろすその口もとがゆがみ、かすかにつり上がる。
「なん……や……。できる……や……ない……ですか……。ノエル……さま……」
そして、全身の力が抜けたように、僕へと倒れこんできた。
――そのあと、最期にスライが告げた言葉は、僕にしか聞こえなかったのかもしれない。
「これで……【レイス家】……は……。ぼくも……安……し……」
ハッとして顔をのぞきこんだそのときには、スライはすでに絶命していた。
どこか、なにかをやりとげたような満足そうな笑みで。
――僕の手の中には、ただ消えない感触だけが残っていた。
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ということで、ノエルの覚悟でした。
次回「守れたもの。」
では、また明日よろしくお願いいたします。





