204話 【蛇】。
本日もよろしくお願いいたします。
「がああぁぁぁぁぁっっっ……! がぐうああがああああぁぁぁっっっ……!」
終わった……。
地面に突っ伏し、嗚咽とも咆哮ともつかない叫び声を上げつづけるスライをしり目に、僕は安堵の息をつく。
「にいさま……!」
離れた場所で僕とスライの戦いを見守りつづけていた【妹】ネヤが駆けよってきていた。
その姿に守れた実感と感極まったものを覚え、自然と顔がゆるんでしまう。
「ネヤ……! ついにやったよ! これで僕たちは自由――」
「だめ……! にいさま……! うしろ……!」
――え?
『遅イわ』
「がはっああぁぁっ!?」
衝撃。
振り向いたと同時に、わけもわからず吹き飛ばされる。
骨が軋み、折れる感触が体の何か所からも伝わってきた。
「ぐ、が……! な、なにが……!?」
だらり、と、とっさにかばった左腕が上がらない。肋骨が何本か、右足にもおそらくヒビが入っている。
突然の窮地。地面に転がされた僕は、なにが起きたのか見定めようと体を起こした。
そこで、僕が見たのは。
ぼたり。
『あハぁ……! いイざマヤねェ……! ノエるくン……! これデ多少は、ぼくの気ィも晴れるワぁ……!』
「スライ……!? そ、その姿は……!?」
斬りつけた両手両足からは、血が流れつづけていた。その口もとには、黒い液体と土汚れがこびりついている。
まさか……!? 啜ったのか……!? あのとき地面に落ちて割れた、この状況を覆せる切り札らしき【原液】を配合した特製魔薬とかいう液体を……!?
『あはァ……! なニを驚いトルん……? キみといウ当主失格者ヲ殺せるンナら、ソれくらいアたりまエヤろ……!』
副作用で麻痺でもしたのか、長い長い舌がだらりと突き出されていた。そして、その目は、真っ黒に塗りつぶされている。白目も黒目もない、真っ黒な空洞に。
【蛇】。そのふたつ名を思わせるとおりの異形の形相となったスライが地面に落ちた刀を拾い上げ、ゆっくりと僕に近づく。
『アぁ……! 力があふレて、イい気分やワァ……! 規定ノ三倍量トはイえ、マさかこンナに効果ガあるなんテナぁ……! コの試作品の薬をクれたあノ娘には、感謝セなあかンなァ……!』
「あの……娘……!?」
『あア、ノエるくンは知ラんわナぁ……! 仮にモ当主を名乗るンなら、覚えときヤ……! 【原液】ノ供給元……! ソう……! 帝国ノ』
「それ以上、にいさまに近づかないで……! その薄汚い手でそれ以上、にいさまに触れないで……!」
ぶわり、と魔力があたりに広がった。甘い、甘い、ひとを惹きつけてやまない、誘う花の蜜のような甘い魔力が。
『ク、くク……! あア、そウやったなァ……!』
異形の形相と化したスライが止まり、ゆっくりと僕に背を向ける。
『ソもそもハ、キミをツかまえルためニ来たンやっタわぁ……! さァ……! モうおイたの時間は終ワりやデ……! ねヤさまァ……!』
「【左刀】、いえ……! ただのスライ……! にいさまにかわって、花があなたに引導をわたします……!」
そして、対峙するネヤの胸もとで、そのたおやかな両手が円を描いた。
――【レイス家】最強の魔力を誇る【真花】が。
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ということで、【蛇】のようにしつこい男に【妹】ネヤが立ち向かいます。そして。
次回「決意と、その瞬間。※」 別視点。
では、また明日よろしくお願いいたします。





