196話 翻弄。※
別視点。
本日もよろしくお願いいたします。
なんで……? どうしてこんなことになったの……? あたしには、ぜんぜんわかんないよぅ……!
「はあっ。はあっ」
『あはは! 最初の威勢はどうしたのさ! 褐色さん! ボクじゃ相手にならないんじゃなかったのー!』
あたしの前に立つロココちゃん。その白いケープマント【六花の白妖精】の下の褐色の肌は、無数に赤く染まっていた。
その呪紋の上から刻まれた、おびただしい数の切り傷で。
「あなたでは、ノエルでも、ロココたちでも相手にならない」
最初は順調だった。
ロココちゃんの宣言どおり、あの女の子みたいな右側だけ長くした前髪を垂らした男の子、ジェミが手を変え品を変え、どんな技でこようとも、ロココちゃんはそれを呪紋で完封してみせた。
あたしには、目で追うので精いっぱいだったけど。
でも。
「穿ち、抉れ」
『うあっ!?』
ロココちゃんの反撃、いくつも放ったうちの呪紋の一本がその顔をかすめてから、ジェミの表情があきらかに変わった。
『あっは……! ひさしぶりだなー! ボクが傷を負うなんてー! しかも顔だよー? 顔……。んー、決めた。褐色さん、キミはやっぱり殺すのやめて【花】にしてあげる。ああ、【正花】じゃないよ? 【片花】の中でも最低辺。家畜以下のあつかいを受ける臭くて汚いみんなのイレモノに堕としてあげるから!」
鬼気迫る表情を見せるジェミの、その口もとがいびつにつり上がる。
『キミのそのキレイな四肢を切り刻んで、使いものにならなくしてからさぁ! 受けてみなよ! ボクの独自奥義! 【双幻隠形】!』
それからは、一方的だった。
『ほらほらー! どこ見てるのさー? ボクはこっちだよー!』
「あうっ!?」
前から迫ってくるのを見ていたはずなのに、次の瞬間にはうしろから腕を斬られる。
「くっ! 穿ち、抉れ!」
『どーこーにー撃ってるのかなー? 魔力の無駄づかーい! あはは!』
完全にとらえたはずのタイミングの攻撃なのに、すでに遠く離れた安全圏で馬鹿にしたように笑っている。
『あはははひゃはは!』
「あうっ!? ああっ!?」
それは、いばらのように呪紋を隙間なくはりめぐらせて守ろうとしても、やっぱり同じで。
なすすべもなく翻弄されている。そういうしかなかった。
「はあっ。はあっ。はあっ」
「ロ、ロココちゃん……!」
まずは両腕からとでもいうのだろうか。執拗に攻撃を受けつづけたロココちゃんの腕は、だんだんと上がらなくなってきていた。
ロココちゃんに守られてばかりじゃだめだ……! あ、あたしが……! あたしがなんとかしなきゃ……!
「わ、我は刻み、我は顕す……! その幾千なる腕を以て、我が敵を、えっと、と、捉え、掴み、う、打て! 【幾千なる亡者の腕】改二!」
『うっわ、うざー』
だめ……! あたんない……! あたんないよぉ……!
あたしの黒き精霊【クロちゃん】に魔法を刻んでつくりだした千を超える【腕】。
その伸ばされた【腕】のあいだをジェミはいとも簡単に姿を消しながらすり抜ける。
『ピンク髪さんさー? やめてくんないかなー? ていうか、無駄だってわかってるから、いままで手をださなかったんじゃないのー?』
悔しいけど、そのとおりだった。だって、いくら手の【数】が増えようとも、【隠形】で魔力感知をだめにされちゃったら、結局はあたし自身の手で相手をとらえるしかないのだから。
――ただ動きを目で追うのが精いっぱいな、あたし自身の手で。
でも、それでも……! あたしががんばらなきゃ、ロココちゃんが……! あたしだって……!
縦横無尽、神出鬼没に動きつづけるジェミに向かって、あたしは必死に【手】を伸ばしつづける。
『……いいかげんうざ。ねえ、ピンク髪さん。おとなしくしないならさー、ちょっと痛いめにあってみる?』
その言葉と同時に、あたしの視界の先、ジェミの姿がかき消える。
『ざーんねーん。こっちー』
……え?
振り向いたあたしのすぐうしろには、すでに鈍く光る黒い刃が迫っていた。
『じゃー、足一本もらっとくねー? あはは! これでピンク髪さんも【片花】堕ちけってーい!』
まるで金縛りにあったように動けないあたしの前で、薄く浮かべた笑みとともにその左側だけ長くした前髪がなびいて沈みこみ――
「だめっ! ディシー! あうあぁあぁっ!?」
――あたしをかばって飛びこんだロココちゃんの右足が深く深く切り裂かれた。
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ということで、ロココ&ディシー 対 ジェミ……その2でした。
次回「足手まといの役立たず」別視点。
では、また明日よろしくお願いいたします。





