188話 いびつで、醜悪なかたち。
本日もよろしくお願いいたします。
「どうもおひさしぶりですぅ。次代当主候補、ノエルさまぁ」
夕暮れの王都の高台。
ひらひらと片手を振りながら、【闇】に溶けこむような影がそのかたちを現す。
薄く粘つくような笑みを浮かべた狐のように目の細い男。そして、【あの夜】、逃げだす前の僕とネヤのやりとりを見ていた男。
【レイス家】当主側近のひとり、【左刀】のスライ。
――その瞬間、僕はすべてを理解する。
そうか……! スライ……! お前は、すでにネヤと接触して……! それに、ここで会った以上は……!
いつでも抜けるように僕は腰の刃に手をかけた。
「うわ。こっわい顔やなぁ。ま、でもまずはその前に」
パチパチパチ。
……え?
「いやぁ。なんでも人々の希望とかいう【闇】の勇者とやらになられたそうで。おめでとうございますぅ。ノエルさまぁ。せん越ながら、【レイス家】の代表代理としてお祝いの言葉を贈らせていただきますぅ」
軽薄な、いっさい心のこもっていない祝いの言葉とともに、かたちばかりの拍手を贈られる。
だが、それに僕はひっかかりを覚えた。
「勇者として認める、だって……? お前は、【レイス家】は、僕をつれもどしにきたんじゃないのか……?」
「まあ、本来ならそうするところですけどぉ。さすがに王国を巻きこんでまで事が大きくなると、本人の意思を無視して、ってわけにもいきませんのでぇ。あと、結果的に【レイス家】の名声も高まるやろってことで、ノエルさまの件はひとまず不問になりましたぁ。もう一度いいますが、おめでとうございますぅ。これで晴れてノエルさまは自由ですぅ」
自由、だって……? 本当にこれでもう、僕は【あの家】とかかわらなくて、いいのか……?
突然の予期せぬ宣告に、僕の奥底でずっとわだかまっていた澱が激しくすくいあげられ、胸の内をかき乱す。
「けど、それは次代当主候補で【兄君】であるノエルさまの話ですぅ。当主の子を産む役目の【真花】である【妹君】ネヤさまには早急に【レイス家】にもどっていただく必要がありますぅ。なんせもう時間がないのでぇ」
「っ……! いや……! スライ……! やめて……! にいさま……だけには……!」
「ネヤ……!?」
【妹】のネヤが僕のうしろで激しく震えだした。唇をかみしめ、懇願するように脇目も振らずにスライに向けて必死に首を振っている。
嫌な予感が、した。その尋常ではないネヤのうろたえように、僕は必死に頭をめぐらせる。
待てよ……? 当主の子だって……? それは、だれだ……? 僕に代わる次代当主が立ったのか……? いや、違う……!? さっき、スライはたしかに、僕を次代当主候補って……!?
え……? じゃあ、じゃあまさか……!?
それは、最悪の想像。
感情も、倫理も、道徳も、尊厳も、すべてをかなぐり捨てた、獣以下の虫以下のモノにしか到底なしえない、最悪の所業。
だが、その最悪をあっさりとその僕の目の前に立つ、ひとのかたちをしたモノは肯定する。
心の底から愉しそうに、その口もとを裂けたように粘つくつり上げながら。
「はい。なんせネヤさまには、いまや余命幾許もない先々代当主である祖父君の御子を産んでいただかないとなりませんのでぇ」
――いま、僕の前にいまわしき過去が、因習がその姿を現した。あのとき以上の、最もいびつで醜悪なかたちをもって。
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ということで、いびつで醜悪な事実があきらかになりました。
次回「最初から」では、また明日。





