186話 デート。(前編)
本日もよろしくお願いいたします。
「にいさま。このお店のケーキはとっても美味しいんですよ。特にこのレアチーズとラズベリーのタルトとチョコレートブラウニーとミルフィーユとイチゴのショートケーキは絶品なんです……!」
昼下がりの王都。ほとんど女の子ばかりの店内で、テーブルの上にところせましと並べられた美味しそうなケーキの数々を見て、僕のすぐとなりの席に座るネヤが目を輝かせた。
(にに、にいさま……! わわ、わたしと……! でで、デート、しませんか……!)
あんなことを可愛い【妹】に、女の子にいわれてうれしくないはずがなく、次の日には僕とネヤはこうして連れだってでかけていた、のは、いいんだけど。
「にいさま。あ~ん。どうです? レアチーズ、美味しいですか?」
「う、うん。ネヤ。思ったよりさっぱりと食べられて、美味しいよ。……でも、やっぱりこれはちょっと恥ずかし、」
「わ~! 見て見て! あのふたり、さっきからず~っとイチャイチャしてるよ~!」
「ね~。ふたりの世界って感じ~。美男美女だし、うらやまし~」
――ほとんど【耳】を使わなくても次々と聞こえてきたそんな周囲の声に、僕はずっと気が気じゃなかった。
「ネ、ネヤ? やっぱりこんな場所でこういうのは……」
だが、そんな僕に、ネヤは頬をふくらませて首を振る。
「いいえ。にいさま。わたしたちはいま、デート中なんですから。それに、にいさま。ロココたちから聞きましたよ? お友だちのステアさんという方も含め、みなさまから、かわるがわるに、あ~んしてもらったって」
「う……!? そ、それは……!」
「ふふふ。はい。ですから、おやさしいにいさまなら、【妹】であるわたしにはも~っと甘えさせていただけますよね? さあ、にいさま。あ~ん」
「あ、あ~ん」
いたずらっぽく微笑む黒曜石の瞳に見つめられ、僕はいろいろとあきらめて、おもいっきり口を開いたのだった。
……ちょっとだけ甘酸っぱいような気持ちで。
が。
「にいさま。今度はこちらのヨーグルトムースと、カスタードプディングとシフォンケーキをお召し上がりに」
「ね、ねえ? あのふたり、まだやってるよ……? あれって何個めのケーキだっけ……?」
「っていうか、男の子のほう、なんだか顔が青くない……?」
「ふふ。こんなににいさまに触れられて、甘えられて、ネヤはとってもうれしいです。さあ。にいさま。あ~ん」
「うぷ……!? あ、あ~ん……!」
心からうれしそうに微笑む潤んだ黒曜石の瞳に見つめられ、僕はいろいろと、本当にいろいろとあきらめて、おもいっきり口を開いた。
……喉の奥から立ちのぼる酸っぱいものを飲みこんで。
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ということで、あま~いひと時でした。いろんな意味で。
次回「デート(後編)」では、また明日。





