184話 初勝利。
本日もよろしくお願いいたします。
……【隠形】!
死角にまわりこみ、ふっ、と気配を消す。一拍おくと腰の刃を抜いて、僕はその肩までの紫の髪をなびかせる背中に向けて、一息に躍りかかった。
――瞬間。
「っ……!?」
ぞわり、と物理的な圧力すら感じて奔る強烈な悪寒。
「とらえた、ぞっ!」
衝撃とともに刃を通して強烈な痺れが握った手へと伝わる。死角から僕が放った渾身の一撃は、すんでのところでニーベリージュの槍斧の柄で受け止められていた。
「は、あ、ああぁっ!」
「うわっ!?」
さらにその密着状態のまま、力まかせに槍斧を横なぎに振るわれる。あえなく僕は高く陽の射す邸の中庭の地面に転がされるのだった。
「……ふう。ようやく一本、だな」
「……やられた。まさか全方位に向けた【威圧】なんていう力技で返されるなんて」
ニーベリージュの手を借りて助け起こされると、僕はパンパンと服についた土ぼこりをはらった。
「なに。毎日のように何度もしてやられたからな。君の奇襲にこっちの反応がまにあわないなら、そっちの動きを阻害してやろう、と思いついたまでだ。少々皮肉だが、例の魔王との戦いがいいヒントになった。ある程度タイミングをはかる必要はあるが、なかなかいい手だろう?」
「うん。そうだね。いい手だと思う。とにかく、【暗殺者】としての僕への初勝利おめでとう。これでニーベはまたひとつ強くなったね。じゃあ、今度は」
間合いをとり、正面から相対すると、僕は手にした【闇】の聖剣に青と黒の【光】をほとばしらせる。
「【勇者】として僕がまたひとつ強くなるために、つきあってもらうよ! ニーベ!」
そして、槍斧をかまえるニーベリージュに、一気に真っ正面から躍りかかった。
「そうか! ネヤは、みんなにそこまで話したんだね!」
「ああ! 正直驚きの連続だったがな! 私の思いもよらない、こんな世界があったのかと!」
会話とともに、想いをぶつけあうとともに、幾度となく剣戟の応酬をくり広げる。
だが、やはり【威圧】でこちらの間合いやタイミングを無理やりにずらしてくるニーベリージュを正面から打ち破るのは、かわらず困難だった。
――だが、それでも斬りこむのはやめない。
「それで? どう思ったのさ! 【レイス家】の業が深いとしかいい表せない所業や、その一員だった僕やネヤについて!」
「はは! 【兄妹】そろって同じことを聞くのだな! どうも思いはしない! 私たちはノエルという人間を知っている! そして、昨夜ネヤと心を交わして、信じようと決めた! それで十分だろう!」
「……ありがとう。ニーベ」
渾身の振り下ろしさえもあっさりと受けられた僕は、一度うしろに下がり距離をとった。
「僕を、そして【妹】を受け入れてくれて」
その想いに応えるためにも、僕は強くならなければならない……!
【黒の花】と【一族】の行く末、あの【予言】の件もある……! 僕がネヤを受け入れたって、きっと、まだなにも終わっちゃいない……!
なにが起ころうとも、ネヤを、ロココを、ディシーを、ニーベを、みんなを守れるだけの力を……!
だから、君があの魔王との戦いをヒントにしたように、この一年見つづけてきた彼の勇者としての戦いをヒントにつくりあげたこの技で、君という壁を真っ向からいまこそ超えてみせる……!
「いくよ! ニーベ! うおお!」
「来い! ノエル! はああ!」
聖剣と槍斧、互いの刃へと満ちる青と黒の【光】とほとばしる青の霊火。いつかと同じ、鏡写しのように、僕たちは同時に上段から振り下ろした。
「【聖闇――!」
「【焔霊断撃!】」
ここだ……!
そして、瞬間。
「なっ……!?」
「――逆十字】!」
振り下ろした直後、その勢いのままに高速で突進。その力と力の衝突地点へと一気に肉薄し、下から薙ぐように、縦一線で斬り上げる!
刃を通して、強烈な痺れが手へと伝わっていた。
「やれやれ。ようやく勝ち越せたと思ったのだが、な」
――会心の手応えとともに。
はじき飛ばされた勢いのまま、空中でクルクルと何度も回転していた槍斧の切先が中庭の地面に突き刺さる。
「まずは一本、か。よくぞこの私を正面から打ち破った。おめでとう。ノエル。これでまたひとつ君は強くなった。人々の希望、【勇者】として」
あの魔王との戦いから毎日のように打ち合い、そしてようやく正面からつかんだ初勝利をニーベリージュは心からの笑顔でそう祝福してくれた。
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ということで、来たるなにか、に備え、強くなるふたりでした。
次回「前日」では、また明日。





