173話 湯浴み。※
※別視点でお送りします。
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……いまだに慣れない。
「ほら、ロココちゃん。じっとして~。いま、流してあげるからね~」
「うん。ありがと。ディシー」
いつものように、湯をかけあいながらきゃいきゃいとじゃれつくふたりを見ながらそんなことを考える。
……いや、嫌というわけではない。この屋敷の浴場にはみなで入っても十分な広さがあるし、むしろ楽しい。が、長らくひとりだったから、本当にただ慣れていないというだけだ。
そんな内心はおくびにもださず、備えつけの散水魔力器で軽く汗を流しながら、私はちらりととなりに視線を向けた。
「どうだ? ネヤ。なかなかいい浴場だろう?」
「はい。ニーべ。こんなに広い浴場も、にいさまや、母さま以外の方といっしょに入るのも初めてで、とっても新鮮です。【あの家】では、いつも花は、専用の浴室にひとりでしたから……」
艶めく黒い髪の少女がその白い肌をほんのりと朱に染める。
……あらためて、同性である私の目から見ても美しい少女だ。それも、単に容姿に優れているというだけではなく、気品がある。他人にかしずかれることに慣れているというか。
まあノエルがレイス一族の次期当主で、その【妹】というなら当然といえるか。それに。
「ふう……」
少女の白い指先が濡羽のように光る長い髪をすうっと梳いた。それから、湯につからないように手慣れた様子で結い上げていく。後れ毛がはらりとその細い首筋に落ちた。
……流麗。それひとつとっても、そんな賞賛の言葉が浮かぶような。一挙手一投足が思わず目を惹く、異常なほどに洗練された動作。
……やはり、【花】というのは。
「あー! 何度入っても気持ちいいー! 手足おもいっきりのばせるお風呂ってさいっこー!」
「んゅー!」
少々はしたないと思わなくもないが、手足をのびのびとのばすディシーと、気持ちよさそうな息を吐くロココ。いつもどおりのふたりのゆるみきった様子に唇をほころばせながら、私はすっと気をひき締めた。
「さて。ネヤ。そろそろ聞かせてもらえないだろうか? 君とノエルの関係を。ふたりの態度ひとつとっても、どう見ても、言葉どおりの、ただの【兄妹】だとは思えないからな」
「……にいさまは、なんと? この浴場に入る前に、少しお話しされていたようですが……」
『聞きたいことはいろいろあると思うけど、先にネヤから聞いてほしい。あとで僕からも話すつもりだけど、僕が先だとみんなに先入観が生まれるかもしれないから』
「そう、いっていた」
「ふふ。おやさしいですね。にいさまらしい……わかりました」
ぱしゃっ、と水音とともに立ち上がると、ネヤが浴槽のふちに腰かけ、それから、ちゃぽんと足先だけを湯につける。
「長くなりますので、よろしければのぼせないように、みなさまもどうぞ。花の家に伝わる入浴方法で、足湯というそうです。こうしているだけでも、足先からじんわりとあたたかさが染みこんで、体を冷やさなくてすむといいます」
顔を見あわせてうなずくと、ざばっ、と水音を立てて、私を含めたみなが見様見真似で足先を湯にくぐらせながら、浴槽のふちに腰かける。
……こうして見ると、座りかたにも個性がでるな。ロココは、ぱちゃぱちゃと足先で水面をはねて遊んでいるし、慣れているらしいネヤは、淑やかにしっかりと両足をそろえている。
ディシーもたどたどしくそれを真似しているようだが――いや、あらためてこうして近くで見るとすごい迫力だな。同性の私でも、思わず頬を赤らめてしま――
「それでは、みなさま。語らせていただきます。【レイス家】について。【花】について。そして、にいさまと花がどのように【兄妹】となったのかを」
――横道に逸れかけた思考をハッと現実に引きもどす、涼やかな鈴の音のような声が浴場の中に響いた。
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ということで、お風呂回でした。これよりノエルとネヤのルーツ、【レイス家】について徐々に明らかになっていきます。お風呂に浸かりつつ。
次回「【原液】」 それでは、また明日お会いできますように。
忙しくなった日常の合間を縫い、読者のみなさまに支えられて執筆しています。
これからもどうかよろしくお願いいたします……!





