168話 いま、手の中に。
新しくブクマや評価いただきました方々、これまで読み続けていただいている方々、深く感謝いたします。本日もよろしくお願いいたします。
姉妹姫との茶会を終えた王城からの帰り道。
夕暮れの空が世界を赤く染めていた。
「は~! 美味しかったし、楽しかった~! ひさしぶりにステアにも会えたし、レーヤとププルちゃんっていう新しいお友だちもできたし~!」
覚悟は、決めた。
今夜にでも、みんなに話そう。僕の過去――【あの家】の業を。
「ふ。そうだな。ディシー。おそれ多いことだが、私たちにできることがあるなら、力になって差しあげたい。友として。騎士として」
「レーヤのケーキ、美味しかった。それに、ププルも楽しい。また、いきたい」
「うんうん! またいこーね! ニーべさん! ロココちゃん! もちろん、ノエルもね!」
「うん。い――」
前を行く3人に向けて、応えようとして顔を上げ――
え?
――僕は、見た。
視線のはるか先。夕暮れに赤く照らされた石畳の道の上。
影のような黒い装いの、濡羽のような黒く艶めく長い髪をなびかせた少女が。
10人以上もの武装した男たちにとり囲まれている、様を。
そして、少女のその白く華奢な両手が胸の前で円を描くように閃き――
「だめだ! ネヤッ!」
――叫び、駆けだすと同時。びくりと衝撃に震える少女の揺れ動くような黒曜石の瞳が僕を、見た。
【隠形】……! そして、左腕……!
レイス流花護術。【花摘ミ手折リ】。
その両手の指先からのびる、あたり一帯に見えないように薄く張り巡らされた高密度の魔力の【糸】を抜き放った刃で瞬時に断ち、体中の魔力を集中させて強化した左腕で、その源へ無理やりに手をのばす。
「あ……!?」
「ぐうぅっ……!?」
絡みつく大量の【糸】にミシリと腕が軋みをあげ、痛みに歯を食いしばった次の瞬間。
「だ、だめっ……!」
ばらりと【糸】が消え、僕の手がとどいた。
「ぐっ……! はあっ……! はあっ……! はあっ……!」
奥義と同等の高レベルの【隠形】と高速移動。ずきずきと痛む左腕で少女を抱きかかえたまま、その反動に僕はがっくりとひざをついた。
「ああ……! まさか……、本当に……!」
ぽろぽろと涙を流す腕の中の少女。その震えながらのばされた白い指先が僕の頬を、ついで左耳の青い装飾具をなぜた。少女の右耳、あの日分けた僕と対となるものを青く光らせながら。
「ノエル……にい……さま……! 夢では……、夢では……ないの……ですね……!」
僕と同じ色の、けれど丹念に手入れされて濡羽のように艶めく長い髪が抱きかかえたままの腕をさらりとくすぐった。
「お逢い……心からお逢いしとう……ございました……!」
僕と同じ色の、潤んで輝いた黒曜石のような瞳が僕を見上げる。
「花は……、ネヤは……この日を……! この日を……ずっと……!」
涼やかに鳴る鈴の音のような声が耳を、その黒い【着物】をまとう華奢な体にまとわせた甘い香が鼻をくすぐる。
「僕も……だよ……。ネヤ……」
【あの夜】と同じ。いや、それ以上に洗練された腕の中の、【黒の花】。
絞りだしたのは、そのひと言がようやくだった。
――半分は本当で、半分はついさっきまで、『二度と逢わなければいい』と思っていたというのに。
「ああ……! にいさま……! どうか……お喜びください……! ネヤは……ようやく……! 資格を……得ました……!」
すうっ、とへその下のあたりをなでながら、鮮やかに紅をさした唇が花びらのように咲きほころぶ。
――僕はいま、笑えているだろうか?
「だから、にいさま……! どうか……また花を……おそばに……!」
腕の中で【黒の花】は艶然と微笑む。
ネヤ・レイス。
生まれたときからともに過ごしてきた、僕の【妹】。
そして、【あの夜】。僕が耐えかね逃げだした【あの家】の因習の体現者。
ププルフェの【予言】を受けて、ようやく向きあう覚悟を決めた、いまや僕の唯一にして、最愛の【妹】。
いま、【黒の花】は僕の手の中に舞い戻った。摘むか、放すか。受け入れるか、拒むか。
その答えすらいまだ定まらない――ただ向き合うとだけ決めた、薄っぺらな覚悟のままに。
「にい……さまぁ……!」
――いまはまだ知るよしもない。あのとき以上に、いびつで醜悪なかたちをその影に宿して。
お読みいただきありがとうございます。ブクマ、評価、いいね! などいただきました方、深く感謝申し上げます。あたたかい感想をいただけたら、うれしいです。
ということで、【黒の花】ネヤがノエルのもとに舞い戻りました。早くも予言成就です。ぎりぎりでしたね。
次回「【威圧】」それでは、また明日お会いできますように。
忙しくなった日常の合間を縫い、読者のみなさまに支えられて執筆しています。
これからもどうかよろしくお願いいたします……!





