155話 それは純粋にして、それゆえに。※
燃料をありがとうございました。
どうかお楽しみください。
※別視点。三人称です。
――時は遡る。
グランディル山の頂。
【死霊聖魔女王】ネクロディギス・マリーアとの戦いに終止符が打たれ、人間たちが急ぎ王都へと転移した、直後。
「ふふふ。まったく魔力を感じないと思ったら、やっぱり、もうだれもいなかったのね」
月明かりだけが射す暗闇の中。瓦礫跡と化した遺跡の一角に突如として描かれ、浮かび上がるのは転移魔法陣。
その【光】の中から、薄く笑みを浮かべながら、その【少女】は姿を現した。
朗々と光る金色の瞳。ふわふわとした綿毛のような質感の肩までの白い髪。
小さく華奢な体をつつむのは、その肌や髪色と対照的な、すそにレースのあしらわれた真紅のドレス。
はずむような軽い足どりで、【少女】は魔法陣から躍りでる。
「あ、あそこね」
その金色の瞳に映るのは、見渡すかぎりの瓦礫跡と、ところどころに抉られた大地。
壮絶極まりない戦いのあとに、なんら臆することも興味を示すこともなく、迷いなく歩を進めると、目的の場所で【少女】はしゃがみこんだ。
そこは、あの【死霊行軍】の元凶。【死霊聖魔女王】ネクロディギス・マリーアがその命を最期に魔力へと還した場所。
その地べたから【少女】の指先がごく小さな白いかけら――【骨】を拾い上げる。
それは、契約。
計画に力を貸す代わりに代償として、生前より【少女】に譲渡されることが決まっていた【死霊魔王】の肉体を構成するほんの一部。
左手の指輪の亜空間収納を展開して、【骨】をしまいこむと、【少女】は満足そうにその薄桃色の唇をつり上げた。
「ふふ。まさかこんなに早くとは思わなかったけれど、ごくろうさまだったわね? ネクロディギス。ザラオティガにつづいて、これで【魔王因子】がふたつも。ふふ。存分にわたしの【研究】に役立たせてもらうわ。けれど」
そこで言葉を切り、【少女】がパチンと指をひとつ鳴らした。
「せっかく貸してあげたわたしの【不可視の眼】を、それもちょっと情報を伝えていなかったくらいで、あんないい場面で壊すなんて、ちょっとひどいのではないかしら?」
ひとりごちる【少女】が広げた手のひら。その上へと向かって、光る砂粒のようなものがあたりから次々と集まっていく。
そして、集まりきったところで【少女】が手のひらをきゅっと握りこむと、かあっと一度だけさらに大きく光った。
「でも、許してあげるわ。こうして直に魔力をそそげば修復は容易だし、それ以上にあなたのおかげで、わたしにとって――ふふふ! とてもとてもよい収穫がふたつもあったのだから!」
そこで【少女】がバッとその華奢な両腕を広げた。さらに、わきあがる興奮を全身で表すかのように、その場でくるくるとまわりだす。
「ああ……! 【光】でありながら【闇】に近く、また逆に【闇】でありながら【光】に近い……! 永らく探していたわたしの理論を実証する可能性――そう! 【あの力】にとどきうる人間が同時にふたりも見つかるなんて! ふふふ! 今日はなんて日なのかしら! そして、通信が切れる前に見たあのよどみ、荒みきった目……! ふふふ! 【あの子】のほうなら、きっと……!」
真紅のドレスのすそを花びらのようにひるがえし、まわりつづける【少女】。すっと、その閉じた手のひらが開いた。
すると、【少女】の手に握られていた見えない【珠】がひとりでにふよふよと動きだす。
「さあ、【不可視の眼】。憶えて、追いなさい」
ひとりでに飛ぶその見えない【珠】は瓦礫跡の中、赤黒い染みの上で止まった。それは、血痕。【珠】がその乾いた血を吸い上げて、一瞬だけ赤黒く染まる。
だがやがてもとどおりに見えなくなると、ふたたびふよふよと、今度は彼方まで飛んでいった。
「ふふ。これであとは待つだけ。すでに各地に放ってある観測用の【眼】もあることだし、長くはかからないでしょう」
それでここでの用事はすべて済んだらしく、【少女】はようやく、くるくるとまわるのをやめ、けれど上機嫌なまま、はずむような軽い足どりで、もと来た転移魔法陣へと向かって歩きはじめる。
――その内心の興奮を言葉となって漏らしながら。
「ふふ。これで【素材】はほぼそろったわ。あとはふさわしい【舞台】かしら? そう。できるだけたくさんの人間が集まるような。ただ今回の【実験】の性質上、いつもみたいに踊らせて戦争を起こして簡単に、ってわけにもいかないのよね。それに、できれば場所も――あ!」
そこで【少女】がなにかにハッと気づいたように、その金の瞳をキラキラと輝かせる。
「ふふふふふ……! あるじゃない……! いまからほんの数か月たらずで、わたしのためにあつらえてくれたとしか思えない最高の【舞台】が……!」
ふたたび転移魔法陣にたどりついた【少女】。その全身が転移のための魔力につつまれ、赤く淡く光りだす。
その最中にも興奮しきった【少女】の言葉は止まらない。
だが、もしこの場に聞くものがいれば、戦慄しか覚えなかっただろう。
幼く愛らしくにしか映らないその【少女】が薄桃色の唇から紡ぎだす、その言葉の旋律に。
「ふふふ……! せっかくの大舞台……! せっかくの王国をあげてのお祭りだもの……! 盛大に盛り上げてあげましょう……! 人間たちの祭りに、わたしが華を添えてあげる……! そう……! 血と魔力と慟哭で彩られたたくさんの赤い、赤い、華を……! この【錬金魔王】〝冒涜〟のアーリケ・リリミエスタのとっておきの【実験】……! そう……! 名づけて――」
その口の端が、歓喜に裂けたようにつり上がる。
「――【創魔争喰祭】で……! ふふふ……! あはははは……!」
そして、高笑いを残し、【少女】の姿は溶け消えた。
あたりに広がるのは、ただ静寂と【闇】。
いまはまだ、だれひとりとして知ることも、気づくこともなく、常と変わらずに空に輝く月の照らす下で、次なる魔王との戦いの幕は――――否。
それは、常に世界を蝕みつづけてきた。
暗躍し、かたちを変え、扇動し、時に裏側から、時に自らの手で堂々と。変わることなく、飽きることなく、その【魔王】としての戴冠より、ずっと。
【研究】という名の自らの純粋なる好奇心――されど、さらされる人間たちにとっては、【悪意】と同義でしかないそれを、ただただ貪欲に満たすため。
時と場所と、手段を選ばず。
そしていま、その新たに蒔かれた純粋なる【悪意】の種は、深く沈められた【闇】の中、静かにその発芽の時を待つ。
その愛らしい見目にはまったく似つかわしくなく、されどそのおぞましい本性にはもっとも似つかわしいその二つ名のとおりに、ふたたび世界を〝冒涜〟するその時を。
――そう。いまはまだだれひとりとして知ることも、気づくこともなく。
ということで、これまでもちらちらと出てきた、覗き趣味こと【錬金魔王】の本格初登場とともに第2部完です! これまでお読みいただき、お支えいただき、本当にありがとうございました!
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それでは今後ともよろしくお願いいたします。





