152話 無力な少女のその叫びを。
燃料をありがとうございました。
どうかお楽しみください。
『っ! みなさん! 聞いてください!』
月のない夜。代わりに魔力照明で煌々と照らされた王城の外壁前の広場。
集った人々へ向けて、拡声魔力器で増幅された少女の叫びが外壁の上から響き渡った。
『私は星弓士ステア! ステア・ゴルディール! 騎士団長ゴルドーの末娘にして、【光】の勇者パーティー【黎明の陽】の一員でした!』
「騎士団長の……!」
「【黎明の陽】の一員……!」
「じゃあ、【光】の……!」
その言葉に、ふたたび人々の中にどよめきが起こる。それは【輝く月】のときとは違う、肯定的な響きを持ったどよめき――
『でも、でも……! 私は、私は……! 逃げました……!』
――だが、その告白に一瞬であたりは静まりかえった。
『逃げだしたあと、ただ隠れたまま座りこんで泣いていた私は、【死霊魔王】に見つかってしまい――』
星弓士ステアは赤裸々に語りだした。敵前逃亡という自らの罪を。
年ごろの少女ならば絶対に知られたくないはずの【魔王】から受けた辱めさえも、赤裸々に。
それは、【英雄】視されていた【黎明の陽】の尊厳を地に堕とすには、充分で。
『帰りたかった……! 生き残りたかった……! だから、私は……! 恥も、誇りも……! なにもかも捨てて……!』
そのときの恐怖を思いだしながら、震え、涙をこぼすステアが【魔王】の前では無力な少女にすぎなかったと、人々が理解するには、充分すぎて。
『でも……! すべては無駄でした……! 結局、私は……! なにもかもを踏みにじられたあと……! 【魔王】の手で殺されかけたんです……!』
そこでステアが涙で濡れた瞳でちらりと僕を振り返った。うなずいて、それからもう一度人々に向きなおると、あらんかぎりの声で叫ぶ。
『でも! そんな私をノエルさんが! 【闇】の勇者さまが助けてくれたんです! その姿に私は輝きを、【光】を見ました! それから、は、裸の私に、上着を、優しく――え? きゃっ!?』
「ステア」
……もう見ていられなかった。
羞恥に震えながら頬を赤く染めるステアの手を引き、最前列から、見上げる人々のその視線から、そっとのける。
「ノ、ノエル……さん!」
「もういい。もういいよ。ステア」
「わ、私……! 悔しくて……! あんなふうにいわれているのが……! 少しでも、ノエルさんの……! 【輝く月】のみなさんの役に立ちたく、あっ……!?」
「うん。わかってる。ありがとう」
いまもこぼれ落ち続ける少女の涙をそっと指先で拭う。
「でも、僕だって、ステアが」
そこで、言葉につまった。
……この娘は、僕にとってなんなのだろう?
僕と入れ替わりに【光】の勇者パーティーに入った少女。
出会いは最悪で、でも、最後には恐怖を乗り越えて共に【死霊魔王】と戦い、あの聖剣の間で僕が【闇】の勇者になったときには、心から祝福してくれた少女。
そして、いまなんて、自分を犠牲にしてでも、僕たちのために――ああ、そうか。もしかして、これが。
「友だちが無理をして泣いてる姿なんて、だまって見ていたくはないんだ」
「え……? と、友だち……? わ、私が……? ノエルさんの……? わ、私……初めて会ったとき……! あ、あんなひどいことをいったのに……?」
震え、目を丸くするステアに、僕はゆっくりと首を振る。
「ううん。僕たちのためにここまでしてくれたんだ。ステアはもう僕の、僕たちの友だちだよ。これからも仲良くしてくれる? 対等の友だちとして」
「は、はい……い、いえ……う、うん! こ、こちらこそ……お願い……します……! ノエルさん……!」
顔を真っ赤にして、ステアがおずおずと差しだした手を僕はしっかりと握り返した。
「こちらこそよろしく、ステア。だからさ、あとは――」
ステアに微笑み返し、うなずくみんなを見まわしてから、一歩を前に踏みだす。
「【輝く月】にまかせて」
そして、僕たちはふたたび最前列に立つ。ステアがつないでくれた場所、ステアの思いに応え、自らの力で【英雄】になるために。
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ということで、ノエルに初めての友だちができました。なお【輝く月】のみんなは仲間であり、家族といった認識です。
次回「試練」
さて、【輝く月】が勇者パーティーと人々に認められるための秘策とは?
忙しくなった日常の合間を縫い、読者のみなさまに支えられて執筆しています。
これからもどうかよろしくお願いいたします……!





