134話 聖剣の間。
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「来たか」
青く輝く月が夜空を照らしていた。
休息はおろか、詳しい説明すらもないままに、着の身着のままの疲労困憊。おまけに黒刀を失って丸腰の状態で、僕たち【輝く月】は【黎明の陽】を先頭に王都へ、その王城へと転移する。
「……あ! パ――」
どうやら転移した先は、王城の敷地内でもひと気のない裏手のようだった。
到着し、その手の中に握りこんでいた一回限りの使い捨ての転移魔石が割れると同時、星弓士ステアが素っ頓狂な叫び声をあげかけ――
「んん!」
――だが、そこで僕たちを待っていた壮年の男、黄金の全身鎧をまとった騎士のせきばらいを受けると、あわてた様子でバッと口をふさいだ。
それを見て黄金の騎士は一度うなずき、ステアを見て目を細める。それから、いまだ状況についていけない僕たちに向かって、重々しく口を開いた。
「まずは遠路はるばるご苦労だった。勇者たちよ。休息も与えずにすまぬが、これからすぐにもう一度転移する。その先で王陛下がお待ちだ。が、その前に」
「わたくしの……顔……! 体……! なんで……!? なんでこれ以上、戻らないの……!?」
黄金の騎士の視線は、今度はステアの後ろ。聖女マリーアに向けられていた。
【死霊聖魔女王】を倒したあとから、ずっとだった。
一瞬の明滅をくり返すように、真っ黒に塗りつぶされた姿と、ひとの姿を行き来し続ける聖女マリーア。
焦点の定まらない瞳で虚空を見つめながら、まったく同じうわごとを漏らし続けるその姿は、なかば正気を失っているようにも見えた。
「……さすがにその様では、聖女殿は御前には連れて行けぬな。予定どおりお休みいただこう。頼んだぞ」
「はっ! 心得ました!」
「え!? おね――」
黄金の騎士の呼びかけに応え、今度は、銀の鎧をまとった凛とした女性騎士がその横あいから現れる。
またもステアが叫び声を上げかけるも、ぎろりとひとにらみされると、あわてた様子で口をつぐみ、ぶんぶんと首を振っていた。
「ふ。……聖女殿。こちらへ」
そして、一度目を細めて薄く笑みを見せてから、うわごとをいい続ける聖女マリーアを連れて、女性騎士はこの場から去っていった。
しばらくの間その背を見とどけてから、黄金の騎士がそのふところから、使い捨ての転移魔石を取りだす。
「では、行くぞ。勇者たちよ」
短期間での二度目の転移。景色がゆらぎ、その慣れない酩酊感に思わず反射的に目を閉じる。
そして、酩酊感がおさまりふたたび目を開くと、目の前には黄金に光り輝く巨大な扉。
「そんな……!? 聖剣の……間……!? なら、まさか……!? 俺は……!?」
その扉を前に、【死霊聖魔女王】を倒してからいまのいままでずっと押し黙っていた、片腕を失った勇者ブレンが慟哭にも似た叫び声を上げる。
「……開くぞ。この先は御前である。みな私が命じたら、ひざまずくように」
そんな尋常ではない勇者ブレンの様子には触れず、黄金の騎士の手によって、輝く荘厳な扉が押し開かれる。
それから、黄金の騎士に続くようにして、【黎明の陽】、【輝く月】の順番で入室した。
内部もまた、まぶしすぎて思わず目を細めてしまうほどの、壁も床も煌めく黄金一色で埋めつくされている広間だった。
「止まれ。そこでひざまずけ」
数歩進んだあと、先頭を行く黄金の騎士の命に応え、僕たちはその場で思い思いにひざまずく。
「こたびの【死霊魔王】との戦い、誠に大義であった。勇者たちよ」
黄金の床を見つめる僕たちの耳にとどいたのは、威厳に満ちた――けれど、どこか疲れたような声だった。
お読みいただきありがとうございます。ブクマ、評価、いいね! などいただきました方、深く感謝申し上げます。あたたかい感想をいただけたら、うれしいです。
そして、まだまだ切実にお願いいたします。どうか燃料をください……!
ということで、【死霊聖魔女王】を倒し、休む間もなく、王との謁見がはじまりました。【聖剣の間】にて王は【黎明の陽】と【輝く月】になにを語るのか。
次回「線」
書ききりますので、これからもどうかよろしくお願いいたします……!





