123話 紙一重。
「さよなら、ノエル……!」
天高く陽が上り、時刻は昼を越えたグランディル山の頂の、いまやただの瓦礫跡と化した遺跡にて。
【死霊聖魔女王】〝玩弄〟のネクロディギス・マリーアが僕のすぐ目の前で嘲笑いながら、刃を握るその左右の腕を閃かせる。
これを……! 待ってた……!
「レイス流暗殺術、奥義の参……! 【虚ノ鏡】……!」
極限の集中。僕は力を振り絞って立ち上がると、同時に振り下ろされる両の刃と、それを操る腕に一瞬だけ手を添えた。
……この技には、速さも、力も、僕自身の魔力も必要ない。
ただ導いてやればいい。僕を狙い襲いくる刃と、腕を、魔力を、殺意を。いなし、導き、返してやればいい。
そう。あたかも鏡に映る自らの虚像を割り砕かせるかのように。
「がっ……!? はっ……!?」
――ふたたびひざをつき、見上げれば【死霊聖魔女王】が青ざめ、後ずさっていた。
「な、な、なっ……!? き、きさ、貴様ぁ
っ……!? いま、いまこのわたくしにぃぃっ……! なにをしたぁぁっ……!?」
「ただ返しただけだよ。【死霊聖魔女王】。お前の力をそっくりそのままお前にね……!」
……この技は、ひとつの答えでもある。どんな格上でも殺しきるための。だって、いかなる強者であろうとも同じ力を持つ自らでなら、砕けないはずがないのだから。
ただもちろん、いうまでもなくこの技には多大なリスクがある。一歩、いやほんの紙一重の差で、僕はそのまま斬り殺されるだけなのだから。
だから、そのために僕はずっと目に焼きつけ続けていた。この戦いが始まってから余すことなく、ずっと。
『はあああああっ!』
『うふふふふふ……!』
幾度となく繰り返されたニーべリージュと【死霊聖魔女王】の打ち合いを。その剣筋を、癖を。性質を、性格を。
そう。すべてはこの瞬間。すべてを出しつくして目の前でうずくまる僕を【死霊聖魔女王】が直接手にかけようとするこの瞬間に【虚ノ鏡】を返し、起死回生の勝機をつかむために。
……もっとも、いくら酷使してたとはいえ、まさか愛用の黒刀が砕けるなんてのは、完全に想定外だったけど。
「がっ……! ふっ……! ふざ、けるな……! 返した、だけ……だと……? ふざける……なぁぁっ……!」
胸に突き立てられた【光】と【闇】の二本の刃を無理やりに引き抜きながら、【死霊聖魔女王】が金色の長い髪を振り乱し、幽鬼のような形相で、憎悪に満ちた声で、吠える。
「たかが人間がぁっ……! このわたくしにぃぃっ……! 殺すっ……! いますぐに殺してやる……!」
……これで、もう本当にいまの僕にできるすべては出しつくした。だから、あとは。
「【焔霊突貫】!」
黒い霊火の壁をぶち破り、僕と【死霊聖魔女王】ふたりだけの空間に3人の人間が躍りこんでくる。
「貴ぃぃ様ぁらぁ……!」
「頼んだよ……! ニーべ……! ディシー……! ロココ……!」
「ああ……!」
「うん……!」
「わかった、ノエル……!」
そして、僕たち【輝く月】と荒ぶる魔王、【死霊聖魔女王】ネクロディギス・マリーアとの決戦。その最終局面が幕を開けた。
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ということで、奥義の参、【虚ノ鏡】の詳細でした。条件はごく近い間合いや、直接攻撃であること、などです。
次回「連携」
これからもどうかよろしくお願いいたします。





