122話 鏡。
「うふふ。まさか、このわたくしがここまで追いつめられるなんて……! 本当に愉しませてくれる人間たちだわ。期待外れの【光】の勇者たちとは大違い。ただ、残念。惜しかったわね?」
「はあっ……! はあっ……! はあっ……!」
天高く陽が上り、時刻は昼を越えたグランディル山の頂の、いまやただの瓦礫跡と化した遺跡にて。
根本に残ったわずかな刃先だけを残して愛用の黒刀を失い、いま持てる魔力をすべて出しつくし、がっくりとひざをつく僕。
その目の前で、その異形の両腕を失った【死霊聖魔女王】〝玩弄〟のネクロディギス・マリーアは、だがそれを意に介した様子もなく、嘲るように笑う。
「うふふ。先ほどもいったでしょう? この体がなじんできた、と……! そう……! いまやすべて一体となったわたくしの体として操れるほどに……!」
いうが早いか【死霊聖魔女王】の両肩から黒いもやが伸びだした。
左のもやはそのまま新たな死霊の腕を形成し、そして右のもやは【光】の聖剣を握っていた勇者ブレンの右腕を拾い上げ、肩口と接合する。
その感触をたしかめるように、聖剣を軽く振りながら、【死霊聖魔女王】はその艶やかな唇を薄くつり上げた。
「どう? 見てのとおり、最初は拒絶反応を起こしかねなかったこの【光】の勇者の右腕も、いまや完全にこのわたくしの【闇】の体と一体になったわ……! そう、こんなことすらも可能にするほどに……!」
【死霊聖魔女王】がつぶやくと同時、その肢体に変化が起きる。筋肉質でつりあいのとれていなかった右腕が細くしなやかになり、左の真っ黒な死霊の腕が白い肌に、人間の腕へと変わっていった。
それはまさしく、完全な聖女マリーアの姿。
「うふふふ……! どうかしら? ノエル。これで完璧でしょう? 貴方たちがいうところの【聖女】……! 【英雄】……! 貴方たち人間を玩具としてもてあそび、蹂躙するのにふさわしい姿……!」
右手に聖剣を、左手に死霊の剣をたずさえながら、一歩一歩【死霊聖魔女王】が僕のもとへと歩みよる。
「「「ノエル!」」」
「あら? 野暮ね。いまいいところなのに。うふふ。でも、させないわ。【死霊滅陣】」
「「「うっ……!?」」」
駆けつけようとするロココたち3人と僕の間をあたり一面に広がる黒い霊火の壁がさえぎる。
「うふふ。これでもう邪魔は入らない。ノエル。この空間は、貴方とわたくしのふたりっきりよ」
「はっ……! はっ……! はっ……!」
がっくりとひざをつきながら、ようやく荒い息をととのえはじめた僕を【死霊聖魔女王】はすぐそばで艶然と見下ろした。
「うふふ。ノエル。わたくしをここまで追いつめ、愉しませてくれた褒美に、選ばせてあげましょう……! 貴方は【光】の聖剣と【闇】の【死霊魔剣】。どちらで命を絶たれるのがお望みかしら?」
「はっ……。はっ……。はっ……」
その問いには答えず、僕はただ息をととのえることだけに専念する。
「うふふ。そう。せっかく聞いてあげたのに、無視するなんて残念だわ……! そうね。それじゃあ、両方にしてあげましょう……! さよなら、ノエル……!」
左右から同時に挟みこむように【光】と【闇】の斬撃が僕を襲――
これを……! 待ってた……!
「レイス流暗殺術、奥義ノ参……! 【虚ノ鏡】……!」
「がっ……!? はっ……!?」
――ふたたびひざをつき、見上げれば【死霊聖魔女王】が青ざめ、後ずさっていた。
「な、な、なっ……!? き、きさ、貴様ぁっ……!? いま、いまこのわたくしにぃぃっ……! なにをしたぁぁっ……!?」
いま起きたことが信じられないといったものすごい形相で、自らの胸に突き立てられた【光】と【闇】の刃にその赤い瞳孔を血走ったように見開きながら。
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ということで、起死回生の一手となるノエルの奥義の参が決まりました。詳細は次回。三大奥義なのでこれですべてです。
次回「紙一重」
これからもどうかよろしくお願いいたします。





