120話 【光】と【闇】。
「我が敵を圧砕し、粉砕し、撃滅せよ! 【超重破壊黒球】!」
天高く陽が上り、時刻は昼を越えたグランディル山の頂の、いまやただの瓦礫跡と化した遺跡にて。
高らかにディシーの詠唱が響き渡り、黒き精霊がその暴威を顕す。
それは、見上げるものから照らす太陽を覆いつくすような超巨大質量の【珠】。
もっとも純粋な暴力がいま――【死霊聖魔女王】〝玩弄〟のネクロディギス・マリーアのその体を圧し潰さんと、迫る。
「うふふ。まさか、こんなのを狙ってたなんて。本当に油断も隙もないわね? 貴方たち。けど、残念。こんな遅いのじゃ、いまのわたくしなら軽く――」
「させない。苛み、縛れ……!」
「――なっ!?」
嘲笑を浮かべながら、その場を退こうとする【死霊聖魔女王】の両足を地を這う赤い呪紋が縛り上げた。
【死霊聖魔女王】が自らを守るべく周囲に張り巡らせた黒い霊火の柱、【死霊滅陣】のその隙間をかいくぐって幾本もの呪紋が。
「いっけぇぇぇっ! 【クロちゃぁぁん】っ!」
ディシーのかけ声とともに、重力で加速した黒き精霊の【珠】がその勢いを増して【死霊聖魔女王】に迫――
「うふふ。期待外れの勇者ブレンたちと違って、本当に愉しませてくれるわね? 貴方たち。この新しい体にもなじんできたことだし、ならばわたくしも、その期待に全力で応えましょう……!」
ビキキキ……!
――ぎちぎちと軋むほどに引き絞られた【死霊聖魔女王】の異形の両腕。その先端に握られた【光】の聖剣がまばゆい輝きを放ち、【闇】の魔剣が禍々しく燃え盛る黒い炎をまとう。
「うふふ……! よく見ておきなさい……! 【輝く月】……! これが新たな高みに上ったわたくしの力……! 名づけて、【光魔――」
そして、頭上に向けて【死霊聖魔女王】がその異形の両腕を交差させる。
「――十字斬】!」
虚空に刻まれた【光】と【闇】の刃。天を目がけて刻まれた巨大な十字は、超巨大質量の【珠】を頭上に届く寸前のところで4つに切り裂いた。
「うふふ。どうかしら? 貴方たち? いまのわたくしったら、【光】と【闇】があわさって最強に見えない?」
ズズウンッと重々しい音とともに、4つに断ち割れ落ちた黒い【珠】が地響きを立てる。
その組成を破壊され、大気中の魔力へと還る黒い霧を背後に【死霊聖魔女王】は艶然と微笑んだ。
……まずいな。どんどん手がつけられなくなってきてる。体がなじんできたってのは嘘じゃなさそうだ。
気配を殺し、その様を見ながら、僕は決意する。
こっそりと左手の腕輪の亜空間収納からとりだしたのは、一本だけ持っていた最上級回復薬。
怪我や体力だけでなく、魔力状態も万全にするそれをふたを開けて一息に飲みほす。
『ロココ。ディシー。ニーベ。聞いて。これ以上長引かせるのは僕たちに不利だ。次で勝負をかけるよ……!』
それから【死霊聖魔女王】に聞こえないように、魔力を含ませ調節した【声】で作戦を伝える。
……長引けば長引くほど【死霊聖魔女王】はあの体になじんで強くなり、逆に僕たちの手の内はどんどん明かされてしまう。
だから、もうここで決めるしかない。この状況から起死回生を起こしえるただひとつの手段。まだ【死霊聖魔女王】に知られていない、いま僕が使える最後の切り札。
レイス流暗殺術、奥義ノ参で……!
「わかった」 「うん!」 「ああ……!」
そして、みんなの思い思いの返事が返ってきた直後――起死回生をかけた僕たちの最終作戦が始まった。
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ということで、いまだにノーダメージの過去最強の敵でした。序盤は使えなかった大技も使えるようになってさらに脅威度アップです。
次回「攻防」
さあ、魔力も万全に戻したところでノエルたちの作戦はうまくいくのでしょうか。
これからもどうかよろしくお願いいたします。





