117話 戦闘開始。
「うふ。うふふふふ……! 【輝く月】……! いい名前ね……! いいわ……! すごくいいわ……! 貴方たち……! その【闇】とは思えない、希望に満ちて輝いた瞳……! ああ……! その瞳を絶望に染め上げるのは、どんなに愉しいのでしょう……!」
天高く陽が上り、時刻は昼を越えたグランディル山の頂の、いまやただの瓦礫跡と化した遺跡にて。
【死霊聖魔女王】〝玩弄〟のネクロディギス・マリーアが恍惚に頬を紅潮させ、その扇情的な黒いドレスにつつまれた豊満な肢体をよじらせながら、聖剣を握った異形の右腕を振りかぶる。
「ああ……! だめ……! 我慢できない……! いますぐに試してみないと……! これで……! 【聖光破――」
「させるかっ!」
「――あら?」
だがそこに青い霊火をまとったニーベリージュが高速で肉薄し、次の技を撃たれる前に【死霊聖魔女王】との本格的な戦闘が始まった。
先端に青い霊火の刃を灯した槍斧と聖剣が火花を散らして何度も打ち合う。
「そう簡単に何度も撃たせると思うな! 【死霊聖魔女王】! そのために私がいるのだ!」
「うふふ。あらあら、怖い顔ね? ニーベリージュ。そんな顔をしてるとせっかくの美人がだいなしよ? うふふ。もっと心に余裕を持ったらどうかしら? わたくしのように」
「だまれ! 貴様のその余裕、すぐになくしてやる! はあああああっ!」
さらに回転率を上げた槍斧の嵐のような猛攻が襲いかかる。聖剣で受けるだけの防戦一方になりながらも、あせる様子もなく【死霊聖魔女王】は薄くその艶やかな唇をつり上げた。
「あらあら。もっと怖くなっちゃったわ。うふふ。じゃあ、怖いからわたくしは……こうするわね?」
「うっ!?」
攻撃するニーベリージュの横合いから、突然に大質量が襲いかかった。間一髪でその場から飛びのくニーベリージュ。
その正体は、【死霊聖魔女王】が左の【死霊の手】にかまえる聖騎士パラッドの大盾。僕の身の丈ほどもあるそれが轟音とともにたたきつけられ、地面に大きなくぼみをつくる。
「くっ! この……はあああああっ!」
「うふふふふ」
すぐに体勢を立て直し、違う方向からふたたび猛攻をしかけるニーベリージュ。
だが、それを嘲笑うかのように向きを変えた【死霊聖魔女王】は今度は聖剣を使うことなく、左の大盾だけでそれをやすやすと防ぎきる。
「縛れ! 穿て!」
ぶわり、と魔力を含んだ風が巻き起こり、ロココの【六花の白妖精】の六枚の純白の花弁とともに白、青、透明、金、色とりどりの長い布がふわりと舞い上がり、波のように広がった。
その褐色の肌に刻まれた赤い呪紋がおびただしい数に分かれ地を這い、空を切り、次々と【死霊聖魔女王】の体へと伸びる。
「あら? また呪紋? わたくし、それ地味に痛くて嫌いなのよね。だから……こうさせてもらうわ。【死霊滅陣】」
【死霊聖魔女王】がひとことつぶやくと同時、その周囲を囲むように黒い霊火の柱がほとばしった。
届きかけた地を這う呪紋も空を切る呪紋もその黒い火柱に阻まれ、あっさりと吹き散らされてしまう。
「まだ!」
叫ぶロココの意思に応えて、まだ無事だった残りの空を切る呪紋が黒い火柱を避けてまわりこむように高空から襲いかかる。
「あら? 器用なのね。うふふ。でも甘いわ」
だが、それを【死霊聖魔女王】は薄笑いを浮かべたまま、自在に動く左の【死霊の手】でかまえた大盾で軽く防いで見せた。
「甘いのはお前だ! 【死霊聖魔女王】! 隙を見せたな! はあああああっ!」
だがそこに、大盾を空中に向けて体ががら空きになった【死霊聖魔女王】に向けて、青い霊火をまとったニーベリージュが襲いかかる。
「ええ。こうして迂闊な貴女を誘いこむために、わざと……ね? じゃあ、さよなら。ニーベリージュ。【聖光――」
ビキキキ……!
「な!?」
「――破斬】!」
左の大盾に気をとられている間に、ぎちぎちと軋みをあげるほどに引き絞られた【死霊聖魔女王】の異形の右腕。
まばゆいばかりの【光】に覆われた聖剣が肉薄するニーベリージュに向かって、袈裟に振り下ろされた。
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ということで、ボス戦開始です。【光】と【闇】の力を使える過去最強の敵に恥じない強さ。すでにいくつか手の内を明かされているのも影響しています。
次回、「過去を」
これからもどうかよろしくお願いいたします。





