116話 名乗り。
「さて。それじゃあいくわよ。うふふ。魔王が振るう【光】の聖剣の力、その身で存分に味わいなさい! 【聖光十字斬】! ……あら?」
天高く陽が上り、時刻は昼を越えたグランディル山の頂の、いまやただの瓦礫跡と化した遺跡にて。
聖女マリーアの存在のほとんどを奪った【死霊聖魔女王】〝玩弄〟のネクロディギス・マリーアがその異形の右腕で【光】の勇者ブレンの聖剣を十字に振るう。
だが、その意図に反して聖剣から飛びだす【光】の刃は一本だけ。ただし、あたり一帯のすべてを横なぎにするほどに長大な――それは、あきらかに僕たち全員を一撃で全滅させられるほどの威力を秘めていた。
……まずい!?
「全員、跳べ! ニーベ! ディシーを! ロココ!」
「ああ、わかった!」
「うん、ノエル」
ニーベリージュがディシーを。ロココが赤い呪紋を伸ばすと同時に、僕はその華奢な体を抱きかかえて大きく真上に跳んだ。
直後。
僕たちの真下で【光】の刃が通り過ぎる。その余波だけで、まわりすべての瓦礫を吹き飛ばして。
「あら? ブレンは簡単に使ってたのに、意外に難しいのね? でも、まあいいわ。一本でも威力は十分だし。そうね? いずれは十字の技も出せるようにするとして、とりあえずいまのは【聖光破斬】とでも名づけましょうか? うふふ。それにしても」
その威力に戦慄する僕の耳に着地と同時に聞こえてきたのは、異形の右腕を振り抜いたままで金色の髪を揺らして小首を傾げる【死霊聖魔女王】のそんな声。
「ずいぶんとお優しいのね? 【闇】属性の坊やたち。自分たちだけではなく、いまやなんの役にも立ちそうにもないのに、そこのふたりまで助けるなんて」
「あ、あぅ……」
「ぐっ、うぅ……!」
体に巻きつけていたロココの赤い呪紋を解除され、僕の上着を握りしめたまま地面に体を投げだす放心状態のステアと、もはや自力で立つ力も残っていなさそうな勇者ブレン。
そんなふたりをかばうように、僕は一歩前に出る。
「そんなのあたりまえだろ? 僕たちは守るためにここに来たんだ。【死霊聖魔女王】、お前を倒して【死霊行軍】を終わらせて、みんなを守るために。いままだ手がとどく命なら、僕たちはなんだって、だれだって守るさ」
「ああ! そのとおりだ!」
「うん! あたしもおんなじ!」
「ロココも」
鋭い眼光をたたえて、ニーべリージュが、ディシーが、ロココが、仲間たちが僕の左右に並んだ。
「うふふ。おもしろいわ、坊やたち。迫害されていると聞く【闇】属性なのに、そんな【英雄】じみたことをいうなんて。ああ、そういえばまだ名前を聞いていなかったわね?」
「ノエル・レイス。暗殺者」
名乗るとともに黒刀の切先をまっすぐに向ける。
「ニーべリージュ・ブラッドスライン! 恐慌騎士!」
青い霊火をまとうニーべリージュが槍斧をグルグルと振り回してから、ピタリと正面に向けた。
「ディシー・ブラックリング! 黒元の精霊魔女!」
「ロココ。呪紋使い」
それから、ディシーが胸の前であわせた手のひらの間に精霊を、ロココがぶわりと魔力を含んだ風を巻き起こす。
そして、全員の心をひとつにその名を宣言する。
「そして、僕たちは――」
「私たちは――」
「あたしたちは――」
「ロココたちは――」
「「「「――【輝く月】!」」」」
「【死霊聖魔女王】〝玩弄〟のネクロディギス・マリーア! 僕たちはお前という【闇】を打ち払って、世界を照らす【光】に――【英雄】になる!」
そう。僕たちは、そのためにここに来た。
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ということで、【輝く月】の名乗りがばっちり決まりました。ちなみに真っ黒マリーアは攻撃に巻き込まれない位置だったので放置です。
次回「戦闘開始」いよいよ過去最強の敵との決戦開始です。





