107話 玩具(おもちゃ)。※
※この章は基本的に別視点。三人称でお送りします。
【死霊行軍】の始まりにして終着点。天高く陽が上り、時刻は昼に差しかかりはじめたグランディル山の頂の遺跡。
その一軒の天井をなくした家跡にて。
(う、うぅっ……!)
【黎明の陽】の中でただひとり、戦場から無傷で逃れた少女――星弓士ステアが息を殺してうずくまっていた。
それも【死霊魔王】よりも前、【屍獣魔王】との戦いのときにはすでに。
もちろん、ステアとて最初は懸命に戦った。
【光】の矢を何度も打ちこみ、華奢なステアがあたれば一撃で即死しかねない【屍獣魔王】の攻撃を必死に避け――だが。
「【戦女神の祝福】!」
「【閃光突貫】!」
「【聖光十字斬】!」
『ソノ程度カァァァッ! 足リヌ! 足リヌ! マッタク足リヌゥゥゥゥッ!』
何度やっても、何をしても、必死に隙をつこうとも、まったく傷ひとつつけられないというその現実。
遠くから瀕死の相手にとどめを刺しただけの前回とはまったく違う、すぐ間近で感じる【魔王】の圧倒的な魔力と圧力。
もはやまったく勝ち目も見えず、絶望に心が支配されそうになったとき――
『どうせほとんど死ぬ』 『雑魚ども』 『せめて相討ちに』
――すでに疑心という楔をひび割れるほどに強くその心の奥底に打ちこまれていたステアに残ったのは、ただ【死にたくない】という思いだけ。
パパに会いたい……! ママに会いたい……! お姉ちゃんに……! 友だちに……! いっしょに過ごしてきた仲間に会いたい……! こんな、こんなひどいひとたちといっしょになんて……! こんなところで死にたくない……!
気がついたときには、すでにステアは戦場から離れ、駆けだしていた。
(う、ぐすっ……!)
そして、それからずっとこの天井の崩れた家跡の中に隠れ、嗚咽を噛み殺しながら、ただただうずくまっている。
【屍獣魔王】を【光】の勇者ブレンが討伐したことも、そのすぐあとにさらに力を増した【死霊魔王】に【黎明の陽】のほか3人が無様に敗北したことも知らないまま。
――ゆえに。
「ふぉっふぉっふぉっ……! やはりもうひとりおったか……! いかんのう……! 仲間を見捨てて、こんなところで隠れておっては……!」
「あ、あ……!? あああああぁぁぁぁぁっ……!? あ、あう、あ、あ……!?」
当然だったといえるだろう。すでに限界寸前で張り裂けそうだったステアがその異形の腕を下半身に生やす禍々しい髑髏を見て、その心の一部を壊しかけたことは。
「あう……!? うあ、う、うえぇぇぇぇん……! ぱぱぁ……! ままぁ……! こんなこわいところもうやだぁ……! ステアをおうちにかえしてぇぇ……!」
「は……? ど、どうしたのじゃ? この小娘? これでは、まるで幼子……? まさか……あまりの恐怖で一時的に退行……? いや、状況は理解できておるか? ならば、心のタガが外れて……?」
ひと目はばからずに大声を上げて幼子のように泣きじゃくりはじめたステアに、一瞬あっけにとられる【死霊魔王】。
だが、永い年月を生き、人間とは異なる思考回路を持つ魔王は、すぐにその可能性に思いいたる。
そして――
「ふぉっふぉおっふぉっ……! ということは……これはこれは、おもしろい玩具を見つけたのう……!」
――がらんどうの髑髏は心の底から愉しそうに、その幼子のように泣く少女を嘲笑った。
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というわけで、ステアが軽く壊れました。そして【死霊魔王】の玩具宣言でどうなるのでしょうか。
次回「誠心誠意」





