106話 落ちる陽。※
※この章は基本的に別視点。三人称でお送りします。
【死霊行軍】の始まりにして終着点たる、天高く陽が上り、時刻は昼に差しかかりはじめたグランディル山の頂にある遺跡にて。
「がっ……はっ……!」
「なんじゃなんじゃ、最近の若いものは情けないのう。たかだか全身の骨を砕かれたくらいで。のう? 【光】の勇者ブレン」
たったいま【屍獣魔王】の死霊を加工してつくった異形の巨腕によって自ら握り潰した勇者ブレンに親しげに語りかけるのは、がらんどうの髑髏――【死霊魔王】〝玩弄〟のネクロディギス。
戦いは、いや一方的な蹂躙は――すでに終わっていた。
【腕】だけに集中したことで【屍獣魔王】はおろか、生前の【獣魔王】にすら匹敵する膂力。自らの【闇】の魔力に加え、周囲の死霊を自在に操る能力。
そう。当然ながらあの圧倒的な攻撃力を誇る【死霊将軍】の【死霊滅波】さえも【死霊魔王】は使うことができる。それも、自らの魔力防御をはがさない完全な形で。
そして、彼ら【黎明の陽】の中で最も威力の高い【光】の勇者ブレンの【聖光極点突破】さえも【死霊魔王】の【闇】の魔力を集中した【盾】を破れない以上――
「…………」
「あ……。う、あ……」
――それはもはや戦いなどとは呼べず、ただ【黎明の陽】がどれだけ持ちこたえられるかというだけのものでしかない。
倒れるたびに回復薬を服用し、敵わずとも全力で立ち向かうことを敵であるはずの【死霊魔王】に強要されるその拷問にも似た時間は、しかし長くは持たずあっさりと終わりを告げた。
あとにはもはや絶命していてもおかしくないほどに痛めつけられ、大量の血だまりの中に沈む、うめき声すらあげない聖騎士パラッド。
その肢体に傷こそつけられなかったものの、まるで惨たらしい凌辱でも受けたかのように憔悴し、焦点のあわない赤い瞳で虚空を見つめて意味のないうめきを上げて座りこむ聖女マリーア。
ドシャッ。
「がっ……!」
そしていま、全身の骨を砕かれ、もはや自慢の聖剣を振ることはおろか立ち上がることさえもできなくなった【光】の勇者ブレンが無造作に地面に落とされた。
「ふむ……。終わりか……。正直もの足りんの……む? ひい、ふう、みい……おや? おかしいのう? たしか、もうひとりいた気がしたのじゃが……?」
(う、うぅぅっ……!)
朽ち果てた遺跡の中。
天井のない一軒の家跡の壁際で、うずくまる緑色の短い髪の少女はぽろぽろと涙をこぼしながら、口元をおさえて嗚咽を噛み殺す。
星弓士ステア。
【闇】属性の暗殺者ノエル・レイスと入れ替わりに【黎明の陽】に加入した最後のメンバーにして、血のにじむような修練によって後天的に強い【光】に目覚めた少女。
ステアの体には外傷はおろか、ほとんど魔力を使った形跡すらなかった。
それは、彼女がとっくに戦意を失っていたからにほかならない。
それも【死霊魔王】との戦いの前、【屍獣魔王】のときには、すでに。
お読みいただきありがとうございます。ブクマ、評価などいただきました方、深く感謝申し上げます。
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※というわけで、初期メンバーの3人が全滅し、【黎明の陽】が落ちました。といっても、これで彼らの出番が終わったわけではありませんが。大事な役割がありますので。
次回「玩具」。最後のひとり、ステアにスポットをあてます。





