105話 すべてを嘲笑う。※
※この章は基本的に別視点。三人称でお送りします。
「〝蹂躙〟のザラオティガ……! これでおぬしを縛る妄執は消え失せた……! もはやあらがえぬぞ……! さあ来い……! 哀れで惨めな獣の死霊……!」
【死霊行軍】の始まりにして終着点。天高く陽が上るグランディル山の頂にある遺跡。
【死霊魔王】〝玩弄〟のネクロディギスがその貧相ながらんどうの髑髏の体にまとう、すりきれた真っ黒な襤褸をぶわりと広げた。その内部にあるのは、空洞。
そして、その一対の骨の腕以外にはなにもない真っ黒な闇の中へいま――
グオオオオオオオォォォォォォ……!
――腐った肉体を塵と還した【屍獣魔王】ザラオティガの死霊が吸いこまれる。
「な……!?」
「いやいや、実はな? ブレンや。ほとほと困っておったのじゃ。こやつは自我が強すぎたのか、それとも魔王なるものはみなそうなのか、一度死んだだけではこの儂の支配を受けつけなんだ。そこで儂は考えた。ならばもう一度よみがえらせ、殺してもらえばいい、と。一度こやつを廃した【光】の勇者ならば適任じゃ、と。おぬしともう一度戦うのがこやつの望みでもあったしのう」
グチャ。バキ。メキャ。グチュ。
ふたたび閉じられた真っ黒な襤褸の中で響くのは異様な音。
骨や肉がめちゃくちゃに砕かれへし折られるような、聞くものに本能的な嫌悪感をかきたてるそれは、いままさにこの中で恐るべき変貌が遂げられていることを連想させた。
「いや、ブレンや。本当におかげで助かった。礼をいうぞ。それでこそ、わざわざ術式を施し、この【死霊行軍】などという面倒な事態を起こした甲斐があったというものよ」
「な……に……!?」
まるで好々爺のように【光】の勇者ブレンに親しげに語りかける【死霊魔王】。
だが、その話している内容は、そもそもこの【死霊行軍】自体が勇者ブレンたち【黎明の陽】を誘きだすために用意された罠だという、その根底さえも覆すもの。
【黎明の陽】。これまで戦ってきた冒険者たち。散っていった犠牲者たち。自らのつくりだした配下。
そして、果てに同格のはずの【獣魔王】でさえもすべてまとめて、このがらんどうの髑髏は嘲笑ったのだ。
「そうか……! 俺たちはただ、お前の手のひらの上でもてあそばされていただけだということか……!」
だが、その屈辱を自らを最上と自負するこの傲慢なる【光】の勇者が受け入れるはずもない。
身のうちに渦巻く激しい怒り。【屍獣魔王】を滅ぼしたときと同じ、いやそれ以上の【光】がその右手の聖剣の切っ先一点に集まっていく。
「ならば、これも当然お前の計画どおりだというわけだな……! お前がもてあそんだ道化の一撃、その身で味わってみてもらおうか! 【聖光極点突破】!」
【光】の勇者ブレンには、絶対の自信があった。自らの剣技の極致と思っていた【聖光十字斬】をはるかに凌駕する威力を持ち、あの【屍獣魔王】さえも打ち破ったこの技ならば、【死霊魔王】にも届く、と。
そして、それは正しい。
ただし――
「うむ。そのとおりじゃよ? よくわかっておるではないか……!」
「な……!? あ……!?」
そのまばゆく輝く聖剣の切っ先は、二本の指先で止められていた。
その真っ黒な襤褸の下半身から飛びだした【屍獣魔王】の死霊を加工してつくりだされた、異様に肥大した一対の異形の腕のひとつによって。
「ふぉっふぉっふぉっ……! じゃがブレンや。誇ってよいぞ? まっこと驚いた! これは、儂の想像以上の技じゃぞ! なにせ【魔王】たるこの儂が――【闇】の魔力を集中させねば、止められぬのじゃからなぁ……!」
――そう。あくまでも常時発動させている薄い魔力防御を破れるというだけの話でしかない。
【屍獣魔王】を吸収してその力をさらに増した【死霊魔王】の、その集中させた【闇】の魔力の【盾】を打ち破れる道理など、どこにもなかった。
「さて……! 長いこと前座の相手をさせて悪かったのう……! ここからは真打ち登場じゃ……! たしかおぬしのパーティーは【黎明の陽】といったかの……? そこに転がっておる大男や女、回復薬くらいは持っておろう? 儂の計画成就の褒美に立ち上がるまで待ってやるから、全員まとめて存分に死合おうぞ……!」
いま、【光】の勇者パーティーに運命の時が訪れる。このすべてを嘲笑う恐るべき魔王の手によって。
お読みいただきありがとうございます。ブクマ、評価などいただきました方、深く感謝申し上げます。
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※というわけで、計画が成就して【死霊魔王】がパワーアップしました。
ちなみに余談ですが、以前72話でいっていた【獣魔王】への友情うんぬんは全部噓です。最初から利用することしか考えていません。
次回、「落ちる陽」章タイトル半分の回収回。
真打ち【死霊魔王】による【黎明の陽】蹂躙開始です。





