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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第三章 対決・亜人狩り部隊編
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その83 メス豚、敗北を噛みしめる

 完全に私のミスだ。


 私は暗い山の中を走りながら、敗北感に打ちのめされていた。

 敵の”魔法殺しの秘術”。私はみすみすその罠にはまったばかりか、魔法も使えないまま危うく殺されてしまう所だったのだ。


『姐さん、黒豚の姐さん』


 その時、私は自分を呼びかける声に気が付き、ハッと立ち止まった。


『マサさん! 喋れるようになったんだ!』


 私の嬉しそうな声に反応したのだろう。アホ毛犬コマが体を摺り寄せて来た。

 ていうか、アンタ。口に咥えているピンククラゲが、拘束を逃れようと触手をウネウネ動かしているんだけど、気が付いていないわけ?




 幸い敵の追手も見当たらないため、私達はここで休憩を取る事にした。


『それで水母(すいぼ)。アンタもう大丈夫なの?』

問題無し(まあね)。本体との通信接続中(つながった)


 水母(すいぼ)のこのピンククラゲの体は、対人インターフェースとしての端末に過ぎない。

 彼の本体は研究施設の奥に存在する巨大コンピューターだ。

 そこから魔法科学的な方法でリアルタイムにこの体を操っているそうだ。

 どうやらさっきまではその通信が断線していたらしい。


 今? 今は大丈夫っぽいね。


『ていうか、さっきのは一体何だったの?』


 可能性としては敵の指揮官が言っていた”魔法殺しの秘術”だ。

 私も魔法が封じられてマサさんとの会話すら出来なくなってしまった。

 水母(すいぼ)本体との通信が切れたのも、その辺に原因がありそうだ。


『その前に検体クロ子を調査希望(しらべたい)


 フラフラと飛んで来た水母(すいぼ)をヒラリと躱す私。

 水母(すいぼ)は私の背後の木にベシャリとぶつかった。

 恨めしそうに振り返る水母(すいぼ)


 いや、だってアンタの体、コマの唾液でベタベタじゃない。

 そんな体で近寄らないで欲しいんだけど。


 水母(すいぼ)は渋々コマの頭の上に戻った。

 しっとりと濡れた塊に乗られて、イヤそうな顔をするコマ。

 いや、アンタもイヤなら別に怒ってもいいと思うんだけど?


『魔法殺しの秘術否定(じゃない)。あれは魔法触媒。それも割とありふれた物』

『あの粉の事? アンタあれを知ってるわけ?』


 どうやら水母(すいぼ)はあの粉の正体に心当たりがあるようだ。

 私の疑問にあっさりと答えてくれた。



 水母(すいぼ)が言うには、さっき見た粉は”魔法触媒”と呼ばれる化学物質だそうだ。

 用途に応じて種類はいくつもあり、あれは割とポピュラーな部類の物らしい。


 魔法触媒は大気中のマナに反応したり、マナを吸収したり、または全く反応しない物質の事を言う。

 前人類の魔法科学は、それら魔法触媒を素材に組み込んで、回路素子を作っていたんだそうだ。

 要は地球で使っている電気回路の魔法バージョンのようなもんだな。


『あれは熱を加えると炭素が魔素を吸着するようになる触媒物質』

『魔素を吸着?』


 あの粉は単体では安定しているが、熱を加える事で活性化。近くの炭素とマナが結合する手助けをするんだそうだ。

 ちなみに温度が下がると逆にマナを吐き出す。

 この性質を利用して回路の接点に使われる事が多いらしい。

 

『けどあの場には炭素なんて・・・あ。松明か』

恐らくは(そういうこと)


 火のついた松明を押し付ける事によって、触媒物質は炭素にマナを吸着。

 大気中からマナが減少した事で、私の魔法が使えなくなってしまった、というわけか。


 まさか敵がそんな物を持ち出して来るなんて。

 人間の魔法科学も案外馬鹿にしたもんじゃないな。


 ちなみに本来はこんな目的に使うのではなく、少量だけ炭素にコーティングして、スイッチ用の回路素子の材料として利用するんだそうだ。

 そういう意味でも、この世界の人間達の柔軟な発想は驚くべきものと言えるだろう。

 私は彼らの知恵を見直す必要があるようだ。


『流石に、この使用方法は(このはっそうは)想定外(なかった)


 魔法科学の叡智も、触媒物質のこんな乱暴な使い方は想像すらしなかったらしい。

 その態度はどことなく悔しそうにも見えた。


断固として否定(そんなわけない)

『意外な利用方法に気が付かなかったからって、私は別にとがめたり馬鹿にしたりはしないわよ?』

言葉の意味不明(かんけいない)到底理解不能なにをいっているのかわからない


 どうやら人間ごときに発想力で負けた事に、超古代コンピューターのプライドがいたく傷付けられたらしい。

 水母(すいぼ)はすっかり意固地になってしまった。


 ――いや。プライドが傷付けられたと言うなら私も同じか。


 私は以前、法王国の部隊を相手に大立ち回りを演じた事で、どうやら少々いい気になってしまっていたらしい。

 人間の軍隊恐るるに足らず。そんな風に天狗になっていたのだろう。


 あの時は条件が私にとって有利だった。

 そう思ってはいても、どうしてもこの世界の人間の力を下に見ずにはいられなかったようだ。


 その結果がこのざまだ。


 触媒物質によって魔法が使えなくなったまではまあいい。

 元々相手に”魔法殺しの秘術”がある事を知った上で飛び込んだのだ。

 ある意味これも想定の範囲内。

 そもそも相手の手の内を知るための威力偵察だったのだ。


 だが、魔法が使えなくなった途端、無様にうろたえて、ヤツらに取り囲まれてしまったのは良くなかった。

 マサさんとコマが機転を利かせて助けてくれなければ、私はあの場でなすすべなくヤツらに殺されていたに違いない。


 魔法は確かに強力だ。

 だが万能でも全能でもない。

 今夜、私はその事を思い知らされた。

 魔法の長所と欠点を知らなければ、いつまた今回のような事にならないとも限らない。

 そしてその時は助けは来ないかもしれない。


 今日の敗北を噛みしめよう。

 そして二度と同じ轍を踏まないように教訓にしよう。

 私は学習するメス豚なのだ。


 確かに私は今夜負けた。でも死んだわけじゃない。

 死ねばそれっきり。

 私は生きている。この経験を次に生かす事が出来る。


 私が目指すのは、きらびやかな全戦全勝の完全勝利の道じゃない。

 もっと泥臭く、見た目の悪い道だ。

 だが、死なない事。しぶとく生き残る事、それこそが私の勝利なんだ。

 今日の敗北は単なる敗北であって、終わりではない。

 最後の最後まで、この四本の足でしっかりと大地に立ってさえいれば、私にとっては”勝ち”なんだ。


『今日はもう村に帰ろう。モーナが心配しているだろうし』


 みんなにそう告げた時、私はハッと気が付いた。


 そういや誰にも言わずに飛び出して来たんだっけ。


 ――しまったな。

 いやまあ、それどころじゃないと思ったからそうしたんだけど。けど、こんな事ならあの時もう少し落ち着いて行動すれば良かった。


 急に元気を失くした私を、コマが「キューン」と鳴いて慰めてくれた。


『ありがとうコマ。一緒にモーナに怒られようね』

「ワンワン!」


 コマに「ゴメンこうむる!」と吠えられた気がして、私は少しへこんでしまった。


 ああ、憂鬱だわ。

 せめて華々しい戦果でもあれば、少しは恰好も付いたんだけど。


『・・・帰ろうか』


 私は闇の中、力なくトボトボと村までの道のりを歩くのだった。

 カッコ悪いったらありゃしない。

次回「三本柱生まれる」

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― 新着の感想 ―
[一言] 「豚」「噛み締める」...なんか美味しそうw
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