その63 メス豚、最初の天誅
大男達のテントから出ると、外の雨はやや小降りになっていた。
土砂降りの方が救出作戦的には助かるんだけど・・・
急がないとな。
『もう一人の亜人が囚われているテントってどれ?』
『当該テント』
ピンククラゲ水母の指し示す先は、数ある士官用テントの一つだった。
『風の鎧』
私は魔法を発動させると身体強化。
音も無く素早く目的のテントへと向かった。
以前にも言った事があるが、豚の聴覚と嗅覚は極めて発達している。
テントに近付いただけで、私は中で何が行われているか概ね察してしまった。
私の頭に怒りで血が上った。
『! この外道が!』
私は黒い弾丸となってテントに飛び込んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
テントの主は亜人の少女をさらった例の大柄な騎士団員だった。
本来であればここは士官用のテントで、平団員の彼のいるべき場所ではない。
実際に彼の親は法王庁の頂点、枢機卿団の一柱だった。
神の使徒と呼ばれる六角の一人。
そんな人物を父親に持つ彼に逆らえる者は、この団の中にはいなかった。
日頃から彼は親の威光を笠に着て我が物顔に振る舞っていた。
平団員でありながら、士官用のテントに寝泊まりし、小姓や使用人に自分の世話をさせているのがその証拠だ。
今は使用人達は別のテントに下がらせている。
特別なお楽しみの時間だからだ。
バシイッ! バシイッ!
「ホラッ! どうした! もう泣かないのか?! さっきまでの元気はどうした?!」
興奮に口の端から涎を垂らしながら、乗馬用の鞭を振りかぶる大男。
バシイッ!
まだ幼い亜人の少女に鞭が振り下ろさせた。
彼女は両手を縛られた上で、首に縄をかけられて地面の杭に繋がれている。
服はとうに破れ、白い背中には見るからに痛々しい裂傷が無数に刻まれている。
少女が痛みに泣き叫んでいたのは最初だけ。
約四半刻(30分)にも及ぶ責め苦に、彼女の涙は枯れ果て、息も絶え絶えとなっていた。
男は鞭を放り出すと、心底痛ましそうな表情で少女に語り掛けた。
「おお、こんなに血を流して可哀想に。痛かったか? 済まなかったな」
猫なで声で優しく少女の髪を撫でる男。
その股間はズボンを破らんばかりにテントがそそり立っている。
彼は幼い子供の傷付いた哀れな姿に興奮を感じる、加虐嗜好の変態趣味の持ち主だったのだ。
「さあお前の体をもっと良く見せておくれ。うひっ。うひひひっ」
長時間に及ぶ責め苦に、少女は完全に抵抗する意思を失っていた。
男はまるで人形のように身動き一つしない少女に覆いかぶさり、彼女の服を脱がしていく。
男の手が自分のズボンのベルトにかかったその時。
バンッ! と大きな音を立てて、テントの入り口から黒い塊が飛び込んで来た。
◇◇◇◇◇◇◇◇
テントの中は血の匂いが漂っていた。
まるで犬のように首に縄を付けられた幼女。
全裸に剥かれた彼女の背中には無数の鞭打ちの痕が刻まれ、今もじくじくと血を流している。
そんな幼女にのしかかる、だらしなく表情を緩めた半裸の男。
男のズボンは半ばまでずり下ろされ、パンツは獣欲にそそり立っている。
今までここで何が行われていて、これから何が行われようとしているのか。
説明されるまでも無く、この光景を見ただけで一目瞭然だ。
私の留守中に、村を襲って村人をさらったアマディ・ロスディオ法王国の騎士団共。
確かに、今までの私にも彼らに対する怒りはあった。
しかし、それはどこか方向性の欠けた怒りだった。
何といえばいいのか、法王国に対する怒りだけじゃなくて、この世界の理不尽に対する怒りや、上手くいかない事に対する怒り、そういったものが混ぜこぜになった、漠然とした怒りだったような気がする。
しかし、私の目の前にいる、自分が痛めつけた幼女に股間を膨らませる腐れ外道。
そして、さっきのテントで見た、酷い拷問を受けた亜人の大男。
今や私の中で嫌悪感は明確に憎悪という形となって、アマディ・ロスディオ法王国へと向けられていた。
神の名の下に、宗教を言い逃れにして、己の非道な行いや獣じみた欲望を正当化するアマディ・ロスディオ法王国。
カルト宗教の狂信者共め。
お前達を愛する神が許しても、この私だけはお前達の行いを絶対に許さない!
「な、何だ? この豚は?」
『罪を償え! 最も危険な銃弾!』
私の魔法が発動。不可視の空気の棘は男の股間に命中すると血の華を咲かせた。
パンッ!
「ギャアアアアアアアッ!」
「坊ちゃま! 何が?!」
男の悲鳴を聞きつけて、中年男性がテントに飛び込んで来た。
『最も危険な銃弾!』
「?!」
男の顔面が弾けると、彼は声も無くその場に倒れた。
即死したようだ。
誰だか知らないが、大男を坊ちゃまとか言ってたし、この男の仲間には違いない。
コイツの外道の所業を知っていて止めなかったお前も同罪だ。
『クロ子、指摘』
ピンククラゲ水母が指差す方向を見ると、大きな衣装棚があった。
扉は少し開いていて、中からはほのかな異臭が漂っている。
『最も危険な銃弾!』
「うわああああっ!」
私の魔法で扉が外れると、中には中学生くらいの男の子が隠れていた。
ズボンを脱いだ下半身丸出しで、まだ皮を被った少年チンチンは床に水の染みを作っている。
さっきの異臭はコイツのおもらしだったのか。
てか、こんな所でズボンも履かずに何をやってたんだ?
その時、股間を押さえた大男がうめき声を上げた。
何となくそっちを見た私の目に、幼女の裸が飛び込んで来た事で、少年チンチンの目的を理解した。
なるほど。少年チンチンはそこで死んでいる中年男性の同僚――大男の部下だな。
多分、小姓とかそういうヤツだ。
何でそんな彼がタンスの中に潜んでいたのか?
それは彼がお尻丸出しの少年チンチンの時点でお察しというものだろう。
つまり、主と幼女の性交をのぞき見して、自家発電に励んでいたのだ。
主が主なら従者も従者だな。
『死ね。最も危険な銃弾!』
薄汚い少年チンチンは顔面が弾けて果てた。
これでもう二度と青い性の暴走でタンスに忍び込むような事は無いだろう。
いわゆる賢者タイムというヤツだ。違うって。
さて、そろそろいいか。
私は股間を押さえて悶絶する大男に向き直った。
色々と邪魔が入ったけど、ある意味程良い贖罪タイムになったんじゃないかな?
さあ。懺悔は終わったか? 三途の川の渡し船の出航時間がやって来たぞ。
お代はお前の穢れた命だ。
おっと、その前に。
『点火』
「ひっ!」
前髪を焼く火に、大男が驚いて顔を上げた。
恐怖と激痛にゆがんだ顔が私を見つめる。
そうだ。良く見ておけ。
これがお前がこの世で最後に見る光景だ。
この顔を、この姿を、地獄に落ちても覚えておくがいい。
『最も危険な銃弾!』
パンッ!
むっ。浅いか?
『最も危険な銃弾! 最も危険な銃弾!』
大男の顔が大きすぎたのか、あるいは他人より頭蓋骨が硬かったのか。最も危険な銃弾一発では致命傷を負わせられなかったようだ。
私は追加で二度、魔法を発動した。
不可視の弾丸は狙い過たず、最初に開けた額の穴に直撃した。
最も危険な銃弾の衝撃が、内側から大男の頭蓋骨を吹き飛ばし、大男は頬骨から上をキレイに消し飛ばして絶命した。
そうだな。あれ言っとくか。
『へっ。きたねえ花火だ』
『花火? 花火、不明。情報の共有を求む』
私の背中でフルフルと震える水母。
私は彼を無視すると、目の前の凄惨な光景を無気力に眺める幼女へと向き直った。
次回「メス豚、集積所を襲う」




