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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第三章 対決・亜人狩り部隊編
60/518

その58 メス豚、残された村人達に会う

 雨に濡れる廃墟の村。

 私は無力感に打ちひしがれていた。


 ――理不尽には立ち向かう。悪意からも目を反らさない――


 そう誓って力を手に入れた挙句がこれ(・・)だ。


 私が力を得るためにほんのひと月ほど村を離れたその間に、村は人間の軍隊に襲われて壊滅してしまった。


 私はどうすれば良かった? どうするのが正解だったんだ?


 後一日、いや、半日でも早く村に戻っていれば、こんな風にヤツらの自由にはさせなかった。


 パイセンが、パイセンの恋人のモーナが、私を慕っていた子供達が、村の大人達が・・・ ほんの目と鼻の先、タッチの差で伸ばした手からすり抜けていった。


 そこに怒りはなかった。

 ただただ虚さだけがあった。

 巨大な虚無が私の心に重くのしかかっていた。




『黒豚の姐さん。いつまでもこうしていないで村に入りませんか? まだ生きている亜人もいるかもしれません』


 マサさんの言葉は正論だ。ここで立ち尽くしていても仕方が無い。

 しかし私の足は動かなかった。


 私は現実を直視するのが怖かったのだ。


 今ならまだ村人達が逃げ延びたという可能性もゼロではない。

 けど、もし村に入って積み重ねられた死体なんて見てしまったら――


「ワンワン!」

『コマ! うるさい!』

コマの訴えを承認(コマ、わかった)。――調査完了。クロ子、報告(きいて)。村の建物に複数のデミ・サピエンス(むらびとが)を確認(いるよ)

『?! なん・・・だって?』


 水母(すいぼ)の言葉に私は固まってしまった。




 ピンククラゲこと水母(すいぼ)

 彼は前人類の作った対人インターフェースであり、各種観測機器の集合体でもある。

 どうやら彼はコマの訴えを受けて、そのセンサーで村の中を調査してくれたらしい。

 その結果、村の中にはまだ多くの亜人が残っている事が判明したのだ。


『正面、一番大きな建物(まだマシなぼろや)

『! 村長の家か!』


 私達は村の中に駆け込んだ。

 村の中に入ると、思っていたよりも荒らされていない事に逆に驚いた。

 あの時は壊された廃墟に見えたが、どうやら見た目よりも建物にダメージは無さそうだ。


 この様子ならひょっとして!


 私は風の鎧(ヴォーテックス)の魔法で身体強化をするのももどかしく、村長の家――モーナの家を目指した。


「クロ子か?!」

『パイセンの家のお爺ちゃん?!』


 村長の家の窓から外を見張っていたお爺ちゃんが私を見つけて声を上げた。


「クロ子?!」

「本当にクロ子だ!」

「クロ子ちゃん! 危ないわ! まだ人間が残っているかもしれない! 早くこっちにおいで!」


 お爺ちゃんの声を聞いて、次々と顔を見せる村の子供達。

 彼らの姿を見て、嬉しそうな声を聞いて、私はホッとして足から力が抜けそうになった。

 パイセンのお婆ちゃんがドアを開けると、濡れネズミの私達を家の中に招き入れてくれた。


 私達は家に入るとブルブルと体を震わせた。


「うわっ! 誰か乾いたワラを持って来い!」


 この世界にはバスタオルなんて洒落た物はない。少なくとも亜人の村にはない。

 みんな濡れた体は乾いたワラを束ねた物か脱いだ服で拭いている。

 村では布すら貴重品だからな。


 てか、何気に村長の家に入るのは初めてだ。

 とはいえこんな貧乏村だし、パイセンの家とさほど変わり映えしないけどな。


『お婆ちゃん、村に一体何があったの? 他の人達はどうなったわけ?』


 私はお婆ちゃんに体を拭いてもらいながら尋ねた。

 そう。ここにいるのは老人と子供だけだったのだ。


「ああ、うん。あれは朝の仕事を終えて昼食の準備を始めた頃の事だったわ――」


 パイセンのお婆ちゃんの話で、ようやく私はこの村を襲った災厄を知る事になったのだ。




 私はドア代わりのすだれをくぐった。

 ここはモーナと彼女の母親の部屋。

 亜人の青年が一人、床に体育座りで顔を伏せていた。

 モーナの恋人、パイセンだ。


 私の接近に気付いてハッと顔を上げるパイセン。


「! く、クロ子! お前村に戻っていたのか?!」

『・・・話はお婆ちゃんから聞いた』


 パイセンは久しぶりの再会に一瞬嬉しそうな顔をしたものの、私の言葉を聞いて直ぐに表情が抜け落ちた。


『一丁前に後悔してるつもり? 恋人を見捨てた裏切り者が』

「! ぐっ! ・・・俺は!」


 そう。パイセンはモーナを見捨てたのだ。


 村が人間の軍隊に襲われた時、モーナのパパ――村長は娘と妻に女子供を引き連れて裏の山に逃げ込むように指示した。

 ちなみに襲って来たのはアマディ・ロスディオ法王国の騎士団。

 といっても、国の軍隊ではなく、アマナ神を奉じる法王庁に所属する騎士団らしい。

 聖職者のくせに自前の暴力集団まで持っているとか。やっぱアマナはロクな宗教じゃないね。


 村に残った男達は襲って来た騎士団に抵抗したが、彼らでは最初から勝負にはならなかった。

 戦いとも呼べない戦いはあっさりと終わり、村は人間の手によって蹂躙された。

 村長を始めとした何人かは戦いの中で命を落とし、生き残った男達は全員騎士団に拘束された。


 裏山に逃げていたモーナ達女子供も別動隊の手ですぐに捕まえられた。

 パイセンは彼女達がさらわれていくのを指をくわえて見ているだけだった。


 どうやら敵は事前にこの村の情報を掴んでいたようだ。

 誰も逃げられないように、最初から村を完全に包囲していたらしい。


 騎士団は村人の中から若い女と男を選別した。

 男は奴隷として働かせるために。

 そして女は男の性のはけ口にするために。

 そのため、体の弱い者や、今回の戦いで大きなケガを負った者達は置いて行かれた。


 何が法王庁の騎士団だ。

 ヤツらはただの人さらい。神の名のもとに合法的に亜人をさらう山賊。薄汚い奴隷商人だったのだ。


 彼らは奴隷商人らしく、商品の品質管理には最低限の気を配っていた。

 そして売り物にならない子供と年寄りは残し、村の建物も必要以上には破壊しなかった。

 残った亜人達が、村で生活を続けられるようにしたのだ。


 もちろん彼らの行為は善意や施しから出た訳では無い。

 時が過ぎて村人の数が増えたらまた襲いに来る。そのための下準備だ。

 要は畑に水をやったり、肥料をまいたりするようなものだ。


 人間至上主義の狂信者共め。

 全く胸糞が悪いったらない。


 しかし、今回ばかりはヤツらの奴隷ビジネスがこちらに幸いした。

 死んでしまった村人達――例えば村長とかは流石にもう救えない。しかし、奴隷として連れ去られた人達はまだ生きている。


 まだ私にはチャンスが残されている。

 さらわれた村人達を、ヤツらの薄汚い手から救い出すのだ。


 ついでにヤツらには、私の留守中に縄張りを荒らした報いを受けさせてやる!

次回「メス豚とパイセンの覚悟」

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