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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第三章 対決・亜人狩り部隊編
56/518

その54 ~法王庁の使者~

◇◇◇◇◇◇◇◇


 イサロ王子の戦勝式典後のパーティー会場。

 華美な礼服に身を包んだ、痩せた小柄な青年が湧き上がる怒りを堪えきれずにいた。

 顔色の悪い神経質そうな青年だ。

 彼はアルマンド・サンキーニ。

 イサロ王子の兄であり、この国の第一王子である。


「何が戦勝式典だ! アイツは敗軍の将となっていたはずなのに!」


 今回の戦は本来、勝てば軍を指揮したルジェロ将軍の功、負ければ総大将であるイサロ王子の責任、というどちらにしてもイサロ王子にとって益の無い出兵のはずであった。

 しかし見ての通り、結果は式典が開かれる程の勝ち戦となり、その功績はイサロ王子のものとなっている。

 初戦でルジェロ将軍が意識不明となり、その後を継いだイサロ王子が敵を返り討ちにしたためである。


「元々こちらの方が兵は多かったのだ! 勝つのが当たり前! それをさも自分の手柄のように勝ち誇り、このような式典まで開くとはあの恥知らずめが!」


 大きな舌打ちをするアルマンド王子。

 王子の取り巻きの貴族達は、さようごもっとも、と追従する。

 ちなみにこの式典は王子の父親である現国王が開いたもので、イサロ王子が開いたものではない。

 彼らもそれは良く分かっているはずなのだが、誰もそれについては触れるつもりはないようだ。


 そんな王子の取り巻きの中に一人、へそ曲がりなのか空気が読めないのか、異を唱える青年がいた。

 まだ若い貴族だ。流行りのデザインの服を粋に着こなしている。


「しかし、認めるべき所は認めざるを得ないでしょうな」

「何だと?」


 明らかに気分を害する王子に気付かないのか、彼は言葉を続けた。


「私も話を伺いましたが、イサロ殿下の策は正に妙計でした。殿下の(はかりごと)には、かの目利きのカサリーニ殿も感心されたとかされなかったとか。殿下が知恵の神ルサリソスにご加護を受けているとの噂も、けだし、根も葉もない話ではないのかもしれませんなあ」


 知恵の神ルサリソスは大二十四神の一柱で、知恵と叡智を司る男神(おがみ)だ。また、学問の神でもある。

 

 アルマンド王子は眉間に皺を寄せると、手にしたカップを叩き付けるようにテーブルに置いた。

 そのまま彼は何か言おうとしたが、上手く言葉に出来なかったようだ。

 アルマンド王子は決して頭の回転の良い方では無い。

 そのため、こうして感情が高ぶると言葉が出なくなる傾向があった。


 結局、王子は歯を食いしばると踵を返し、会場を後にしたのだった。



 王子の取り巻きがハラハラする中、王子を怒らせた当の本人は涼しい顔で酒を味わっている。

 そんな彼の袖を人の良さそうな小太りの男が引っ張った。


「ベルナルド。殿下を怒らせてどうする。少しは周りの者達の事も考えて喋れ」

「そうかね? 私はそんなつもりはなかったんだがね。残念ながら殿下には私の心は通じなかったようだ」


 二人はアルマンド王子の取り巻きの中では最も若手の貴族家当主となる。

 領地が近い事もあって普段から家族ぐるみで付き合いのある関係にあった。


 友人に呆れられたベルナルドだが、実際に彼はアルマンド王子のためを思って進言したつもりでいた。

 詳細は省くが、いくつかの情報から、彼はこの度のイサロ王子の策が、本当は王子の頭から出たものではない事を確信していた。

 他人の耳もあるので、知恵の神ルサリソスになぞらえこそしたが、事情を知る者であれば彼が本当は誰の事を言いたいか察する事が出来ただろう。

 嫉妬深く視野の狭いアルマンド王子には伝わらなかったようだが。


「おい、ベルナルド!」


 友人の強い口調にふと顔を上げれば、アルマンド王子の取り巻き貴族達が彼の事を睨んでいた。

 ベルナルドは小さくため息を付いた。


(他人の忠告を素直に受け入れられない点では、俺も殿下の事を笑えないらしい)


 彼は友人に背中を押されるようにテーブルから離れるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 大広間から出たアルマンド王子。

 その王子に王家付きの使用人が慌てて駆け寄った。


「何?! カルドーゾ卿が私に?! 分かった。直ぐに向かうとお伝えしろ」


 王子は使用人を向かわせると、自分は身だしなみを整えるためにメイドを伴って近くの休憩室に入った。




 王城の貴賓室。

 そこには聖職者の恰好をした男達が通されていた。

 一人だけ明らかに金のかかった法衣に身を包んでいるのは、ひょろりと背の高い男。

 どうやら彼がこの集団の代表のようである。


 ドアの外から来訪者を告げる声が響いた。


「アルマンド殿下が参りました」

「これはこれはカルドーゾ卿。私に話があると伺いましたが?」


 部屋に入って来たのはアルマンド王子。

 先程までの不機嫌さはどこへやら、その顔は満面の笑みを湛えている。


「殿下。司教の前ですぞ」

「おおそうか。済まなかった。つい気が逸ってしまって」


 聖職者の男の一人から囁かれ、王子は一歩下がった。

 そのまま長身の男――カルドーゾの前に恭しく膝をつく。


 カルドーゾはアマディ・ロスディオ法王国の法王庁所属とはいえ、ただの司教。

 位で言えば枢機卿団の神の使徒(アマライ)、評議会議員の高位聖職者(デラス)に次ぐ、上位聖職者(ソマラス)でしかない。

 本来であれば一国の王子が膝を屈して良い相手ではないのだ。

 だが、この愚鈍な王子は自分の行為が意味するものを良く理解していなかった。

 司教に膝をつくのではない、法王庁の崇めるアマナ神に対して膝をつくのだ、と言われて素直にそれを鵜呑みにしているのだ。


「本日はイサロ殿下の戦勝に対する、祝いの言葉を述べに参りました」


 ここでも弟王子の名前を聞かされて、アルマンド王子は不快感に眉間に小さく皺が寄る。


 ちなみに第一王子であるアルマンドはアマディ・ロスディオ法王国に、第二王子であるカルメロはカルトロウランナ王朝と、それぞれが三大国家の一国を後ろ盾としていた。

 ――と、本人達は考えているのだが、実際はいいように取り込まれているだけに過ぎない。

 とはいえ、三大国家に挟まれたこの国が独立していくためには、どうやっても付かず離れずの関係を維持していく他ないのも事実である。

 この理屈でいくならばイサロ王子は残った三大国家のひとつ、大モルトと組むしかないのだが、大モルトは政治的に安定していない。

 具体的には、宰相となるアレサンドロ家が実質国の実権を握り、絶えず派閥争いを繰り返しているのだ。

 迂闊にどこかの勢力に手を出して、この国にまで覇権争いに巻き込まれたら消し飛ばされかねない。

 大モルトは危険な火種と言ってもいいだろう。


「アルマンド殿下の方からイサロ殿下にお伝え頂ければと思います」

「・・・分かりました。弟には私の方から伝えておきます」


 不満を噛み殺すアルマンド王子。

 カルドーゾが直接イサロ王子に祝辞を述べなかったのは、ある意味アルマンド王子に配慮しての事だ。

 周囲に法王国とアルマンド王子との強い繋がりをアピールする機会を提示したのである。

 だが、弟王子の成功に嫉妬するアルマンド王子は、カルドーゾの気遣いに気が回らなかった。


 さて、社交辞令はここまで。

 カルドーゾはこの城に来た本来の目的を果たす事にした。


「それで殿下にご相談したい事があるのですが・・・」

「何でしょうか? 私に出来る事であれば何なりと」


 


「教導騎士団がこの国を通る許可を頂きたいのです」

「法王庁直属の教導騎士団が? それはまた一体どういう事ですか?」


 教導騎士団は法王庁の組織内における武力集団だ。

 アマディ・ロスディオ法王国は大きく分けて三つの騎士団が存在する。

 王家の武力である王家騎士団、傘下の貴族の持つ武力である貴族騎士団、そして法王庁が持つ武力である教導騎士団だ。

 この中で教導騎士団が最も狂信的でタチが悪い。


 アマナ神の教義では神はアマナだけで、それ以外の存在を神と信じて奉じる者達は失格者であり堕落した者達なのである。

 教導騎士団はその名の通り、そんな蒙昧な愚者を教え導くために神に選ばれた先兵なのだ。

 彼らは法王庁が敵と認めた勢力を殺し、奪い、その悲鳴を神に捧げる。

 神の教えを知らない者達を相手に、彼らはどこまでも非情で残忍に振る舞う事が知られている。


「メラサニ山地に亜人が逃げ込んでいるという情報を得まして。法王国側から向かうには近くに村もありませんし、この国の街道を通過させて頂ければと」

「そういう事ですか。でしたら喜んで」


 自国の街道を武装した他国の騎士団が通過する事に対し、安易に許可を与えたばかりか、なんら危機感を抱かないアルマンド王子。

 彼がアマディ・ロスディオ法王国を後ろ盾にしているという事実もあるが、彼自身が熱心なアマナ神の信者である事も理由である。



 アルマンド王子が席を外すと、カルドーゾは小さくため息を付いた。


「サイラムの町さえ落とせていれば、このような薄汚い亜人狩りなどに出向かずに済んだものの」


 カルドーゾは心底不愉快だった。


 彼は先日、顧問官として大モルトの国境近くの異教徒の町、サイラムを落とす任務に就いた。

 本来であれば苦も無い戦いのはずだったが、敵守備隊の粘り強い防衛に妨げられ、町の攻略は遅々として進まなかった。

 そうこうしているうちに敵の援軍が到着。

 結局、法王国軍は援軍のジェルマン・アレサンドロの軍に背後を突かれて敗走したのみならず、勢いに乗ったジェルマン軍の越境を許し、国内の村や町を荒らされるという失態まで演じてしまった。


 組織内で大いに面目を失ったカルドーゾは、早急にその失点を補う必要があった。


(この歳になって村々を回る生活に戻るなど冗談じゃない。あんな惨めな思いは二度とごめんだ)


 法王庁に務める上位聖職者(ソマラス)であり司教でもあるカルドーゾだが、若い頃は僻地の村々を回る司祭だった。

 彼は叩き上げで地方の下位聖職者(トリエゴラス)から、中央の上位聖職者(ソマラス)に上り詰めた人物なのだ。

 それだけに底辺の司祭や助祭の生活の惨めさをイヤと言う程思い知っていた。


(今度こそしくじれない。だからこそ安くない金をつぎ込んで、頭を下げてまで教導騎士団を借り受けたのだ)


 教導騎士団は彼が代表を務める外務部が所属する執行局。その上位に位置する赦免院の直属となる。

 サイラムの戦いでは男爵家を頼って失敗したカルドーゾは、今度は法王庁直属の戦力を使って挑む事にしたのである。

 後のない状況に、カルドーゾは並々ならぬ意気込みで取り組もうとしていた。


 彼が目指すのはサンキーニ王国とヒッテル王国の国境線上の山地メラサニ。

 クロ子とフランス人転生者ククトの住む亜人の村のある山であった。

次回「山狩り」

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― 新着の感想 ―
[一言] 村人の少女を助けられなくて、くろ子が自分の無力さを痛感し 新たな力を得に行く事を決心させた事件の切っ掛けですからね
[一言] 用心しないで人間に接触した連中が立てたフラグが回収されるのか 覚醒くろ子の本気を披露するには最高の舞台だな
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