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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十五章 楽園崩壊編
517/518

その514 ~野望の終焉~

◇◇◇◇◇◇◇◇


 カルテルラ山の麓、土笛の庭園(オカリナ・ガーデン)の奥にそびえ立つ通称ペドゥーリ城。

 楽園村を巡る戦いが終わってから今日で三日目。

 亜人村制圧の知らせがカロワニー・ペドゥーリの元へと伝えられていた。


「亜人共は最後の抵抗として、自分達の村に火を放ち、我々を焼き殺そうと致しました。しかしドッチ男爵が冷静沈着に消火をお命じになった結果、一部区画が焼け落ちただけで、大きな被害を出す事なく終わったのです」


 一部区画どころか、実際は村の建物の半分近くが焼け落ちているのだが、戦地からの報告とは大抵こういうものである。

 戦果は過大に、被害は過少に伝えられるのが常なのだ。

 騎士の報告が終わると、カロワニーは苛立ちも露わに身を乗り出した。


「村が焼けたとかそんな報告はどうでもいい! 亜人共は! いや、亜人の村長は捕らえたのか!?」


 カロワニーの剣幕に、報告を告げた騎士は痛い所を突かれた顔を見せた。


「それが、亜人共は村を焼き払うと山奥へと逃亡。現在も捜索が続けられているのですが・・・」


 騎士は申し訳なさそうに報告を続けた。




 今から遡る事三日前。戦いの夜が明けた翌日の朝。

 村に広がった火の勢いが粗方収まった事で、カロワニー軍はようやく落ち着きを取り戻していた。


「部隊の半数は建物の消火作業に当たれ! 残りの半数は逃げ出した亜人共を追うのだ!」


 激しい戦いの連続に兵士達が疲労困憊なのは分かっていたが、指揮官のドッチ男爵は、そう命じざるを得なかった。

 火は放っておくと自分達の陣地まで届きかねないし、時間が経てば経つ程、逃げた亜人達を追うのは困難になってしまう。

 これは時間との戦いなのだ。今は休んでいるような時間はなかった。


「ご報告致します!」


 ようやく火事を消し止め、一息ついたそのタイミングで、追跡部隊からの連絡が入った。

 本部にいる誰もが朗報を疑わない中、兵士の口から語られたのは信じられない内容であった。


「亜人共が消えただと!?」


 追跡部隊は亜人の村人を発見出来なかったと言うのである。

 ドッチ男爵の家臣が怒りの声を上げた。


「バカを言え! ここには何千人もの数の亜人が住んでいたのだぞ! それを誰一人見付けられないとはどういう事だ!」

「そ、そう言われましても・・・」


 連絡の兵士はアタフタと取り乱しながらも、とにかく消えたとしか思えないの一点張りで、その報告はどうにも要領を得なかった。


「現場では今なお捜索が続けられていますが、移動した形跡すら見つけられていない状況でして。作業も難航しております」

「ええい、もういい! お前では埒が明かん!」


 ドッチ男爵はイスを蹴飛ばす勢いで立ち上がった。

 彼らしからぬ気の短さだが、徹夜の戦いにまだ神経の高まりが収まっていなかったのかもしれない。


「こうなれば俺自らが確認に行く! お前達も付いて来い!」

「「「はっ!」」」


 ドッチ男爵は自ら亜人達の後を追う事を決意した。

 しかし、すぐに彼も報告に来た兵士と同じ光景を見る事になるのだった。




 亜人達の逃げた跡は、村の裏側から出て山の中へと続いていた。

 戦いが終わってからまだ半日。四千人以上もの人数が移動した跡は、踏み固められた小さな道として山の斜面にハッキリと残っていた。


「亜人共が消えただと? はんっ! こんなに分かり易い痕跡を残しているというのにか? 追跡に向かったヤツらはよほど眠気で目が見えなくなっていたと見える」


 誰かの呆れたような声に小さな笑いが起きた。

 そのまま山の中を歩く事約一時間。

 即席の道は唐突に現れた小さな広場で終わりを告げていた。


「道はここで途切れているようですな」


 見回すと多くの人間が休憩を取った痕跡がある。少し前まで村人達がここにいたのは間違いないだろう。

 しかし、ここで痕跡はフツリと切れている。

 ドッチ男爵は正面の崖を見上げた。


「まさか亜人共はこの崖を登ったのか?」


 崖の高さは十メートル以上。ほぼ垂直に切り立っていて手掛かりになりそうな物は特にない。

 壮健な若者ならまだしも、女子供に老人を連れた亜人達がこの崖を登ったとはとても思えなかった。

 崖の上には兵士達の姿が見える。追跡部隊の兵士達が迂回して崖の上にたどり着き、亜人達が残した痕跡を探しているようである。

 ドッチ男爵はこの場に残って指揮をしていた追跡部隊の将に尋ねた。


「崖の上も探しているようだが、何か見つかったか?」

「いえ、何も。この広場の周囲もしらみつぶしに調べておりますが、大勢の人間が移動した痕跡はまだ何一つ見付かっておりません」


 広場に繋がっている道は一つだけ。ドッチ男爵達も通って来た、村へと通じるあの細道だけである。周辺にそれ以外の道はなく、背後の崖の上にもそれらしい物は見付かっていない。

 なる程、連絡の兵士が「消えたとしか思えない」と報告しに来た訳である。


「だが、人間が――それも一人二人ならまだしも、千人単位の大人数が一度に姿を消すなどあり得るはずがない。何か理由があるはずだ。良く探せ。どこかに秘密が隠されているはずだ」


 ドッチ男爵の命令で、部下達は総出でこの場所を調べ始めた。

 しかし、彼らの調査はすぐに暗礁に乗り上げる事となる。

 亜人達の歩いた跡も、彼らが使った松明の燃えカスも、排せつした跡も、全てはこの広場とその周りに集中していて、そこから先には何一つ見付けられなかったのである。


「バカな・・・こんな事が・・・俺は亜人共に化かされているのか?」


 ドッチ男爵は呆然と切り立った崖を見つめた。

 彼が見るともなしに見ている崖に、埋まっている小さな白い石。それはコントロール・エンジンの施設の入り口を開く鍵となる、あの白い石であった。

 しかし施設の秘密を知らない男爵にとって、それは何の変哲もない崖の石でしかなかった。

 もし、仮に知っていたとしても、魔力を持たない人間に施設の入り口が開く事はない。

 彼らは最大のヒントを目の前にしながら、その後も全く見当違いな場所を探し続ける事になるのだった。




 時間は戻ってペドゥーリ城。報告に来た騎士の説明は続いていた。


「確かにまだ亜人共の行方は掴めていませんが、現在、ドッチ男爵の指揮で付近の山狩りが行われております」


 業を煮やしたドッチ男爵は、広場周りの捜査を一旦切り上げ、人海戦術によるローラー作戦にシフトしたようである。


「そもそも数千人もの行方が知れない事の方が異常なのです。全軍で捜査を行っている以上、すぐにヤツらを発見出来るものと思われます」


 騎士はそう報告を終えた。(あるじ)の成功を全く疑っていない様子である。

 カロワニーの家臣達もさもありなんという表情をしている。

 この場で納得していないのはただ一人。楽園村のトンネルの秘密を犯罪組織ヴェヌドから知らされている、カロワニー・ペドゥーリだけであった。


「バカな! ヤツらを逃したというのか!? 俺の・・・俺の栄光が。国を救い、後々の世まで語り継がれるという輝かしい未来が。俺の夢が、全て水の泡に消えたというのか・・・そんな事があっていいのか?」


 カロワニーはコントロール・エンジンの事については知らされていなかった。仮に聞かされていたとしても、彼の頭では理解する事が出来なかっただろう。あるいはヴェヌドの方でも、施設の内容までは把握していなかったのかもしれない。

 組織はカロワニーに、『亜人村に、ある場所に繋がっているトンネルがある』という事と、『トンネルを使用するためには亜人村の村長が必要である』という事だけを伝えていた。

 カロワニーにとってはそれだけで十分過ぎる程十分だった。彼にとっては仕組みや理屈などはどうでも良く、自分にとって必要な物である事。それがこの屋敷のすぐ近くにあるという点が何より重要だったからである。

 カロワニーはすぐ目の前に見えていた大魚を逃したショックに愕然としていた。

 その時、ノックの音と共にドアが開かれた。


「申し上げます! ロヴァッティ伯爵からの使者が参りました!」

「狂騎士ドルドの!?」


 部下達にざわめきが広がる中、鎧を着た騎士達がズカズカと乗り込んで来た。


「なっ!? お前達は何者だ! ここをどこだと心得ている!」

「我々はドルド・ロヴァッティ閣下の使者として参った! 閣下からの再三の要請に、一度も返事を返さないのは何故(なにゆえ)だ! 閣下は大変にご立腹されておられる! 閣下はもし、ペドゥーリ伯爵家がこれ以上こちらをないがしろにするつもりなら、我が軍に対しての敵対行為とみなすとおっしゃっているぞ!」

「そ、それは・・・!」


 トンネルをあてにしていたカロワニーは、何くれと理由を付けてはドルドへの返事を先送りにしていた。

 どうやらとうとう、タイムリミットが来てしまったらしい。


「もし、今回も色よい返事が聞けないようなら、このまま一軍を持ってベッカロッテに攻め入り、そのことごとくを奪っていくつもりだがよろしいか!」

「そ、それだけは! どうかそれだけはご勘弁を!」


 カロワニーは縋り付くように使者に頭を下げ、莫大な資金と物資をドルドに送り届ける事で、どうにか許して貰う事が出来たのだった。




 こうしてピンチを切り抜けたカロワニーだったが、彼の苦難はそれだけには終わらなかった。

 今までは王家に義理立てして、どうにか中立を保っていたが、この件で完全にドルドに目を付けられてしまったのである。

 ドルドは便利な資金源として、ペドゥーリ伯爵家から湯水の如く資金と物資を吸い上げていった。

 武力を背景にした恫喝に、カロワニーは抵抗出来なかった。

 更に彼にとって悪い事に、ペドゥーリ伯爵家は周囲からドルドの――反乱軍の一派と見られるようになってしまった。

 ベッカロッテが【西の王都】と呼ばれていた華やかかりし時代は今いずこ。

 信用を失った町からは商人達が離れ、その結果、町からは活気が消え、治安が悪化していった。

 カロワニーはペドゥーリ伯爵家の没落を招いた稀代の暗君として、人々の間に語り継がれる事になっていくのだった。

次回でこの章も終わります。

次回「メス豚と眼下の光景」

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