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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十五章 楽園崩壊編
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その509 メス豚と裏切り者の末路

 この争いを引き起こした元凶、カロワニー・ペドゥーリの目的。それは楽園村のご先祖達が通って来たトンネルにあった。

 おそらくカロワニーは、トンネルの先が何処に通じているか知っているに違いない。

 楽園村の長老達にすら伝えられていなかったその情報を、いかにしてカロワニーが知ったのか、それは分からない。

 だが、ヤツはそれを知っているからこそ、これ程までの手間をかけて、トンネルを手に入れようとしているのだろう。

 トンネルは一体何処に通じているのか? あるいはトンネルの先に何があるのか? 非常に気になる所だが、それはじきに――行ってみれば分かる事である。


「トンネルだと?」


 タイロソスの信徒アーダルトが怪訝な表情を浮かべた。

 しかしそれもほんの一瞬。彼は直ぐにその感情を顔から消し去った。

 それどころか、むしろもったい付けた態度で私に尋ねた。


「それでどうする? そちらがカロワニー様との交渉を望むのであれば、俺がその仲立ちを引き受けてやってもいいが?」

『【ああ、そう言えばそんな話をしてたっけ】(CV:杉田〇和)』


 女戦士マティルダが「どうするの?」と言いたげな目を向けて来たが、お前、アーダルトの態度に乗せられ過ぎ。

 そんなもの、考えるまでもないだろう。答えは”NO”だ。


『【別に必要無い。というか、本当にお前にその権限があるかどうかも怪しい所だし。さっきの反応を見た感じ、お前、カロワニーからトンネルの事を知らされてなかったんじゃない?】』

「・・・・・・」


 私の指摘にアーダルトは何も言い返す事が出来なかった。つまりは図星という訳だ。

 カロワニーがアーダルトにトンネルの件を秘密にしていたという事は、コイツは信用するに値しない相手としか思われていなかった、という事である。

 そんな相手に交渉のつなぎ役を頼む? 冗談じゃない。

 私はアーダルトの申し出をブヒッと鼻で笑い飛ばした。


『【カロワニーにとっても、お前は所詮、薄汚い裏切り者でしかなかったって訳ね。お気の毒様。せっかくカロワニーの尻を舐めてまで、ヤツに取り入ったのにな】』

「なっ!」


 私の何気ない煽りはアーダルトに劇的な変化をもたらした。

 アーダルトの顔に浮かんだのは、怒り? あるいは羞恥? それとも嫌悪感?

 それら負の感情が混ぜこぜになったような醜悪な感情。そんな激しくも荒々しい感情が瞬時にして噴き出したのである。

 一体何がそこまでコイツの逆鱗に触れたのか。

 女戦士マティルダも、こんな師匠の姿は初めて見たらしく、驚きと戸惑いの表情を浮かべていた。


「だ、誰が・・・誰が好き好んであんな屈辱を・・・」

『【ん? あっ! ひょっとしてお前――】』


 ちょっと待って。なんだか不意にピンと来た。

 えっ? でもコレって。ウソ? ホントのホントに? てか、マジで?


『【――ひょっとしてお前、本当にカロワニーの尻を舐めたとか? つまりは、ええと・・・ヤツとヤったのか?】』

「うぐっ!」


 その瞬間、アーダルトは声を詰まらせると、激しく顔を歪めたのだった。




 私の言葉は鋭い刃物となってアーダルトの心に突き立ったらしい。

 アーダルトは怒りと嫌悪感に表情を歪めると、ギリリと奥歯を鳴らした。

 女戦士マティルダは驚きに目を丸くしながら、アーダルトと私を交互に見つめている。


「えっ? えっ? アー兄さんが男と寝たって本当に? アー兄さんって奥さんがいるのに。えっ? じゃあ奥さんが妊娠してるのって、誰の子供?」

「俺の子だ! 誰が好き好んで男なんかと寝るか!」


 アーダルトは吐き捨てるように言い放った。

 ・・・けどまあそうか。

 私は改めてアーダルトを眺めた。

 年齢は二十五、六。男前と言ってもいい整った顔立ちをしている。ちょっとやさぐれ気味な所も、人によっては好ポイントなのではないだろうか?

 背は高目。傭兵をやっていた事もあって、引き締まった細身の体をしている。

 なる程。既婚者という事もあって、今までこんな風にマジマジと見た事はなかったが、こう見ると割とイイ男なんじゃないかな?


「で、でも、じゃあなんで?」

『【あ~、カロワニーって男色家なのよ。日頃はそういう性的指向の者同士で付き合っているみたいだけど、今回は興味の方が勝っちゃったんじゃない?】』


 カロワニーは例の2.5次元系男子、【ベッカロッテの二鳥槍】ともねんごろ(・・・・)だったみたいだしな。

 今回の件はいわゆるアレだ。軽いつまみ食いみたいな感じ?

 あるいはカロワニーは、割とガツガツ行くタイプ――「俺はノンケだってかまわないで食っちまう人間なんだぜ」というタイプだったのかもしれない。


『【外国人で、しかも傭兵というちょっとワイルド系男子。日頃は自分と同じ貴族か男娼を相手にしていたカロワニーにとって、アーダルトは新鮮で魅力的に映ったんじゃない?】』

「へ、へー、そういうモノなんだ。ふぅん。ほぉん」


 若い女子二人(正確には女子とメス豚)からの遠慮のない好奇の目に晒されて、アーダルトは屈辱で体を震わせている。

 本人としては忘れたい過去を晒し物にされているようなものだし、それもしゃーなし。

 しかしこのアーダルトが男とねえ・・・


「ねえクロちゃん。アー兄さんとカロワニー、どっちが上でどっちが下だったのかな?」

『【あ、それ私も思った。BLでは読んだ事があったけど、本物ってどうなんだろう? 攻めとか受けとかって本物にもあるのかな?】』

「びいえる? ビー君から聞いた話だと、戦場って男ばっかりだから、そういう事する人もいるらしいけど、その時は上の立場の人間が――(ヒソヒソ)」

『【あーやっぱそういうのあるんだ。じゃあ例えばさ――(ヒソヒソ)。そういやクロカン(うち)ではそういう話は聞いた事ないけど、亜人の男子は性欲が薄かったりするのかな?】』

「う~ん、同じ村の人達だからじゃない? 後で気まずい思いをするのもイヤだろうし」


 思わぬBL談義に盛り上がる女子二人。

 アーダルトは理解出来ない物を見るような目で私達を見ている。


『【――はあ。このまま話してると何だかどうでも良くなっちゃいそうだし、そろそろケリを付けとくか】』


 裏切り者を見逃すという選択肢は存在しない。例え裏切った先で意に沿わない関係を――男とアッーな関係を強要されていたとしてもだ。

 コイツは私の部下のトトノを殺している。組織のトップとして落とし前はつける必要がある。

 顔なしの【無貌(むぼう)】戦で活躍したお姉ちゃん犬の、弟犬の仇でもある訳だしな。


『【仇と言えば、コイツはビアッチョの仇でもある訳だけど、どうする? 仇を討っとく?】』


 私が半殺しにして止めを刺す形でなら、マティルダの腕前でもアーダルトを殺せるだろう。

 マティルダはアーダルトに振り返った。一瞬、アーダルトの顔に縋るような表情が浮かぶ。

 それを見た途端、マティルダの顔からアーダルトに対しての一切の関心が抜け落ちたように見えた。


「ううん。私はビー君の仇が討てたのだけ分かれば、それでいいや」

『【そう。じゃあこっちで勝手にやっとくわ】』

「ま、待ってくれ! 俺の話を聞いてくれ!」


 諦めな。女心と秋の空。女性の心は移ろいやすいものなのだ。

 マティルダは踵を返すと、アーダルトの声を(バック)にこの場を離れたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 マティルダは少し歩くと、家の壁に背中を預けた。そして見るともなしに楽園村が燃えるのを眺めていた。


「何だか、もう全部どうでも良くなっちゃった」


 アーダルトが自分達を裏切り、弟子のビアッチョに手をかけてまで手に入れた物。

 それがどれだけ価値があるのかは、本人にしか知る由もないが、マティルダには到底割が合うようには思えなかった。

 薄汚い裏切り者として、昔の仲間からは恨まれ、今の仲間からは蔑まれ、主人からベッドに誘われても断れない。

 今のアーダルトはかつての彼よりもずっと情けなく、惨めに見えてならなかった。

 あんな男と知っていれば、自分達は彼に師事する事はなかっただろう。


「ずっとアー兄さんを尊敬していたビー君が可哀想」


 パンパンと乾いた破裂音がすると、小さな足音が近付いて来た。


『【終わったわよ】』


 魔法を使う不思議な子豚、クロ子である。彼女の背中でピンク色の塊が同意するように小さく波打った。

 クロ子からは見えていない(自分の背中なので当然だ)が、このピンクの塊――水母(すいぼ)は、割とこうして体を動かして意思表示を行う事が多い。

 ちなみに水母(すいぼ)は、被検体として常にクロ子の体温、脈拍、呼吸数、血圧などのバイタルサインをモニタリングしているため、その動きを見ていれば、ある程度のクロ子の感情を推測する事も可能である。

 例えばウンタ達、クロカンの隊員達は、水母(すいぼ)の動きを見る事で、「ああ、またクロ子が何か変な事を考えているな」とか「コイツ、俺達に隠し事があるな」などと、クロ子の考えを察している。

 いわば水母(すいぼ)はクロ子専用嘘発見器なのだ。

 この便利な機能は、当然、クロ子本人は全く知らされていなかった。


「そう。分かった」


 マティルダが壁から離れて歩き出すと、その足元にさっきの犬がすり寄った。

 思わずしゃがみ込み、その背を撫でていると、クロ子が注意を促した。


『【あまりのんびりしている時間はないの。火が残っているうちにカロワニー軍を振り切らないと。さっきウンタに連絡したら、マサさんをこっちに向かわせるって言ってたから、彼の案内で味方に合流して頂戴】』


 クロ子はそれだけ言うと、『【風の鎧(ヴォーテックス)】』。自身に身体強化の魔法をかけた。


『【じゃあ私は先に行ってるから】』


 そう言い残すと、黒い小さな体は、驚くような速さで村の中を駆け抜け、あっという間に夜の闇に消えたのだった。

次回「メス豚と青い鳥」

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― 新着の感想 ―
おや〜?どうやらクロ子はちょっと齧ってるのかな?( ¯ᵕ¯ ) 結局、カロワニーとアーダルトと美少年2人は受け攻めどっちだったんでしょうか? 最初はカロワニー×美少年2人・アーダルトだと思っていたん…
弟子を殺してまで付く相手がどれだけの人間かというのを見もせずに判断するところ こういう所がアーダルトが失敗してきた原因なんだろうなって 自分が尽くしてる貴族の上司だから自分を大切にしてくれるだろう み…
カロワニーの男色家設定がこう活かされるとは思いませんでした(笑) 何気ないクロ子の煽りがクリティカルヒットしたのが面白かったです。 騎士団を辞めた後も腐らずに居たら新しい女性騎士団長のもとで 再起・再…
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