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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第二章 修行編
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その48 メス豚、移植手術を受ける

『・・・データ不足。検体・クロ子の観測の継続を決定』


 どうやら超文明の遺産であるピンククラゲをもってしても私は解析不能の存在らしい。

 堂々とストーカー宣言をするピンククラゲ。


 だが、私としてもいつまでも一方的な観測とやらに付き合ってやるつもりはない。

 戦ってでもこの場を切り抜ける!


 私の気配が変わったのが伝わったのだろうか。

 今までだらしなく欠伸をしていたコマがムクリと起き上がった。

 ピンククラゲは相変わらず床でグネグネと触手を動かしている。




 戦ってでもこの場を切り抜ける!


 そう思ってから一時間は過ぎております。


 私は何をしているのかって?


 相変わらずピンククラゲとお話をしているんだよ。

 一度は起き上がったコマも早々に飽きて昼寝に戻ってしまった。


 ストーカー宣言をしたピンククラゲだったが、私達を拘束する事も攻撃を仕掛けて来る事もなかった。

 どうやら本当に観測するだけのつもりらしい。


 てっきり私は、ここに来るまでに戦った角付き生物のように、どこかの部屋に閉じ込められて実験動物のように扱われると思っていたので肩すかしだった。


拘束は不要(そんなのいらない)。建物の中の情報は全てここで観測(モニタリング)されている』


 ピンククラゲが言うには、魔法を使えるようになった動物は角が付く前よりも多少頭は良くなるものの、所詮はケダモノ。

 自由にさせておくと、あちこち徘徊しては他の生き物とケンカをしたり捕食したりと好き勝手を始めるために、やむを得ず隔離していたのだという。


 あ~、そりゃそうか。

 角付き巨大洞窟蛇と角付きドブネズミとが同じ施設にいるわけだしね。

 そりゃあ出会ったらパクリといっちゃうよね。

 閉じ込めていたんじゃなくて保護していたわけか。


 あれ?


『だったら私が殺しちゃって良かったのかな?』

問題無い(いいよ)。クロ子が処理した生物からは既に十分なデータを確保済み(とったから)


 データを集め終わったからもう用済みという事か。


 私はピンククラゲのドライな考え方に不快感を覚えた。


 いや、逆か。

 用済みになっても今まで生かして飼育し続けていたんだから、ここはむしろ人道的?な施設なんじゃないだろうか。

 私達家畜をいずれは食べるために育てる人間よりも、ピンククラゲの方がある意味よっぽど慈悲深いと言えるかもしれない。

 少なくともこの施設は無駄に生き物の命を奪う事はしない。

 ここに来るまでに私は何度も角付き生物と戦ったが、あれだって別にピンククラゲに強制された訳じゃない。

 角付き生物が襲い掛かって来たから返り討ちにしただけだ。

 ある意味、勝手に殺し合いをした野蛮な私達が悪いとも言えるだろう。

 ピンククラゲはそれをここで観察していただけなのだ。


 とはいっても、いいように弄ばれたようで面白くない事には変わりはないがな。


 ・・・まあいい。今はそんな話をしている場合じゃない。

 私には決めないといけない事があるのだ。


『じゃあ私が望めば角を付ける手術を受けさせてもらえるのね?』

肯定(うん)


 そう。私がここに来た目的。

 角による強化。

 そのための情報を私はピンククラゲから聞き出していたのだ。




 この世界の生物の脳には、地球の生物にはない”魔核”という器官が備わっている。

 魔核を使って大気中の魔法伝導物質”マナ”を操作することで起こる物理現象の事を”魔法”という。

 かつてこの惑星で繁栄を極めた前人類。彼らは自らのDNAをいじる事で魔核の機能を強化した。

 前人類の繁栄と衰退の話はさっきしたので省くが、この施設は矮小な魔核であっても十分な魔法が使えるような補助器官を生み出すための研究所だった。

 私が戦った角付き生物はその成功例である。


 一万年という長い期間のうちに研究は進み、現在では技術としてほぼ完成したと言っても良いレベルに達しているらしい。

 なんとこの百年、手術の成功率100%。後遺症ゼロ、という驚きの数値を叩き出しているそうだ。

 これってスゴくない?


 角はあくまでも魔力増幅器官。

 だから魔核の存在しない今の人類に移植しても何の効果ももたらさない。

 だったらパイセン達亜人だったらどうかと言うと、これはこれであまり効果が期待出来ないそうだ。


肯定(そう)。デミ・サピエンス(亜人の事)は大脳が発達し過ぎている』


 さっきも言ったが、魔核は脳の一部として存在している。

 パイセン達亜人は脳が発達し過ぎて、魔核の発育が妨げられているんだそうだ。

 ザックリ言うと、魔核に向かう栄養がみんな大脳に向かっているってこと。


 未発達で貧弱な魔核をいくら強化してもたかが知れている。

 ゲームで言えば、知力Dの戦士職に魔法攻撃力二倍の杖を装備させて魔法を使わせるようなものだ。

 ショボイ攻撃が倍になったところであまり意味がない。要はそういう話だ。


 だったら大脳の発達していない、お馬鹿な生き物の場合はどうだろうか?

 こちらは亜人よりも効果は期待できる。


 とはいえ、それでも限度はあるそうだ。

 何故かって? 魔核が脳の一部である以上、そもそも脳全体の容量の小さな生き物では魔核の大きさ自体が小さいからだ。

 割合が大きくても、全体の脳の大きさが小さければ魔核も小さいのは当然だろう。


 ちなみに魔法をコントロールするためには脳の働きは必須だ。

 魔核が脳の一部である事からもそれが分かる。

 つまり、ある程度は頭が良くないと魔法は効果的には使えない、というわけだ。


 だからこの世界で魔法を使っているのは、ある程度の脳のサイズを持った生き物で、なおかつ大脳の働きに依存し過ぎていない生き物。

 それが恐竜ちゃん達、竜種というわけだ。


『クロ子は例外。計測値からの推測ではクロ子の魔核の出力はDNA強化を受けたホモ・サピエンス(前人類)に近似する(にている)。ただし、正確な値を求めるには解剖を要する』


 うぉい! 解剖とか言うなし! 怖いわ!


 ピンククラゲが言うには、私の魔核の出力はかつて栄華を築いた前人類に匹敵するほどなんだそうだ。

 DNAを改造した人間並みってなんだかスゴくない?

 流石は私。ナチュラルボーンマスター・クロ子と呼ばれているだけのことはあるな。いつも自分で言ってるだけだけど。


 ふむ。つまりアレか。

 人間の脳の重さは約1400g。それに対して豚の脳の重さは約120g。

 1/10のサイズの脳に人間の記憶と知識を無理やり詰め込むために、魔核が発達して何か魔法的な手段で不足分を補っている、という事だろうか?

 言われてみれば私は生まれつき無意識に翻訳(トランスレーション)の魔法を使っていた。

 これも大脳の不足分を魔核で補っているための副産物、と考えれば説明が付く。気がする。


 なるほどなるほど。私の話を聞いてピンククラゲが我を忘れて興奮したのも無理ないか。


否定(そんなことない)そのような事実は(そんなこと)記録されていない(ないったらない)


 何故か私の言葉を頑なに否定するピンククラゲ。

 感情に流されて混乱していた事実を、対人インターフェースのプライドが受け入れられないんだろうか?

 ブヒヒッ。なんだよ、可愛い所があるじゃないの。萌えるわ。


不当(いいや)誹謗中傷(ちがうから)


 ピンククラゲはすっかりへそを曲げてしまったようだ。

 私から目を背けて空中に浮かんだモニター?を操作している。

 ああっ、ごめんごめん、無視しないで。誰にだって触れられたくない過去ってあるよね。

 この話題はもう止めるからこっちを向いて。




 さて。十分な情報は集まった。――と思う。

 後は決断するだけだ。

 私がここに来た目的。魔法力の強化手術。


 正直言って怖い。

 それはそうだろう。謎のピンククラゲに脳みそをいじられるんだ。

 今生では人間を辞めてる私だってそりゃ怖いさ。


 私は目を閉じて思い出す。


 あの日の小屋の火事を。

 私の目と鼻の先でなすすべなく焼け死んだ小さな少女の姿を。


 この心の痛みに比べれば、成功率100%の脳の手術なんて怖くもなんともない。


 これは戦いだ。

 命の軽いこの世界で、自分の命と私の周囲の命を奪われないための防衛戦だ。

 あの時私にもっと力があればあの子は死なずに済んだかもしれないのだ。

 理不尽とは戦う。

 絶対に泣き寝入りだけはしない。

 例え力及ばず倒れる日が来ても、私は最後のギリギリまで敵に食らいつく。

 魔法は私の牙だ。


 心は決まった。

 いや、ここに来る前から決めていた。


『・・・私に”魔力増幅機”の手術をお願い出来るかな』

了承(いいよ)


 ピンククラゲはあっさりと答えると、紐のような手足で何かを操作した。

 シュッと軽い音がすると、壁の一部がスライドした。

 隣の部屋は手術室だろうか? 超文明には不釣り合いな簡易な手術台と機械のアームが見える。


 あれに乗ればきっともう後戻りは出来ない。


 私は緊張にゴクリと喉を鳴らした。


 さっきまで寝ていたコマが起き上がった。

 私の緊張を感じ取ったのだろう。不安そうな様子でこちらを見ている。


『ちょっと行ってくるから、ここで待っていて』

「ワンワン!」


 ダメだ行くな! そうコマに止められてる気がした。

 いや、私の気のせいか。

 ペットに自分の心を投影する飼い主の心理だな。


 私は隣の部屋へと足を進めた。

 コマが私に付いて来ようとする。


『来ちゃダメ! 点火(イグナイト)!』

「キャイン!」


 コマは足元に点火した小さな火に驚いて後ろに飛び退いた。


『心配しないで。すぐに終わるから』

「キューン、キューン」


 コマが今から捨てられる犬のような声で鳴いた。

 私はそんなコマの声に後ろ髪を引かれながら隣の部屋へと入った。

次回「メス豚、意識を取り戻す」

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