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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十五章 楽園崩壊編
495/518

その492 メス豚と闇夜の捕り物

◇◇◇◇◇◇◇◇


 前世の日本とは違い、この世界では夜になると基本、外は暗くて足元もロクに見えない。

 特に今夜は住人の多くが広場に集まっているせいだろう。楽園村はいつもにも増して暗く感じられた。

 そんな夜の通りを私は月明かりを頼りに駆け抜けていた。


『黒豚の姐さん!』

『マサさん! ひょっとして怪しいヤツを見つけたのはマサさんだったの!?』


 ブチ犬のマサさんが、私に駆け寄って来た。

 マサさん達黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊には、集会所からコソコソと離れ、ひと気のない場所に向かう者がいないか、見張りを頼んでいたのだ。

 マサさんはフルフルとかぶりを振った。


『いえ、違いやす。マササンもさっき群れの仲間の合図を聞いて駆け付けやした』


 いつものようにマサさんが自分の事をマサさんと言う事に違和感が。でも、最近聞き慣れてきたせいか、これはこれでアリな気がしてきたかも。

 個性って大事だよね。


『黒豚の姐さん?』

『なんでもない。犬の鳴き声が聞こえて来るのはこの先ね。急ぎましょう』


 マサさんが なかまに くわわった。


 頭の中に国民的RPGの例の楽曲が鳴り響いた。

 などと、それはさておき。私はマサさんと合流すると、現場へと急いだ。

 なんとしても脱出作戦が始まる前に、カロワニー側に通じている内通者を見つけ出さねば。




「ワンワン! ワンワン!」

「ええい! このしつこい犬っころめ! いい加減にしやがれ!」


 路地裏から飛び出すと、一人の男が遠巻きに犬に吠えられているのが見えた。

 犬の方は額に生えた小さな角を見るまでもなく、黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊所属の犬である。

 ならば男の方が内通の容疑者か。

 白い月明かりに男の顔が照らされる。遂に明らかとなった内通者の正体は――


『――ええと、誰?』


 男は見た事もない中年のオジサンだった。

 パッと見の印象としては割といい人そう? どこにでもいそうな感じの、普通のパパといった風貌の中年男性だった。


『てかホントに誰? いやマジで。ひょっとして私が覚えていないだけで、会った事のある人? そう言われて見れば、知っている顔のようなそうでないような・・・』

「おおい、クロ子! よ、ようやく追い付いたぜ!」


 クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の大男、カルネが私の背後から現れた。

 はあはあゼエゼエと息を荒げる武装した傭兵姿の大男に、普通のオジサンは怯えてビクリと体を固くする。

 本当にこんな普通のオジサンが内通者なのか?


『カルネ。あのオジサンが容疑者みたいなんだけど、誰だか知ってる?』

「ああん? いいや、知らねえヤツだな。ん? 俺が覚えてないだけで、どこかで見た事があるんだったか?」


 良くあるオジサン顔に、カルネも自分の記憶に自信が持てないようだ。


「ワンワン! ワンワン!」

「え、ええと、何なんでしょう? 私はこれから家に帰らなければならないんですが」


 オジサンはしつこく吠えかかる犬に迷惑そうにしながら、カルネに尋ねた。


「あ、いや、待ってくれ。少し確かめたいことがあるんだ。ええと・・・あれ? おい、クロ子。これって一体どうすりゃいいんだ?」


 どうすりゃいいって、ホントどうすりゃいいんだろうな?

 私とカルネは困り顔を見合わせた。

 今までは漠然と、容疑者を見つけたら、それで解決するんじゃないかと思ってたのだ。


『てか普通、後ろめたい事をしているのがバレたら、慌てて逃げ出すとか、証拠を隠滅しようと逆に襲い掛かって来るとかするものなんじゃない?』

「だろうな。後、聞かれてもないのにペラペラと言い訳を始めるとかな」


 ああ、そのパターンもあるか。私はどっちかと言えばそのタイプかも。

 私はジッとオジサンの様子を観察した。

 彼の顔からは焦りや恐怖といった感情は微塵も感じられなかった。私の目には、ただの普通のオジサンがただただ普通に戸惑っているだけにしか見えなかった。


『ええと、訓練を受けたスパイというならともかく、内通者はただの村人な訳よね。だったらここまで平気な顔をしてしらを通せるとは思えないんだけど』

「だな。じゃあもうコイツはシロって事でいいか?」

「あ、あの、用事がないようでしたら、そろそろ私は帰らせて貰いたいんですが」


 オジサンはカルネから許されそうな雰囲気を感じて、ホッと表情を緩めた。

 こんな時間にひと気のない場所を歩いているという時点で、確かに怪しいと言えば怪しい存在だ。

 しかしこんな事をしているうちに、本当の内通者から脱出作戦が敵軍に漏れたら本末転倒である。


『分かった、他を当たってみよう。けど、このオジサンを帰すのはダメ。一応、容疑者としてどこかに捕えておいて』

「ま、そんくらいはしゃーねーか。おい、あんた。済まねえが俺に付いて来て貰うぜ」

「ひ、ひいっ! な、何をするんですか! もう用事はないんじゃなかったんですか!?」


 いきなりカルネに腕を掴まれて怯えるオジサン。ちょっと罪悪感。

 カルネが大柄な事もあって、こうしてみるとまるで大人と子供のようである。

 てか、割と背の低い人だったのね。

 我々がオジサンを連れて行こうとしたその時、別の黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬がこの場に姿を現した。

 犬は私の姿を見つけると、嬉しそうに尻尾を振りながら駆け寄って来たが、オジサンに気が付くとハッと飛び退いた。


『ボス! クロ子ボス!』


 犬は男を睨み付け、唸り声を上げた。


『この匂い、忘れる訳がない! クロ子ボス、そいつよ! そいつが私の弟の仇! 大きな館で、弟とボスの群れの人間を殺したのはその人間よ!』


 


 怒りの唸り声を上げる黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬。

 そして、彼の(いや、彼女の?)言う大きな館で殺された弟(犬)と、ボスの群れの人間(こちらはおそらくクロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の隊員の事か?)。


『えっ!? だとするとまさか、大きな館は、ベルベッタ・ペドゥーリの胡蝶蘭館の事!? そして殺された私の群れの人間って、分隊長のトトノ!?』

「なっ! トトノだって!? ってことはコイツは!」

「――チッ」


 カルネが驚きの声を上げたその時、オジサンの口から小さな舌打ちが漏れた。

 そして次の瞬間、オジサンの体があらぬ角度で捻じ曲がると、彼は掴まれていない方の手をカルネの顔面に叩きつけていた。


『カルネ!』

「痛っ! この野郎!」


 カルネは慌ててその場を逃れると、痛みに顔を歪めた。目の横に小さな切り傷がある。どうやら目つぶしを喰らったようだ。

 幸い目には当たらなかったようだが。


「クッ。目玉を潰してやるつもりだったのに――目立たないように小男に化けたのが失敗だったか。目測を誤った」


 オジサンは――いや、オジサンだったものは、目に殺意を漲らせると眉間に皺を寄せた。

 その顔面がビクビクと不気味に脈打つ。


「お、おいクロ子! なんなんだコイツ!? 顔がおかしな事になってやがるぞ!」

『見て、顔だけじゃない! 体が! これって骨格から体を作り直しているって事じゃない!?』


 私達が驚く中、男の手足がみるみる伸びると、身長190センチ程に達した。

 顔も鼻面の伸びた亜人顔から、平坦な人間の顔に。月明かりの下、特徴のない作り物めいた顔が露わになった。


『なっ――!』


 私はこの顔を知らない。だが、こんな芸当の出来る存在の名は知っている。タイロソスの信徒の傭兵、女戦士マティルダから聞かされていたからだ。

 女使用人に化けて胡蝶蘭館に潜り込み、分隊長トトノとタイロソスの信徒ビアッチョを殺し、館の女主人、ベルベッタ・ペドゥーリを殺害した暗殺者。

 自分の顔だけではなく、身長まで自在に変化させる事が出来るという異様な固有魔法の持ち主。

 深淵(マーヤソス)の妖人、最後の一人。


 顔なしの【無貌(むぼう)】。


「マジかよ! 人間が亜人に化けてやがったのか!」


 そう。楽園村に潜む内通者は、その変幻自在の異能の力で人知れずこの村に潜入していた深淵(マーヤソス)の殺し屋、【無貌(むぼう)】だったのである。

 【無貌(むぼう)】は自分の手足の感覚を確認するように、大きく体を揺らした。


「ワンワン! ワンワン!」

「・・・まさか今回も犬が原因で変装を見破られちまうとはな。どうやら最近俺は犬との相性が良くないらしい。特に額に角の生えた犬は最悪だ」


 そうしてチラリと一度、吠えかかる犬を恨めしげに睨みつけると、カルネに向き直った。


「聞かれる前にあらかじめ答えておくが、これが俺の本当の顔という訳ではない。何度も術で変化させているうちに、自分でも元の顔を忘れちまったのさ。まあ、流石に亜人に化けたのはこの仕事が初めてだがね。ああ、それとこの体もそうだ。戦い易いように伸ばしただけで、別にこれが生まれつきの身長という訳ではない」


 そう言うと【無貌(むぼう)】は隠し持っていたナイフを抜き放った。


「俺は顔のない男。顔なしの【無貌(むぼう)】。あの世に行ってもこの名を覚えておくがいい」

次回「カルネvs暗殺者」

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― 新着の感想 ―
無貌ったら聞かれてもいないのに自分の事をペラペラ喋るんだから。 クロ子も居るのに絶対勝つ自信があるのか。
な、なるほどー! まさか無貌が亜人に化けて亜人村に侵入していたとは… 無貌も遊んでるわけないですもんね ちゃんと仕事してた 「え?アンタだれ?」とならないのはクロカンとか外部の人間が混じってるのと 戦…
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