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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十四章 楽園村の戦い編
480/518

その477 メス豚とカロワニーの野望

このお話でこの章は終了します。

◇◇◇◇◇◇◇◇


 カルテルラ山の麓。オカリナ・ガーデンの奥にそびえる堅牢な石造りの屋敷。

 通称ペドゥーリ城。

 屋敷の廊下を小走りで進む一人の貴族。その慌てふためく姿に、周囲の者達が一体何事かと振り返る。

 しかし男は自分が注目を集めている事にすら気付かない様子で、廊下の奥に駆け寄った。

 そのただならぬ様子に、立哨の騎士達が警戒心を露わにする。


「そこで止まれ。約束はあるのか?」

「き、緊急の知らせだ! 大至急カロワニー様に取次ぎをお願いしたい!」

「それを決めるのは我々ではない。ここで用件が言えないというのなら、お引き取り願おう」


 貴族の男はチラリと周囲を見回すと、「絶対に他言無用」と断った上で、声を潜めた。

 男の話は短かったが、騎士達に生じた変化は劇的だった。


「――なっ! そ、それは本当の事なのか?! 分かった! 少し待て! ただちにカロワニー様にお伝えしてくる!」


 騎士の一人が慌てて室内に消えて行った。

 騎士達の慌てぶり。そして貴族の男の取り乱した様子から、ただ事ではない何か(・・)が起きているのは間違いない。

 屋敷の者達が、声をひそめて成り行きを見守る中、騎士が部屋から出て来ると、言葉短く「カロワニー様がお待ちだ」と告げたのだった。




 カロワニー・ペドゥーリは、緊急の来訪者に細い目を向けた。


「それで? 謀反人共の軍勢がこちらに向かっているという話は本当なのか?」


 カロワニーは二十代後半。細い目に低い鼻。えらの張った顔。身長は普通。やせ型。

 総じてパッとしない印象で、この地味な青年が現在のペドゥーリ伯爵家の実質上の支配者と知れば、意外に感じる者も多いのではないだろうか。

 実際、カロワニーの能力は平凡そのもの。

 当主の兄が戦死してさえしていなければ、決して今の立場にいられるような人物ではなかったのである。


「はい。妻の兄がディアーコ伯爵家の家臣をしておりまして、そこから得た情報ですので間違いはございません」

 

 きっかけは少し前。ジェルマン・”新家”アレサンドロがディアーコ伯爵家に送った使者を、狂騎士ドルド・ロヴァッティが独断で捕え、切り殺した事から始まっている。

 後にこの話を知ったディアーコ伯爵は慌てて謝罪の使者を送ったのだが、時すでに遅し。

 激怒したジェルマンは既に討伐の軍を出立させていた。

 総指揮官はイサロ王子。

 ちなみにディアーコ伯爵が送った使者は、途中でドルドによって捕らえられていたので、どうやっても出兵を止める事は出来なかったと思われる。

 サンキーニ王国からの軍勢。しかもその総大将がイサロ王子と知って、ドルドは歓喜した。


「イサロ! イサロだと?! この顔の傷にかけて、ヤツの首だけは絶対に俺自らが切り落としてやると決めていたのだ! だが大モルトに降伏したと聞いて、そのチャンスは永遠に失われたかと諦めかけていたが・・・まさかしぶとく生きていて、しかも総大将となってこの国に攻めて来るとは! これぞ僥倖と言わずに何と言う! 幸運の神ラキラも随分と粋な計らいをしてくれるではないか!」


 未だ戦いの傷が癒えていないこの国が、大モルト軍の力を借りたイサロ王子軍と戦っても百パーセント勝ち目はない。という常識的な意見は無視された。

 ドルドはディアーコ伯爵の制止を振り切ると、軍を率いて王都を出立した。

 目指すは自身の領地、ロヴァッティ伯爵領。

 地の利のある本拠地でイサロ王子軍を迎え撃つつもりなのである。


「ただの謀反人ではありません! 相手は悪名高き狂騎士! 急ぎ何かしらの手を打たなければ、今度こそベッカロッテの町は火の海になってしまいますぞ!」


 ドルドがロヴァッティ伯爵領から王都を目指した時、領地の危機を救ったのがここにいるカロワニー。

 彼はドルドと交渉。彼の軍が領地を通過するのを許す事で、滅亡を回避したのであった。

 貴族の男は今度もカロワニーがドルドとの交渉を成功させる事を期待していた。

 しかし、カロワニーの口から出たのは全くの予想外の言葉だった。


「あの狂人が王都を離れたか。これは好都合。願っても無い展開だ」

「えっ?」


 カロワニーは顎に指を当てると、ブツブツと呟きながら自分の考えに沈み込んだ。

 男は慌ててカロワニーに尋ねた。


「か、カロワニー様。狂騎士の軍と交渉を行わないつもりなんですか?!」

「交渉? なぜ俺が、この【西の王都】の王である俺が、薄汚い謀反人と交渉などしなければならん」


 カロワニーは心底不愉快そうに吐き捨てた。


「ヤツらは俺の栄光の引き立て役。俺が登り詰めるために用意された踏み台でしかない。まあ見ていろ。いずれヤツらは、いや、この国の誰もが俺の活躍を見てアッと驚く事になるのだ。そうだ。そのためにも、ドッチのヤツに発破をかけておかねば。全てはヤツが亜人の村の村長を手に入れられるかどうか、それにかかっているのだからな」


 貴族の男はカロワニーの内面から吹き出す狂気に怯えつつも、なぜここでドッチ男爵の名前が――亜人村の制圧のために送られた軍の指揮官の名前が――出て来るのか分からず、そしてなぜ、カロワニーが狂騎士の軍勢に対処するよりも、亜人の村長を手に入れる事の方を重視しているのかが理解出来ずに、激しく混乱していた。

 カロワニーは家臣が戸惑いの表情を浮かべているのにも気付かず、自分自身の言葉に酔いしれている。

 地味で平凡な男、カロワニー・ペドゥーリ。

 しかし彼の欲望はペドゥーリ伯爵家の実質的な支配者だけでは満足出来ていなかった。

 カロワニーは貪欲な野心に身を焦がしながら、彼のみが知る栄光へと手を伸ばそうとしているのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ブオーブオーと哀愁漂う角笛の音が村に響き渡る。

 これは近所の工場が流す夕方のサイレンの音――ではなく、カロワニー軍退却の合図である。

 我々とにらみ合いを続けていた敵兵は、見張りだけを残し、ケガ人を守りながら後退を開始した。


『ふう。今日はここまでのようね』


 私はバリケードの上でブヒッと鼻を鳴らした。

 初日の激しい戦いから数えて五日目。

 楽園村を巡る戦いは、ちょっとした小康状態を迎えていた。


「クロ子、お疲れさん。とは言っても、最後の方の時間はほとんど戦わずににらみ合ってただけだったんだけどな」


 分隊長のハリィがそう言って苦笑した。

 敵も痛い目にあわされた事で少しは懲りたのだろう。

 こちらに私かサステナがいる時には、あまり派手に攻めて来る事がなくなっていた。

 結果、戦いにもならない消極的な戦い――つまりは、にらみ合いの時間が増える事になっていたのだった。


『とはいえ、流石にこのままって黙っている訳はないと思うけど』


 敵もこちらの狙いが漸減邀撃(ざんげんようげき)戦にある事は気付いているはずだ。

 実際、こうしている間にも、我々の後方では村人総出で次の防衛線が作られている。

 時間を置けば防衛側が有利になる。

 それが分かっていて、このまま手をこまねいているとは思えなかった。


『一応は迂回路を探しているみたいだけど、そっちは上手くいっていないみたいだし』


 戦いに参加出来ないマサさん達、黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬達には、村の周辺の見回りをお願いしている。

 今の所、少数の敵偵察部隊が見付かっている程度で、大きな動きはないようだ。

 まあ、迂回出来るような平坦な土地があれば、とっくに開墾されて畑になっているんだがな。

 村の周囲に残っているのは、切り立った崖とかそういった手の付けられない土地くらい。少数の部隊でならともかく、大軍の移動は困難だろう。


『まあ、手詰まりって意味ならこっちの方が深刻なんだけど』


 私は誰にも聞こえないよう、小さな声で呟いた。

 敵の戦力はおそらく千から二千。全軍がよーいドンで一斉に戦ったら、あっという間に数の差で押し切られてしまう。

 そこで我々はバリケードや土塁を利用して、敵が一度に戦えないように工夫を凝らしている。

 しかしこれは逆を返せば、敵には戦闘に参加出来ない兵士が――遊んでいる兵士が一定数いるという事でもある。

 対して、我々にはそんな余裕はない。ここにいる人間がほぼ全ての全戦力。

 つまり、敵は交代で休憩可能なシフト方式なのに対して、我々は今いる人間が全てのワンオペ状態。

 今はどうにか互角に戦えているが、こんなギリギリがいつまでも続けられる訳はない。

 実際、ケガ人だって増えているし、集中力が切れてうっかりミス、なんて事も起きかねない。

 特に義勇兵辺りが結構怪しい。

 崩れる時には一気にガタッと来る。

 そしてそれはそう遠い未来の話ではない。むしろ明日、そうなったとしてもなんらおかしくはないのだ。


『だからと言って、こっちから動く訳にもいかないし』


 初日の戦いでは、敵の本陣に奇襲をかけたが、あんなバクチは二度も三度も打てるものではない。

 そもそも、昼間の戦闘だけでも十分以上にキツイのだ。

 先程も言ったが、我々には戦力の余裕がない。必要以上の戦闘で余分な体力を消耗する訳にはいかないのだ。

 それでも我々が勝利を目指すのであれば、どこかでリスクを負う必要があるのだが・・・


『くそっ。分かっているんだよ、そんな事くらい』


 失敗したら即座に戦線崩壊というプレッシャーに、私は覚悟を決めきれずにいたのだった。




 この時の私は知らなかった。

 サンキーニ王国から大モルト軍が迫っている事を。そしてそれを迎え撃つべく、ドルド・ロヴァッティの軍がこちらに向かっているという事も。

 そしてそれを知りながら、未だに楽園村を諦めないカロワニー・ペドゥーリの真の狙いさえも。

 仮に知っていた所で、目の前の戦いだけで精一杯の私には、どうする事も出来なかっただろうが。

 楽園村を巡る戦い。

 それは我々を巻き込み、遂にはこの国をも巻き込む巨大な渦になろうとしていたのであった。

 クロ子達の楽園村を巡る戦いはまだ続いていますが、ここで一旦、この章を終わらせて頂きます。

 どうでしょう? 楽しんで頂けているでしょうか?

 この続きは、他作品の執筆がひと区切りつき次第、開始しますので、それまで気長にお待ちいただくか、私の他作品を読みながら待っていて頂ければと思います。


 最後になりますが、いつもこの小説を読んで頂きありがとうございます。

 まだブックマークと評価をされていない方がいましたら、本当に、本当によろしくお願いします。

 総合評価を上げてもっともっと多くの人に読んでもらいたいですから。

 皆様からの感想も随時お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
楽園村の戦いも先行きが見えない中、更なる大きな渦に巻き込まれそうとか凄絶な状況だ・・・。 しかもここで中断とか 生殺しもいいとこですよ。 クロ子達の行く末も気になるが、カロワニーの思惑が何なのか気に…
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