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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十四章 楽園村の戦い編
476/518

その473 メス豚、尻尾を巻く

「イエエエエ!」

『あーもう! さっきから、それ耳障りなんだけど!』


 赤髪の2・5次元キャラ、【(とび)色の】マルテールは、派手な雄叫びを上げながら槍を繰り出した。

 江戸時代、薩摩藩を中心に伝わった剣術、示現流。

 その特徴は初太刀に全てを掛ける、先手必勝の鋭い斬撃にあったと聞く。

 かの新選組組長、近藤勇も、その威力に恐れをなし、隊士達に対して「薩摩の初太刀は避けよ」と警告した程だと言われている。

 蜻蛉(とんぼ)の構えから繰り出される示現流の斬撃は、『猿叫(えんきょう)』と呼ばれる独特の絶叫と共に振り下ろされる。

 そう。まるで【(とび)色の】マルテールのように・・・って、コイツの場合はただの気合いというか、攻撃する時の癖みたいだが。


最も危(エクス)――うわっ!』

「キャオラァア!」


 くそっ。まただ。

 さっきから魔法を使おうとする度に邪魔される。

 今までの戦いの中でも、魔法の発動を邪魔された事は何度かあった。

 大モルト軍の【五つ刃】との戦いなんかはそのいい例だ。

 ヤツらは殺気と言うか、直感と言うか、そういった達人ならではのセンスによって、私の魔法を防いでいた。

 しかし、目の前の男、【(とび)色の】マルテールの場合は違う。

 コイツはそういったあやふやな感覚には頼っていない。マルテールの武器は人並み外れた動体視力。

 そう。コイツは私の魔法の発動を目で見て(・・・・)から反応しているのだ。


『まさか魔核を持たない人間相手に、こんな形で苦戦する事になるなんて。私と相性が悪いにも程があるだろうが』


 私は上手くいかない苛立ちに思わず毒づいた。

 戦いが始まった初期から気付いていた事だが、目のいいマルテールと、攻めて攻めて攻めまくる彼の流派とは、シナジーが――相乗効果が絶妙に噛み合っている。


 魔法が発動するためには、その大前提として魔力操作が欠かせない。

 強力な魔法になる程、高度な魔力操作が必要となる――つまりは溜め時間が必要となる。

 しかしマルテールは私にその時間を与えてくれない。

 距離を取ろうとしても、その予備動作を見てから即座に反応。逃げ道を塞いで来る始末である。

 正に魔法使い殺し。

 【(とび)色の】マルテールは私にとってはバツグンに相性最悪の相手だったのである。


『年がら年中(いくさ)の絶えない修羅の国、大モルトならいざ知らず、まさかすぐ隣の小国にこんなヤツがいたなんて』


 どうやらこの異世界は、私が考えていたよりも懐が広く、大きかったようだ。

 私はいつの間にか自分の力を過信して、井の中の蛙になっていたらしい。


 こうなれば、尻尾を巻くしかない。


 私は奥歯を噛みしめた。

 ここは感情に流されず、そして目を逸らさずに、この厳しい現実を受け入れるべきだ。

 そう。認めるしかない。

 私はコイツには勝てないのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「うおおおっ! なんという槍裁き! これが【ベッカロッテの二鳥槍】なのか!」

「あの二人が戦う所を初めて見たが、なんてすさまじいんだ! まるで(いくさ)神タイロソスが乗り移っているかのようだ!」

「おい、押すな! 危ないって! あんな所に転がり込んだら、俺なんて一瞬のうちに切り刻まれちまうだろうが!」


 カロワニー軍の兵士達は血沸き肉躍る興奮に大きな歓声を上げていた。

 彼らの目の前で戦っているのは、派手な鎧を着た見目麗しい少年騎士達。

 【烏羽(からすば)色の】ダンタニアと【(とび)色の】マルテール。


 ダンタニアの相手は、その名も高い槍聖サステナ。

 マルテールの相手は、強力な魔法を使う謎の子豚。

 二人は敵に攻め込み、相手はなすすべなく防戦一方となっている。

 正に一方的なワンサイドゲーム。

 勝利の予感に兵士達の心は逸り、戦いの場は異様な興奮と熱気に包まれていた。

 しかし、戦っている当の本人達。特にサステナの相手をしている【烏羽(からすば)色の】ダンタニアは、息苦しさにも似た圧迫感を感じていた。


(槍聖サステナ――【今サッカーニ】と呼ばれているだけの事はある)


 素人目には完封しているとしか思えないこの状況。

 しかしダンタニアは密かに焦りを覚えていた。


(完封? いや、違う。俺は今、サステナの手のひらの上で踊らされているだけだ)


 最初の内こそ確かな手ごたえを感じていた。それが変わったのはいつからだっただろうか? おそらく、マルテールが子豚の相手をし始めた頃から。その頃から明らかにサッカーニは余裕を持ってこちらの攻撃を見切るようになっていた。

 それが意味する事は明白だ。


(あの時のサステナは本気で俺と戦っていなかったんだ)


 序盤にサステナが苦戦していたのは間違いない。その時との違いはマルテールが観戦しているか否か。

 つまりサステナは、どうしても意識をもう一人の敵に向けて割かざるを得なかったため、目の前の戦いに集中しきれていなかったのではないだろうか?

 そのせいか、マルテールが子豚と――クロ子と戦い出してからは、明らかにサステナから伝わる気配が変わっていた。


 そいつの相手はクロ子、お前に任せた。これでようやくこの小うるさいガキを落ち着いて仕留める事が出来るようになったぜ。


(――っつ!)


 ダンタニアはサステナの幻聴を聞いた気がして、大きく間合いを取った。

 兵士達は、圧倒的に有利な状況にもかかわらず、急に攻撃を止めたダンタニアに、戸惑いの表情を浮かべた。


「はあ、はあ、はあ・・・」

「――ふう。ようやく仕切り直しか。散々、好き放題やってくれたもんだ」


 激しく息を荒げ、滝のような汗を流すダンタニア。

 対してサステナの方はというと、多少は息が切れていたようだが、それも直ぐに静まり、今は軽く槍をしごいている。

 この対照的な二人の姿に、周囲の兵士達もようやく事態が飲み込めたようだ。

 異様な熱気も急速に冷めやり、今は逆に不安そうな表情を浮かべ、固唾をのんで戦いの行く末を見守っている。


 ここでサステナはチラリとクロ子と【(とび)色の】マルテールとの戦いを確認した。

 こちらの戦いも一方的。攻めるマルテールに対して、身軽な動きでその全てを躱すクロ子。

 しかし、戦いの開始直後とは違い、クロ子の動きにはどことなく余裕があるようにも感じられる。

 するとサステナの視線に気付いたクロ子がキッと眉を吊り上げた。

 そして何かブツブツ言ったかと思うと、こちらに向いて男の声で怒鳴った。


【サステナ! テメエ、人にコイツを押し付けておきながら、自分はのんびりサボってんじゃねえよ! とっとと片を付けてこっちを手伝いやがれ!】(CV:杉田〇和)

「「「喋った?!」」」


 まさか人間の言葉を喋るとは思わなかったのだろう。

 この場にいる全員が驚きの声を上げた(※サステナを除く)。

 なにしろ、直接クロ子と戦っているマルテールですら、あまりの驚きに動きを止めた程である。

 サステナは「はん」と鼻を鳴らすと、ダンタニアに向き直った。


「聞いての通り、クロ子のヤツが焦れてるみてえだから、カタぁ付けさせて貰うぜ。ここからはなるはや(・・・・)で行くぜ」

「――くっ。来い」


 ガキン!


 甲高い金属音と共に火花が飛び散る。

 サステナの一撃をダンタニアはどうにか防いだが、先程までとは打って変わってその顔は硬く強張り、表情からは余裕がなくなっていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


『隙あり! 最も危険な銃弾(エクスプローダー)!』

「うおっ!」


 【(とび)色の】マルテールが、私の声に驚いて動きを止めるという大チャンス。

 しかし、マルテールはすんでのところで体を反らすと、不可視の弾丸を躱した。

 しまった! 今のは顔面を狙わずに、胴体を狙うべきだった!

 これはアレだ、QBK。サッカー日本代表のストライカー〇沢の迷言『急にボールが来たので』。

 どうやら私は急にチャンスが飛び込んで来た事で、つい焦って早目に勝負を決めに行ってしまったようだ。


 それはそうと、お前さっき、コイツには勝てないって言ってただろうって?

 尻尾を巻くって言ってたのは何だったんだって?


 勝てないとは言ったが、負けるとは言ってないがそれが何か?


 私とマルテールは確かに相性最悪。

 何の対策もしていない状況で、このまま戦い続けても勝つのは相当に困難だと言える。

 じゃあ対策さえしてれば勝てるのかって? そりゃまあ、必ず勝てるとまでは言わないけど、普通に勝ちの目くらいは出て来るんじゃない?

 だが、ここでそんな「たられば」を語っていても仕方がない。

 戦いはもう始まっているのだ。今は限られた手札だけで勝負しなければならない。

 今の私が持っている最強の手札(カード)

 それは言うまでもなく、槍聖サステナである。


 私の見立てでは、【ベッカロッテの二鳥槍】は一対一でならサステナの敵ではない。

 これは例え【(とび)色の】マルテールと言えども例外ではない。

 コイツが強いのはあくまでも私に対してのみ。それも相性が大きく関わっているからであって、相性抜きの素の実力だけで言えば、今まで見て来た達人達の平均値から大きく逸脱はしていない。

 私的剣豪ランキング上位のサステナとはものが違うのである。

 素質は認めるし、動体視力の良さにはひょっとしてサステナも苦戦するかもしれないが、アイツも大概に化け物だからな。

 余程の番狂わせが起きない限り、最後はバッサリ、【梵鐘(ぼんしょう)割り】の餌食にしてしまうだろう。


 ならば私の取るべき策はただ一つ。

 サステナがもう一人の【二鳥槍】、【烏羽(からすば)色の】ダンタニアを倒してくれるのを待つのだ。

 徹底的に守りに徹して、サステナの参戦を待ち、二対一の数的優位を作り出してから圧倒する。

 他力本願だって? サステナ頼りで恥ずかしくないのかって?

 どこに恥じる必要がある訳? これって別にスポーツでもなければ武道の試合でもないから。死んだら全てがお終いの命の奪い合いだから。

 そもそも戦争は戦力差のある非対称戦が当たり前。

 持てる力の全てを使って勝つ。それが戦場のルールであり、生きて明日を迎えるためのセオリーなのだ。


「「「わああああああっ!」」」


 その時大きな歓声が、いや、悲鳴が上がった。

 思わず振り返った我々が見た物は――


「ダンタニア・・・お前・・・まさかそんな、ウソだろ?」


 そう。そこには血の付いた槍を持ったサステナと、鎧を真っ赤に染めながら地面に転がっている【烏羽(からすば)色の】ダンタニアの姿があった。

次回「メス豚と片翼の鳥」

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