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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十四章 楽園村の戦い編
474/518

その471 メス豚と白粉《おしろい》騎士

 一掬いの水でも、私が手にしたならばそれは立派な武器になりえる。

 それがお湯ならばなお一層強力な―――ましてや沸騰した熱湯となるともはや―――

 それは兵器。


『まるでショットガンだッッ』

意味不明(なにかのパクリ?)


 パクリとは失礼な。オマージュと言ってくれ、オマージュと。

 名付けてクロ子流・環境利用闘法。

 元ネタは私が尊敬するキャラクター、ガイア。

 ガイアを知らないというアマチュアは、各自ネットでググる事。

 ネット配信等でBA〇Iアニメ本編第23話『本当の攻撃』を視聴するのも可。


『てな訳でジャンジャン行くぞ! 円弾(ペレット)×10!』


 魔法が発動すると、沸騰したお湯が鍋から飛び出し、円盤状の弾丸となって周囲の兵士に襲い掛かる。

 例え兵士達が鎧を付けていようがマントを羽織っていようが、全身をくまなく覆い隠している訳ではない。

 熱湯は僅かな隙間から容赦なく彼らの服に染み込むと、兵士達は肌を焼く熱さに悶絶した。


「ギャアアア!」

「あああ熱つ! 熱つ!」


 おお痛そう。

 まさに、あえんびえん。


『訂正。阿鼻叫喚(あびきょうかん)


 そう、それな。阿鼻叫喚。

 私の背中でピンククラゲが、今日はツッコミが追いつかないんですけど、とでも言いたげな様子で、クキリと触手を曲げた。

 その時、混乱していた兵士が、勢い良く走って来た騎士に蹴り倒されて地面に転がった。


「どけどけ! ザコが僕の邪魔をしてるんじゃないよ!」


 派手な鎧の若い騎士だ。日本で言えば、高校生か大学生くらいか。癖のある赤髪を腰の辺りまで伸ばしている。

 赤毛の下には、整った端正な白い顔。

 先日戦った深淵(マーヤソス)の妖人、【手妻(てづま)陽炎(かげろう)】も化粧をしていたが、こちらの方が何と言うかガチ度? が違う。

 例えて言うなら怪しい色気? 明らかに『美人な自分大好き』といったナルシスト感が、ビシバシと見る者に伝わって来る感じだ。

 そんな白粉(おしろい)騎士の背後から、二人目の白粉(おしろい)騎士が現れた。

 おいおい、美形男子が連続して登場とか。ここはいつから2・5次元ミュージカルの舞台になったんだ?

 赤髪と黒髪の二人の2・5次元キャラの登場に、槍聖サステナは『ウゲッ』っと、心底イヤそうな顔になった。


「くそっ! 【ベッカロッテの二鳥槍】かよ! しまったな。そういやコイツらがいるってのをすっかり忘れてたぜ」


 【ベッカロッテの二鳥槍】? ああ、そう言えば物見やぐらの上から敵軍を観察していた時、サステナがそんなヤツらの話をしていたような。

 そうそう。確か、色鮮やかな南国の鳥みたいだと言ったら、アレがそんな可愛いモンかよとか言われたんだっけ。


「オラオラ! お前ら聞こえなかったのか! ザコは下がれと言っただろうが!」


 赤髪の白粉(おしろい)騎士は味方の兵士を怒鳴り付けた。

 てか危な。抜き身の槍をブンブンと振り回すもんだから、周りの兵士達は慌てて転がるようにして彼らから離れている。

 私の背中でピンククラゲ水母(すいぼ)がフルリと震えた。


要警戒(やばたんで)

『うん。分かってる』


 殺伐とした戦場にはミスマッチなキラキラとした2・5次元キャラ。

 一見、ファンタジー系ライトノベル定番の無能貴族のバカ息子を思わせるが、数々の死線を経験して来た私の直感は激しく警鐘を鳴らしている。

 あれはそんな生易しいタマじゃない。そもそも、あのサステナが大人しく様子見をしている事からも分かるように、間違いなくこの二人は強い。

 おそらくは達人クラス。最悪、サステナに匹敵する剣士である可能性すらあるかもしれない。

 黒髪の白粉(おしろい)騎士が、赤髪の行動をとがめた。


「マルテール。味方の兵士がケガをしたらどうする。乱暴なマネはよせ」

「僕の邪魔をするコイツらがいけないんだろ。さあ、場所は出来たぜ。なあ、お前が【今サッカーニ】なんだろ? 僕の名前はマルテール・アルメドーラ。【(とび)色の】マルテールなんて呼ぶヤツもいるけどな」


 赤髪の白粉(おしろい)騎士改め【(とび)色の】マルテールはサステナにそう告げると、次に私を見て微妙な顔になった。

 なんぞ?


「【今サッカーニ】はなんで戦いの場に豚なんて連れて来てる訳?」


 ああ、うん。まあ普通そう思うわな。




 どうやら【(とび)色の】マルテールの目には、サステナはペット連れで敵の陣地に襲撃を仕掛ける変人に映った模様。

 なんというか、ごもっとも。これにはサステナも苦虫を噛み潰したような表情になっている。


「・・・クロ子。テメエ笑ってんじゃねえよ」


 違った。サステナは私が面白がっているのを見て不快に思ったようだ。

 すまんこってす。ブヒヒのヒ。

 【(とび)色の】マルテールは「そんな事はまあいいや」と、一歩足を踏み出した。


「それより今日はそっちから攻めて来たんだ。今度は逃げたりしないよな?」

「ああん? 俺がいつ誰から逃げたよ?」


 サステナは少年の安い挑発に反応。額にピキリと青筋を浮かべた。 


「待て、マルテール。約束が違うぞ。初太刀は自分で行くと決めていたはずだ」

「そんなの二人でやればいいだろ。目の前に【今サッカーニ】がいるんだ。お預けなんて酷すぎるぜ」

「マルテール。サステナとは一対一で戦うと決め、お前もそれに納得したはずだ」

「・・・ちっ。分かったよ。けど、無理そうなら直ぐにそう言えよな」

「勿論だ」

「ふん。どうだか。ダンタニアはプライドが高いからな」


 どうやら二人は事前にサステナとはタイマンで勝負すると決めていたらしい。

 【(とび)色の】マルテールは肩をすくめると、残念そうに後ろに下がった。


 クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)と義勇兵による敵陣襲撃は未だに続いている。

 ここはそんな喧噪の中にポッカリと空いた奇妙な空間。

 私も含め、この場にいる全員は、槍の達人サステナと彼を狙う二人の若き騎士が生み出すヒリつくような緊張感に目を離す事が出来なくなっている。

 黒髪の白粉(おしろい)騎士ことダンタニアが、槍を手にサステナの前に進んだ。


「自分の名は言うまでもないだろうが、先程マルテールが名乗った事だし、礼儀として一応は言っておこう。自分の名前はダンタニア・ピスタバ。ピスタバ男爵の三男。【烏羽(からすば)色の】ダンタニアと呼ばれている」


 なる程。(とび)色――赤黒い茶褐色と、烏羽(からすば)色――青みのある黒い色か。

 それぞれが二人の髪の色であり、(とび)(からす)という二羽の鳥の名が、【二鳥槍】の異名にかかっているという訳だ。敵ながら上手い事言いおるわい。

 顔を火傷で赤く腫らした兵士が、慌てて少年騎士に声を掛けた。


「お待ち下さい、ダンタニア殿! おそらくこの男は槍だけではなく、怪しい術も使います! 手も触れる事無く熱湯を飛ばすというものです!」


 ん? それって私の円弾(ペレット)の魔法なんだが――って、そういう事か。

 人間は脳に魔核を持たない。つまりは魔力の動きも分からなければ、魔法の発動も感じ取る事が出来ない。

 彼ら的には円弾(ペレット)の魔法は怪奇現象。夕食用の鍋から突然熱湯が飛び出し、自分達に襲い掛かって来たとしか思えない謎現象だったのだ。

 一応はサステナの関与は疑っているようだが、流石にそこまで。

 まさか彼が連れているこのキュートな子豚ちゃんが魔法を使ったとまでは思いつかなかったようだ。

 それならそれで好都合。敵の注意が私に向いていない状況を何か利用出来るかもしれない。

 私はコッソリ気配を消すと、「私には人間の言葉なんて分かりませんよ」「どこにでもいるただの子豚ですよ」という無害アピールをするのだった。

 兵士の説明に【(とび)色の】マルテールが興味を示した。


「へえ。どうするダンタニア? やっぱり僕も手伝ってやろうか?」

「――必要無い」


 【烏羽(からすば)色の】ダンタニアは少しだけ迷いの表情を浮かべたが、結局、仲間の助けを借りる事はなかった。

 自分の腕に対しての自信もさることながら、【(とび)色の】マルテールが言ったようにプライドの高い性格をしているのだろう。


「そんなもの、【今サッカーニ】が小細工を弄するような隙を与えなければいいだけの事だ」

「サッカーニ、サッカーニとしつこいぜ! 俺の名はマルコス・サステナ! サッカーニってのはウチの流派の名だ! 俺の名前みたいに言ってんじゃねえよ!」


 サステナはそう吠えると、彼の相棒、【梵鐘(ぼんしょう)割り】を鋭く突き出した。


 ガキーン!


「うぐっ!」

「オラ、さっきの威勢はどうした! 脇がお留守だぜ!」

「おいおい、どうしたんだよダンタニア! 押されているんじゃないのか?!」

「――黙れマルテール! 勝負はこれからだ!」


 【(とび)色の】マルテールの野次に【烏羽(からすば)色の】ダンタニアは発奮。一歩前に足を踏み出すと同時に攻勢に出た。


「むっ」


 今度はサステナが唸り声を上げる番となった。

 【烏羽(からすば)色の】ダンタニアの使う槍はサステナの槍よりも細くて短い、いわゆるショートスピアと呼ばれる武器である。

 短い分だけ距離を詰めなければ攻撃は届かないが、軽い分だけ普通の槍より取り回しは良くなる。

 攻撃は最大の防御。これは先手必勝と並ぶ戦いにおける最善手、いわば鉄則である。

 【烏羽(からすば)色の】ダンタニアが得意とする戦法は、とにかく攻めて攻めまくる事。

 一撃の威力を重視するのではなく、手数を増やして徹底的にアドバンテージを稼ぐ。

 剣の相手には槍の長さを生かして遠い間合いで。槍の相手には懐に飛び込んで近い間合いから。

 彼はショートスピアという中途半端な長さの槍を、実に巧みに使いこなしていた。


「これは・・・す、スゴイ。まさかここまで一方的な戦いになるなんて」

「さすがは【ベッカロッテの二鳥槍】。サッカーニ流の槍術師範がまるで子ども扱いじゃないか」


 目の前の一方的な展開に、周りを取り囲んでいる兵士達から興奮の声が上がる。 


 まあ、お前ら素人にはそう見えるんだろうな。

 私はブヒっと鼻を鳴らした。

 そう言うお前に何が分かるんだって?

 勿論、私も槍の戦いについては全くの素人だ。けど、今日一日、戦場でサステナが戦っている所を何度も見た事で、彼の腕前は良く分かっているつもりだ。

 その私の見立てで言わせて貰えば、確かに相手は一方的に攻めてはいるが、サステナはその全ての攻撃に完全に対応している。

 いわば今は様子見の時間。【烏羽(からすば)色の】ダンタニアは見た目ほどの余裕はないはずである。

 そして少しでも攻撃にほころびが見えたその瞬間、瞬時にして今の攻守が入れ替わるだろう。

 そこで待っているのはサステナの重い一撃。

 攻撃を防がれ続け、疲れ切ったダンタニアにその一撃が防げるかどうか。


 果たして子ども扱いされているのはどっちの方かな?


 私は『これはなかなか見ものだわい』と、戦いの行方を見守るのだった。


 しかし、私の予想に反して先にしびれを切らしたのはサステナの方だった。そう。あの身勝手男が周りから、「一方的にやられている」という目で見られて、我慢が出来る訳がなかったのだ。

 サステナは無理やり隙を作りだすと、私に振り向いて怒鳴った。


「クロ子! テメエ、俺にだけ戦わせて自分はサボってんじゃねえ! こっちを見ている暇があるなら、とっとと【二鳥槍】のもう片割れをぶっ殺しやがれ!」


 サステナの叫び声に、周囲の兵士達、そして【(とび)色の】マルテールは、驚きの表情でこちらに振り返った。

 おのれサステナ。あの野郎、余計な事をしやがって。

次回「メス豚vs鳶色のマルテール」

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― 新着の感想 ―
あ、あー 「これは不意打ちでマルテール撃破できるかな?」と思ってましたが >おのれサステナ。あの野郎、余計な事をしやがって。 ホントにそうです。もう。 >「さすがは【ベッカロッテの二鳥槍】。サッカー…
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