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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十四章 楽園村の戦い編
470/518

その467 メス豚、誤魔化す

 堀を飛び越え、土塁を駆け上がった私は、バリケードの上で叫んだ。


水母(すいぼ)、全員に通達! 【あーあー。こちらクロ子! 全軍、現在の持ち場を放棄! 事前に決めておいた手順に従い、速やかに次の防衛陣地へと後退せよ! 以上! 各自復唱!】(CV:杉田〇和)』


 一拍間を置いて隊長達からの返事が帰って来た。


『「副長ウンタ、了解。後退を開始する。マティルダ、今の声は聞こえたな?」

 「ええと、こちらマティルダ。聞こえているけど、これって本当にクロちゃんが喋っているんだよね? 声の違和感がスゴイんだけど」

 「第一分隊、分隊長カルネ! 次の陣地に下がるってんだろ?! おい、みんな、移動開始だ!」

 「――こ、こちら第二分隊、分隊長代理モンザ! こっちはかなりヤバイ状況だ! 手を貸してくれ!」

 「第三分隊、分隊長コンラ。タイミングを見て俺達も後退する」

 「第七分隊、分隊長ハリィ。後退、了解。ていうか、さっきからサステナの姿が見えないんだが。おおい、誰かサステナがどこにいったか知らないか?!」』


 次々に入る報告。ええと、一旦纏めようか。


 第三分隊が守っている村の西側陣地は、今の所問題無く戦えているようだ。

 村の中央左右に配置されている第一分隊と第七分隊の陣地は、さっき私とサステナが助けたばかり。

 でもって、当のサステナは行方不明、と。

 問題は東側陣地の第二分隊。どうやら後退もままならない程に押し込まれているようだ。

 あそこには義勇兵のリーダー、亜人兄弟の兄ロインもいたはずだが、やはり分隊長のトトノが抜けた穴は大きかったらしい。

 私は頭の中に村の地図を思い浮かべた。


『ここからだと、さっき助けた第七分隊の陣地を挟んだ反対側になるのか。こりゃガチで急がなきゃヤバそうね』


 私は『風の鎧(ヴォーテックス)!』。身体強化の魔法をかけて走り出そうとした――が、その途端、水母(すいぼ)のスピーカーから聞こえて来た大声に思わずつんのめってしまった。


『「おう、サステナだ! おおい、クロ子! 聞こえてるか?! 敵を追いかけてたらヤバそうになってる味方を見つけたんで助けに来てやったぜ。おおりゃあ! テメエら気合入れろコラァ!」』


 声デカ。 

 それはそうと、ヤバそうになってる味方? サステナのヤツ、今、一体どこにいるんだ?

 私の疑問は生じた直後に解消した。


『「クロ子、聞こえるか?! こちら第二分隊モンザ! 俺達は突然現れたサステナのおかげでどうにか無事に後退出来そうだ! 今から移動を開始する!」』


 あ~なる。サステナのヤツ、私を捜しながら(あるいは調子に乗って?)戦っている間に、隣の部隊の守備範囲まで行ってしまったのか。

 なんといううっかりさん。

 お前もさっきまで調子に乗って敵を深追いしてただろうって?

 そんな昔の事は忘れたよ。

 とはいえ、今回はサステナの無軌道ぶりに助けられた形である。


『【あーあー、クロ子、了解。こっちは様子を見ながら、一度後ろの物見やぐらまの所まで戻るわ。サステナ。あんたも適当な所で切り上げて、私と合流して頂戴】』

『第二分隊モンザ了解! サステナだが、何て言うか、あんなに怒鳴りながら戦って、よく息が苦しくならないもんだな。あれじゃ今のお前の声も聞こえて無さそうだし、戻って来たら俺の方から伝えとくよ』


 マジかよサステナ。これじゃ何のためにわざわざ水母(すいぼ)に翻訳してもらったのか分からんのだが。

 周囲を見回すとカルネ達、第一分隊の隊員は既に後方に下がっていて姿は見えない。

 逆に敵の方はと言うと、さっきまでの私の暴れっぷりに恐れをなしているのか、遠巻きにして近付いて来る様子もない。

 後方に下がるのなら今がチャンスだろう。


『第一ラウンドは無事終了、って所か。どう思う水母(すいぼ)? 私の見たてでは今の所こっちサイドの判定有利って感じだけど?』

情報(データ)不足。可不可なし(どちらもアリ)


 どちらもアリ、ね。慎重なジャッジだな。

 客観的に見て、敵には間違いなくダメージを与えているはずだ。

 だが、カロワニー軍と我々では、うんざりする程戦力差が大きい。

 仮にこちらが敵兵を数十人、戦闘不能にしようが、千人を超える敵の規模からすればほんの数パーセント。誤差のようなものである。

 逆にこちらは十人も減ろうものなら、戦線の崩壊すらもあり得る。

 敵にはミスが許されているが、こちらは一つのミスが命取り。

 この戦いはそんな我々に圧倒的に不利なハンデマッチ。

 そう考えるなら、水母(すいぼ)の厳し目ジャッジも致し方ないのかもしれない。




 私が物見やぐらに戻ってからしばらくして。

 サステナが水を飲みながら戻って来た。


『ブヒッ【あ、サステナお帰り】(CV:杉田〇和)』

「ん? クロ子、なんだお前、土を食ってんのか? 腹が減り過ぎてとうとう頭が変になっちまったか」


 土を食べるって、私はミミズか。いくら()が悪食でも、流石に母なる大地(ガイア)まで食べようとは思わんわ。


「ブヒブヒ【豆だよ豆。エノキおばさんが差し入れしてくれたんだよ。それよりさっきはご苦労さん。大活躍だったみたいじゃない】」

「へっ。大した事はしてねえぜ」


 サステナは言葉とは裏腹に、まんざらでもなさそうな顔で鼻の下を擦った。

 リアクション、古。昭和か。

 まあ本人の歳を考えると、世代的には古いセンスじゃないのかもしれんが。


「ブヒッ【昭和乙】」

「しょうわ? そりゃ亜人の食い物か何かか? それより少し休ませて貰うぜ、あー、よっこいしょっと」


 サステナはオッサン臭い掛け声をかけながら、私の横に腰を下ろした。


「んで? 次はどうするよ?」

「ボリボリ、ボリボリ【ん~、相手の動き待ちかなー。今は第一防衛線のバリケードを壊しているみたいだし】」


 さっきまでやぐらの上から見ていたが、敵は我々が放棄した陣地を確保した後、バリケード等、障害物の撤去作業に移っていた。

 確かに、後続の事や退路の確保を考えれば、それも理解出来るのだが、ヤツらにとっては我々亜人は山野に隠れ住む原始人。

 正直、防衛線を抜いた勢いのままかさにかかって攻め込んで来るだろうと予想していたので、意外と言えば意外だった。


「ボリボリ【慎重と言うか、獅子は兎を狩るにも全力を尽くすと言うか。我々をたかが亜人と侮らない辺り、相手の指揮官はかなり手強いヤツなのかもね】」

「指揮官? 何を言ってるんだお前は?」


 私の言葉に、サステナは呆れ顔になった。


「さっき戦ったヤツらは文字通りのザコ。使い潰し前提の消耗品だ。あいつらの役目は本隊がやって来る前の露払い。大体、たかが亜人の村を制圧するのに、伯爵家の正規軍が最初から本気を出す訳がねえっての」


 あれ? 私、何か勘違いしてた?

 ていうか、前提を間違ってた?

 私はカロワニー軍の本隊と戦っていたつもりだったけど、実際に現れたのは斥候部隊。いわば威力偵察の相手をしていただけだったって事?

 いや、マジか。

 ちょっと待って。私、水母(すいぼ)に、『今の所こっちの判定有利って感じ』とか、ドヤってるんだけど。これってかなり恥ずかしくない? とんだ勘違い野郎みたいになってない?


 過去の自分の言動を思い出し、思わず黙り込んでしまった私に、サステナはなおも無慈悲に追い打ちをかけた。


「まあ、意外と戦いになっている事に浮かれてた義勇兵達とは違い、お前の所の隊員達は薄々察していたみたいだがな。そりゃまあ、現場にいるのが兵士ばかりで、目立った指揮官の姿が無かった時点で気付くヤツは気付くわな。後退の指示が出た時に、義勇兵達の中には『まだ戦える』とかぬかしていたヤツもいたが、アイツらちゃんとその辺りを諭してたぜ。良かったな。頼りになる部下達で」

『・・・・・・』


 なんという死体蹴り。隊員達が気付いていて隊長の私が気付いていないとか。

 止めてサステナ! 私のライフはもうゼロよ!

 私は無言で残った豆をサステナの方へと押しやった。


「ん? なんだクロ子。もう食わねえのか?」

『・・・(グイッ)』

「だから何でそんなに押し付けてくるんだよ。腹が膨れたのなら残しゃいいだろうが。俺にくれるってのか? いや、ンなモンいらねえって」

『・・・(グイグイ)』

「何だよ、さっきからしつっけえな! そんな土まみれの食いかけの豆なんているかよ! そもそも人間はお前と違って生の豆なんて食わねえんだよ!」


 いいから、いいから。黙って食いねえ。

 生き物はその構造上、口に物が入っている時には喋れない。つまり私はこれ以上、心を抉る言葉を聞かずに済むという訳だ。

 なんという完璧な策。

 さあ、さあ。私を助けると思って、コイツを口いっぱいに頬張ってくれい。

 私の傷付いたハートを守るために食ってくれい。




 私とサステナとの心温まる戯れ(?)は、エノキおばさんの叫び声によって遮られた。


「クロ子ちゃん! 敵が動き出したよ!」


 来たか!

 私は『風の鎧(ヴォーテックス)』。身体強化の魔法をかけると、やぐらの上に駆け上った。

 確かに。

 敵はバリケードの撤去を終え、再び前進を開始していた。

 しかし、さっきまでとは違う点が一つある。


『あれは、敵軍の指揮官ね』


 そう。敵に奪われた陣地内にチラホラと、鎧の騎士の姿があった。

 本格的な進軍に先駆けて、一部の部隊が先行して村に入ったのだろう。

 探り合いをしていた時間は終わったという事か。

 これから始まるのは本格的な戦い。少しの気のゆるみも許されない綱渡りのような防衛戦。

 楽園村の存続と未来、そしてこの村で生まれ育った全ての亜人達の尊厳のかかった、決して負けが許されない戦いが始まったのである。

次回「ペドゥーリ伯爵家の屋敷で」

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